◆第92話
更新が遅くなりました(__)
ほんとごめんなさい・・
エドワードの見事な考察により、城の中では大々的にシェイラの捜索が始まった。
もう数時間すれば日が暮れだす。
捜索の時間はかなり限られていた。
近衛騎士として王城に務める青騎士を纏め上げるサーシャは指揮をとりながら焦っていた。
彼女の本来の護衛対象である最高権力であるキャレットは、今日は青騎士団の副団長が護衛についている。
「まだ見つからんのか」
そう周りに問うてみても、返ってくるのは首を横に振るという反応ばかり。
サーシャは焦りとともに苛立ちも感じていた。
黒のように汚れることもなければ、赤のように隠密になることもない、白とは別で花形とも言われる青。
君主たる王族を護り、そのお側に立つことが許された唯一の存在。
それが、近衛騎士とも呼ばれる青を纏う彼ら――――青騎士だった。
彼らは王族を護るのだ。
そのため、いつでも緊張を持って仕事をしている。
しかし、彼らの中に例外がいることも事実であった。
剣を護るための道具ではなく、魅せるための道具として扱う、名ばかりの騎士である白騎士に所属することのできなかった者たちの存在だ。
サーシャはいつだって、彼らの存在を排除したいと考えていた。
しかしそれが簡単にできないのは、彼らが由緒ある貴族の子息だからであった。
結果として、このような事件が起きてしまったわけであるが。
「相変わらず荒れてるなー」
青騎士としてのプライドが高いサーシャに声をかける人。
それもとてもフランクに。
それはサーシャが子どもの頃より顔見知りであり、いつまで経ってもサーシャを認めようとしない男。
幼馴染で犬猿の仲として噂の黒騎士団団長エリック。
サーシャが騎士になると言って家を飛び出さなければ、彼女の夫となっていただろう人物。
サーシャは自分に視線を向けるエリックを睨み付けるようにして見た。
「何か用ですか」
その声はどこまでも冷たく棘がある。
その言葉にエリックは何も言わずにただ含み笑いを見せるだけだ。
「おいおい、いつもの鉄仮面っぷりはどうした?随分と余裕がないじゃないか」
「・・あなたには関係ありません。そもそもどうしてあなたがここに?あなたの仕事はここではなく外でしょう」
鉄仮面。
少々女性に向けて言うには厳しい言葉である。
しかし、そう言われても頷けてしまうほど、サーシャは普段から無表情なのだ。
彼女が笑うことは少なく、怒っている時でさえも無表情であるときが多い。
単に表情が乏しいだけであり、喜怒哀楽がないわけではない。
サーシャなりには示しているつもりだが、相手に伝わることは少なく、そんな感情をいつだって読み取ってくれるのは犬猿の仲だと言われるエリックだけであった。
「外ならエドが行ったよ。交代だ」
「そうですか。なら滞っている書類整理をぜひこの時間におやりください。ヒュース殿が復帰される前に」
「あ?宰相殿が復帰?とうとう過労で倒れたか?」
「そのようです。先ほど医務室に運ばれましたから」
サーシャは淡々と言ってのけた。
実際はその顔に心配の色を浮かべているのだが、その表情はどこまでも無表情だ。
「そうか。で?捜索のほうはどうなったんだ?まぁその様子じゃ聞かなくてもわかるが」
エリックはサーシャに対していつだって一言多い。
それにたいして、いつも黒騎士たちが残念そうに見ていることを彼は知らない。
そしてそれがサーシャの怒りのボルテージを上げるのに一役買っているということも。
「邪魔なので帰っていただけますか?邪魔なので」
エリックの言葉にサーシャは苛立たしげに、そしてわざとらしく同じことを2度言ってエリックを睨む。
剣こそ抜きはしないものの、お互いにすでに臨戦態勢である。
バチバチという音が聞こえてきそうなほど、互いに睨み付けあう。
「団長!」
「「なんだ」」
お互いに団長という立場にいるサーシャとエリックは、騎士の言葉に同じ言葉を返す。
そしてそれが気に入らずに睨みあう。
それに慄く青騎士。
「ここは城の中だ。お前の部下がいるわけがないだろう。馬鹿が」
「なんだと?団長なんて4人いるんだよ。紛らわしい呼ばせ方をしているお前が悪いんだろう」
「なんですか?」
「なんだよ?」
何とも不毛な言い争いである。
「あ、あのっ!」
「「なんだ」」
また睨み合う。
声をかけた青の騎士は小さなため息をつくと、そんな2人の様子などもはや気にすることなく報告をする。
「庭師の活動範囲を推測して捜索にあたった結果、特に怪しいものは見つからなかったということです」
「「そんなわけないだろう」」
「・・・・・・・そうですね」
青騎士はぼそりと呟くように言う。
しかしその呟きは目の前にいる2人には聞こえていないように思う。
なぜなら2人はまた睨み合っているからだ。
息がピッタリなのはいいことだが、事あるごとにこうして睨み合われては話が進まない。
青騎士は言いはしないものの、エリックが本当に邪魔に見えて仕方なかった。
「活動範囲ってのはどこを調べたんだ?」
「主に彼が生活していた場所ですね」
「具体的には?」
「彼の家、彼の仕事場である庭園、道具小屋、それと彼が以前魔法師であったときに使っていた部屋ですかね」
その言葉にエリックは「ふむ・・」と顎をさする。
その様子を忌々しげに見つめたサーシャは報告をした青騎士に問うた。
「全く怪しいところはなかったのか?」
「報告を聞く限りでは、ですが。ああ、ただ彼の家には研究資料が山のようにあったとのことです」
「研究資料・・ということは研究自体は家でやっていたのか」
そうすれば誰かに見られることはそうそうない。
それならばなぜその研究資料が家に置きっぱなしなのか。
「もういらないのか?」
「そうだろうな。準備は整ったってやつか」
「準備とは?」
「マーシャル嬢の考えが正しければ、禁忌の魔法を発動させるための別の命と魔力ってやつか」
その言い方にサーシャは眉を顰める。
エリックの言う別の命と魔力というのは間違いなく攫われたシェイラをさしている。
サーシャはエリックに限らず、この話題を出されると、自分の不甲斐なさを感じてしまうのだ。
「そもそもエドは王城にまだいると言ったが、王城にいるならば見つからないわけがない」
こんなにも騎士がのさばっていて、かつ魔法師団によって魔力探知が行われているからだ。
これだけの包囲網を抜け出せるとは到底考えにくい。
しかし現実に庭師であった彼は今もなお、この包囲網から逃れ続けている。
その理由を考える。
自分たちが見落としている盲点はなんだ。
「ああくそ。何を見落としている?どこならば隠れることができる?」
エリックはやけくそに自問自答を繰り返す。
そんなエリックに、サーシャは何かを思いついたように言った。
「もうここにいないんじゃないか?」
「それはない」
サーシャの言葉にエリックは即答で言う。
それに対してサーシャは眉を寄せるという反応を返した。
「王城の門は一つだ。その門には常にお前たちが交代制で寝ずの番をしているだろうが。少なくともシェイラ様を門の前で見たという報告は上がっていない。それに、何か動けば魔法師団のほうで何かしらの反応が見られるはずだ」
エリックはそう言って、また考える。
もし自分が犯人だったならばと仮定して考えてみるものの、どれだけ考えてみてもこの城から出て行くという方法しか浮かんでこない。
エリックには騎士たちの目を掻い潜る自信はそれなりにあったが、専門でもない魔法師団の魔力探知については掻い潜る自信がなかった。
「・・・こればっかりは専門に聞くしかないな」
エリックはそう言うと、サーシャの腕を掴むとなんとも強引に歩き出したのだった。




