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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
96/143

◆第96話




「シェイラ様!」


サーシャはシェイラがまだ生きていることを確認すると、再びシェイラの名を呼んだ。

金色の瞳と青色の瞳がかちあう。

しかしそれを遮るように、庭師がその間に割って入った。

途端に険しくなるサーシャの表情。


「貴様がシェイラ様を!」

「邪魔しないでもらえるか。あと少しなんだ」


その言葉に、険しかったサーシャの顔が更に険しくなる。

その顔が示すのは怒り。


「王族を攫ってただで済むと思うな!」

「攫ったなど人聞きの悪い。シェイラ様はご自分でこちらにこられたのだ」

「そんなわけがないだろう!」


サーシャはそう言って、剣を構える。

鈍い光が、その剣先が、庭師であった彼に向けられた。

剣が向けられたというのに、庭師は怯えもひるみもせずにじっと、サーシャの剣を見つめる。

そして数秒後。

庭師はフッと、まるで小ばかにするように力なく笑った。


「まさか青騎士の団長ともあろう方がそのような無鉄砲な方だったとは」

「なんだと?」


ピクリとサーシャのこめかみが動いた。

それを目にした庭師はにたりと気味の悪い笑みを浮かべた。


「一体あなたは誰を相手にするおつもりなのでしょうか」


そう言って庭師は自分の腕を左から右に振る。

たったそれだけで、水の刃が生まれた。

サーシャはそれを咄嗟に剣で防ぐ。

しかし防ぎきれなかった水の刃が、容赦なくほかの青騎士を襲った。

サーシャの後ろから数名のうめき声が聞こえ、思わずサーシャは苦悶の表情を浮かべた。


「あなたが相手にするのは精霊師ですよ。ああ、それとも彼のがよかったか?」


そう言って、庭師はちらりと壁に寄り添うようにして立っているドータラスを見た。

すでにドータラスが持っている剣は鞘にはおさまってはおらず、その剣には赤が滴っていた。

なんとも気の早い男だと、庭師は思った。


「殺していいんだろう?」

「かまわん」


庭師の答えにドータラスはにやついた笑みを浮かべて、青騎士たちを見た。

そのおぞましさと狂気に、思わずサーシャも息を呑む。

サッと、ドータラスに向けて己の剣を向けた。

それは防衛反応とも言えよう。


「しっかし女が相手とは・・この前から美人ばっかり相手にしてるなぁ」

「侮る気か」

「まさか。俺はいつだって全力だぜ?」


ドータラスはそう言って、壁にくっつけていた背を浮かせた。

すでに彼の側には数人の青騎士が倒れている。

それが余計にサーシャを苛立たせて、そして焦らせた。

そんなサーシャのことなど知らないドータラスはサーシャに力の限りその剣を振り下ろした。


――ガキィンッ


高い金属音が鳴り響いた。

サーシャの腕はびりびりとその衝撃で痺れたが、なんとかそれを防ぐと横に薙いで剣をはじく。

その間に他の青騎士は庭師を捕らえようとするが、見事に魔法の餌食となっている。


「ほらほら余所見をしてる暇はないぜー?」

「っ!」


サーシャは向かってくる剣に息を呑むと、剣を受けては流してという行動を繰り返す。

明らかに防戦一方である、

攻撃を繰り出す暇がないといえばそれだけであるが、それ以上にドータラスの剣の腕前がいいのだ。

そしてサーシャの腕にも限界がある。

暴力的なまでに力強い一撃たちが、サーシャの腕をゆっくりと、しかし確実に痺れさせていた。

そんな様子を見ていた庭師は、息をするかのように魔法を使い目の前にいる青騎士たちを蹴散らしていく。

死にはしないものの、確実に致命傷を与えていく彼の姿に、青騎士たちは恐れすら感じた。


「精霊師に何の細工もない剣とは・・なめられたものだ」


そう言って庭師はシェイラのほうへと向き直る。

両手首と両足首を拘束されているシェイラは身動きをとれずにいたが、その震える金色の瞳で庭師を睨みつけた。


「そう怯えることはない。シェイラ様は私の妻の一部になるのだから」

「ふざけるな!シェイラ様は生きて帰られるのだ!」


庭師の呟きにサーシャが反応した。


「おいおい、お前の相手はこの俺だぜ?」

「ぐっ!」

「サーシャ!」


シェイラを助けようと立ち上がったサーシャの腕に、ドータラスの剣が勢いよく刺さる。

それを目の当たりにしたシェイラはサーシャの名を呼んだ。

サーシャは痛み耐えながらドータラスを睨みつける。

ドータラスによって剣が引き抜かれたため、サーシャの腕からは血が溢れ出た。

青色の騎士服が赤黒く染まっていく。

膝こそつかないものの、サーシャはすでに戦える状態ではなかった。

利き腕である右手は今しがた剣を刺され動かせないほどに血を流しているし、おまけに左腕はいまだに痺れていて使いものにはならない。

満身創痍、絶体絶命、そういう状態だった。


「その女を殺せ。邪魔だな」

「言われなくても」


庭師はどこまでも冷たい視線をサーシャに向けると、もう用は無いとでも言うように背を向けてシェイラへとその目を向ける。

そんな庭師の姿を見たドータラスはボロボロのサーシャを見て、血を流す剣を振ってその血を落とした。


「そこそこ楽しかったぜ?でもまぁ女がこの俺に適うわけはないんだよなぁ」


そう言ってドータラスはサーシャに振りかぶる。

サーシャに剣を持つ腕はない。

そして逃げるほどの余裕も彼女にはもうなかった。

殺されると、咄嗟に目を瞑った。


「「団長!!」」


青騎士の悲壮な声が聞こえた。

ああ、死んでしまうとサーシャは悔しく思う。

その刹那。

彼女の耳に届いたのは自分の悲鳴ではなく剣と剣がぶつかる音と、自分のすぐ側を何かが勢いよく飛んでいった風を切る音だった。

そっと目を開けると、自分のすぐ後ろの壁に短剣が刺さっていた。


「おいおい、まさかこんな所でくたばりかけてるとは笑えないな」


緊迫したこの場にはあまりにそぐわない声色だった。

バッとそちらを見れば、サーシャの瞳に映ったのは幼馴染の姿。

その後ろには、あまりの惨状に顔を顰めているエドワードと、倒れている青騎士に何かを施すマーシャルの姿があった。


「客が増えたな」


庭師は振り向きざまにそう言うと、青騎士たちに何かを施すマーシャルをだけをその目に映した。

その鋭い視線に気が付いたマーシャルは青騎士から庭師へと顔を向ける。


「ふん・・とりあえず姉さんは死んでおこうか!」


ドータラスはそう言って、振り上げたままだった剣を振り下ろす。

しかしそれはエドワードによって簡単にふさがれてしまう。

キラキラと赤く煌めくその剣は、ドータラスの剣を受け止めると力の限りで押し返した。


「この前ぶりだな。まさかこんなところにいるとは思わなかった」

「俺はここで出会うとは思ってなかったよ」


ドータラスはにやりと笑う。

なんとも楽しそうだ。

そんな2人の姿を見ながら、マーシャルは自分の隣に立つエリックを見上げた。


「あそこ、普通なら団長様が助ける場面では?」

「俺もそう思っていたんだが、予想以上に俺の部下が優秀だった」


なるほど、とマーシャルはエドワードを見た。

どうやらエドワードはなかなかに空気を読むのが苦手らしいと、マーシャルはどうでもよいことを思いながら、倒れていた騎士たちを治癒していく。

どんどん怪我を治していくマーシャルの姿にどこからか「聖女だ・・」という声が聞こえてきたが、マーシャルはあえて聞こえていないふりをした。


「姉さま!」


シェイラの声が聞こえた。

その声に反応してマーシャルはそちらを見ると、金色の瞳と目が合った。

艶があり指通りのよさそうだった黒髪はくすんでボサボサとなり、透き通っていた肌は黒く汚れていて、衣服は汚れてボロボロであった。

それでも泣くことなく、あの場にいるのだから、マーシャルはさすがだと少しばかり見直した。


「さて、お姫様救出作戦決行だな」

「そんな作戦ありました?」

「いや、名ばかりだ、気にするな」


どこまでも緊張感のないエリックにさすがのマーシャルも呆れてしまった。

さえ、戦いは始まったばかりである。








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