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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
91/143

◆第91話





時は一刻を争う。

マーシャルの仮定が事実ならば、シェイラの命はないということになるからだ。

庭師が妻の蘇生を始める前に、何としてもシェイラを見つけ出して助けなければならないのだから。

騎士たちは色など関係なくシェイラ捜索開始した。


「で、なんで私まで借り出されてるんですかね」


マーシャルは重たい瞼をこすって、エドワードを睨み付けた。

シェイラ誘拐の関係者として話し合いに参加し、隠し通路の捜索にあたったマーシャルだったが、体力勝負のシェイラ捜索に参加する予定はこれっぽっちもなかったのだ。


「そう言うな。この状況まで持ってきたのはシャルだからな。そのよく回る頭は役に立つと、死にそうなヒュースが言っていた」

「そういえば大丈夫なんですか?死んでないですよね?」


縁起でもないことを2人して話しているが、聞いている周りはたまったものではない。


「死んではないが、そのうち過労死するんじゃないか?」

「目の下すごかったですもんね」


人があれほどのくまを作るのに一体どれほどの時間を仕事に費やしたのだろうかと、夢中で魔道具を改造しているマーシャルも疑問に思う。

それほどに、この国の宰相という地位は忙しいのだ。


「さて、それよりシェイラ様の捜索だ」


エドワードはそう言うと、以前マーシャルが隠し通路から出てきた場所を見下げた。

彼らは今、隠し通路を抜けた先にある森に来ていた。

普通ならばどこが隠し通路の出口なのかわからないはずなのだが、マーシャルがなんとも不器用に出口を塞いでくれたおかげで、手間なく出口を見つけることができたのだ。

しかし、出口を見つけたところで、道という道がほとんどない森の中では意味がない。


「副団長!」

「どうした?なんか見つかったか?」

「森の奥に小屋がありました!」


黒騎士の告げた言葉にエドワードは顎をさする。

何やら考え事をしているようだ。


「何かあったか?」

「いえ、特に何も」

「そうか」


またしてもエドワードは考える。

しかしどれほど考えたところでなにも浮かんではこなかった。

そのためエドワードは仕方なくその小屋に向かうのだった。


「うわ、本当にありましたね」


エドワードの後ろをついてきていたマーシャルは小屋を見てそう呟いた。

こんな森の奥に、小さめの小屋が一つ。

なんとも不思議な空間だった。

エドワードとマーシャルは小屋の中に足を踏み入れる。

中は少しカビ臭かった。

先ほど黒騎士が言ったように、小屋の中には本当に何もなかった。


「使われてたのは随分と前だな」

「そうみたいですね。蔓がここまでのびてますよ」

「ここは関係なさそうだ。また振り出しだな」


2人は小屋から出ると、森の中をぐるりと一度見渡した。

まだ太陽は高い位置にあるため、木漏れ日が木々の間から差し込んでいる。

心地よい風も吹いている。

シェイラの捜索がなければ、お弁当でも持ってピクニックしたいくらいの場所だった。


「なぁシャル」

「なんですか?」


エドワードは何かを考えながらマーシャルを呼ぶ。

それに首をかしげるだけの反応にとどめたマーシャルは、無心で持ってきた籠の中に草をちぎっては入れていく。


「さっきから思ってたんだが何してるんだ?」

「素材集めです」


その言葉に脱力したのは誰だったか。

どこまでもぶれないマーシャルにエドワードは呆れていた。


「草も素材になるのか?」

「なりますよ。水を入れながらすりつぶしていけば粘りが出る草もありますし、乾燥させて粉にして使う草もあります」


マーシャルはせっせと草をかき分けて選別していく。

その後ろ姿はもはや研究者のそれだ。


「お前、シェイラ様か草かどっち探しに来たんだよ」

「それはもちろん!・・シェイラ様です!」

「今の間はなんだ、今の間は」


草集めに熱中しすぎて思わず草だと即答しそうになったマーシャルは、自分がここに来た経緯を思い出して言い直す。


「だって私今日まで全く魔道具いじってないんですよ!拷問ですよ、拷問!今日こそはって思ってたのに起こされて森に連れ出されるし!これくらいしないと発狂しておかしくなりそうなんです!」


マーシャルはエドワードに烈火のごとく言い募る。

その気迫にエドワードは少し押され気味に「そうか」とだけ言った。


「ただでも転ばないってシャルみたいなやつのこと言うんだな」

「褒め言葉として受け取っておきますね」

「・・褒めてないけどな」


エドワードはまだ昼だというのに疲れてしまった。

そんなエドワードとは対照的に、マーシャルは鼻歌でも歌いだしそうな気分で草をむしっている。

かごには名前すらもわからない雑草ともとれる草たちがどんどん入れられていく。


「そういえば、」


ブチブチっという小気味いい音の後にマーシャルは思い出したように切り出す。

その言葉にエドワードは何も言葉を発さずに視線だけで問う。


「なんで庭師様はわざわざ抱えていったって嘘ついたんですかね?もともとここを通る予定なら引きずらなきゃいけないのはわかってたと思うんですけど」


マーシャルはうーんと唸ったものの、その目に別の草を映して、考えることから採取に切り替える。

どうやらすでにマーシャルの中では目的がすり替わっているようだった。

しかし、これを聞いたエドワードは妙な引っ掛かりを覚えて考え込む。


「想定しなかったのか?ここを通ることは。・・・いやしかし、」


ぶつぶつと独り言を言うエドワードとそれを気にすることなく雑草の採取に明け暮れるマーシャルの姿に、この様子を見ていた黒騎士はなんとも複雑な気持ちになるのだった。

そして、なんともシュールな場面を見てしまったと、後に後悔することになった。


「エド、ちょっと不気味ですよ」


エドワードがたっぷり独り言を言い終えたころに、マーシャルはまるで今気が付いたとでもいうような雰囲気でそう言った。

今更感がすごかった。

しかしエドワードはそんなマーシャルの言葉を気にすることなく、「そうか」と一言言った。

それは相槌とも納得ともとれる言葉だったが、マーシャルは気にすることなく再び顔を下に向けた。


「シャル。城に戻るぞ」

「どうぞ」

「違う。お前もだ」

「ええ!?まだ取りきってませんよ!」

「お前の所望する量を取ろうと思ったらこの森がはげる」


エドワードはそう言うと、2人の会話を見守るようにして聞いていた黒騎士たちに城へと戻るように指示する。

指示が出された黒騎士たちは命令通りに、各々城へと戻っていく。

その光景を見たマーシャルは何とも不満そうな顔をエドワードに向けた。


「残って帰ってこれるのか?」

「いや無理ですけども」

「なら帰るぞ」

「帰るって、シェイラ様はどうするんですか」

「お前がそれを言うか」


エドワードは深い溜息をついた。

なにか言いたげではあったが、これ以上その場にいると他の黒騎士とはぐれてしまうため、エドワードはマーシャルの腕を掴んだ。


「なんで戻るんですか?」

「おそらくだが、シェイラ様はあの隠し通路は通っていない」

「通っていない?え、なんでそんなことわかるんですか?」


ツカツカとエドワードが歩く。

その後ろから、腕を掴まれているマーシャルが小走りでついていく。

どうしても歩幅が合わないのだ。


「あの庭師は抱えていったと嘘を言ったんじゃない。あれは言い間違えたんだ」

「言い間違えた?なんで?」


マーシャルは走りながら、かごの中から草が落ちないようにおさえた。


「実際にあの隠し通路を通ってないからだ」

「え、でも隠し通路を通ったのはクマでしょ?」

「それさ、嘘っぽくない?」

「嘘か本当かって聞かれれば、そりゃ嘘っぽいですけど」


クマがシェイラを運んだなど、どんなお伽話だと思ってしまう。

それくらい、現実からかけ離れた話だ。


「そもそもクマは通ってない。通ってないから言い間違えた。それなら、シェイラ様がいるのはどこだ?」


シェイラ誘拐事件が起こってから、城では厳戒態勢が敷かれており、王都はおろか、城門から外に出ることはできない。

それこそ、隠し通路でも使わない限り。

しかし、隠し通路が使われた形跡はない。

それが意味すること。


「シェイラ様はまだ城の中?」

「そう考えるのが妥当だ」


エドワードはマーシャルがいつか見た、人の悪そうなニヒルな笑みを浮かべた。




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