◆第83話
―――そうそうたる顔ぶれだわ。
マーシャルは部屋にいる全員の顔を見てそう思った。
疲れきった顔のマーラと青騎士とヒュース。
難しそうな顔をした青を纏う彼らの団長。
そして椅子に腰かけながら頭を抱えているこの国の最高権力。
そこに飛び込むようにして入ったエドワードとマーシャル。
一体今からここでなにが話し合われるのか、傍から見れば想像はできない。
「マーシャル嬢は初めましてかな。青騎士の騎士団長サーシャ・ゲルレイだよ」
「はじ、めまして。マーシャル・レヴィと申します」
マーシャルは挨拶をしつつも、内心でかなり動揺している。
それに、隣にいるエドワードは気が付いているようで、ヒュースに紹介された、自分の上司と犬猿の仲にある青騎士の団長を見た。
糸を連想させるほど細く、絹のようなさわり心地だろうと思わせる、金色の髪は高く結われている。
意志の強そうな瞳は海のような青さで、どことなく黒騎士の団長であるエリックを思い出させる。
「・・女性の、方だったんですね」
マーシャルは小さく呟く。
そう。
青騎士の団長は、稀にしか見ることのない女性だった。
サーシャは1歩前に出ると、マーシャルをじっと見据える。
それだけで、マーシャルの背筋は伸びてしまった。
「噂は聞いている。青騎士団団長サーシャ・ゲルレイだ。以後、よろしく頼む」
簡素な言葉がマーシャルの耳に聞こえた。
とてつもなく綺麗な声だったのに、騎士らしい硬い言葉だった。
サーシャは自己紹介だけ済ませると、元の位置へと戻っていく。
彼女は、女性でありながら国王陛下直属の護衛でもあったのだ。
「さて、早速ですが、本題のほうに入らせていただきますね」
ヒュースはそう言うと、ため息を一つついた。
「あのー、何で私ここにいるんですか?」
進行をしようとするヒュースに、マーシャルが思わず待ったをかける。
シェイラの行方不明に関して全く関係していないマーシャルは、自分がここにいる必要はないと感じたのだ。
議会でも開いて話し合うべきだと思っている。
「そうですね、悪くいうと重要参考人というところですかね。ここ最近、シェイラ様はマーシャル嬢と一緒にいることが多かったので」
そう、ヒュースに笑顔で言われてしまえば、マーシャルは黙るしかない。
「本当は議会で話し合うべきなんですけどね。あれらは王位継承の話にしか興味がないようでしたので」
ここで話をしているんです、という言葉が、この部屋にいる全員に副音声で聞こえてきた気がした。
「最近のシェイラ様は特に変わりなかったですか?」
「なかったと思いますよ。少々お転婆になられたくらいで」
「本当にそうですよね」
「はい?」
「はい?どうかしましたか?」
「・・いえ、なんでもないです」
ヒュースの言葉の半分ほどは聞き流すほうが賢明であると、マーシャルはこのとき学んだ。
ヒュースは紙にマーシャルが言ったことを簡単にまとめていく。
スラスラと書きながら、ヒュースは再び質問を始める。
「では今日のシェイラ様は?」
「は、はい!今日は、普段通り起きられて、朝食をお取りになられました。その後、午前中は式典での言葉を考えるから下がってよいと言われて、昼食をお持ちしました。昼食もきちんと食べられたあと、シェイラ様は本を読むから呼んだら来てとのことで、私たちは下がりました」
マーラは泣きそうな声で言った。
そんな様子を気にも留めずに、ヒュースは紙に書き留めていく。
マーシャルが聞いている限りでは、今日のシェイラの様子に特におかしいところはなかったように思う。
「で?お前は?」
「はい。昼の交代をしてすぐ、シェイラ様が部屋から出てこられました。リーソフィア様を迎えに行くと言っておられました」
「・・ついていかなかったの?」
「それが・・お聞きした際に、すぐに侍女があとをって来るから問題ないとおっしゃられて」
青騎士がそこまで言ったときに、ガタンッという音が聞こえた。
それは一瞬。
空気が揺れた刹那。
瞬きをしたその一瞬で、青騎士はサーシャによって剣を首に突きつけられていた。
「貴様それでも青騎士か!」
「も、申し訳ありませんっ!!」
「サーシャ。剣をおさめろ」
「しかし、」
「おさめろと言っている。いらぬ血を流すな」
「・・はい」
キャレットの言葉にサーシャは剣をしまうと、すぐにキャレットの側に控える。
剣を突きつけられていた騎士は顔面蒼白だった。
王都の治安を守る黒騎士たちは常に危険と隣り合わせと言われているが、王族の警護にあたる青騎士たちは常に緊張を持って仕事をしなければならない。
青騎士たちはいつでも思っている。
目の前のものが全てだと思うな、惑わされてはならない、絶対に、と。
「しかしリーソフィア様の元へは来ていない。なら一体どこへ行かれたのだ」
シェイラの私室から、リーソフィアがいたであろう私室まで、城の中を出ることもなければ、10分もかからない距離だ。
この城に10年以上住んでいるシェイラが道を間違えるということも考えにくい。
ならば必然的に考えられる結論は一つだ。
シェイラが誘拐された。
これが事実ならば、式典どころではない。
しかし本当にそうであれば、いろいろと不可解な点が残る。
一体誰がどうやってこの騎士たちの目を欺いて城の中に入り、どのようにして城の中にいるシェイラを誘拐したのか。
それを説明できるだけの証拠がない。
再び、静寂が7人を包んだ。
と、マーシャルが部屋を見渡してあることに気が付く。
「そういえば、クマがいませんね」
「クマ?」
「はい。この前ここに来たときに、そこの棚にいたんですよ。これくらいのサイズのクマのぬいぐるみ」
マーシャルは手を使ってクマのぬいぐるみの大きさを表す。
かなり大きいとは言えないが、マーシャルが両手でぎゅっとできるほどの大きさがあったクマが、シェイラの部屋からなくなっていた。
「ク、クマのぬいぐるみなら、シェイラ様がリーソフィア様に持っていくとおっしゃって、持っていかれました!」
「クマを?」
「はい!」
青騎士は、自分たちの団長であるサーシャに再び剣を向けられないかビクビクしている。
そんな青騎士を哀れに思いながら、マーシャルはクマの話からシェイラが行方不明になった手がかりを見つけることに思考をうつす。
誰もが思考の中にまどろんでいたときだった。
「失礼します!」
という声が聞こえてきた。
誰もが重たい口を開けない部屋で響いた、騎士の声に、全ての目が向く。
注目された騎士は少し身構えながら、自分の斜め後ろに立つ初老の男性を見た。
マーシャルもその老人には見覚えがある。
彼はこの王城に植わる全ての植物を管理する庭師だった。
「どうした」
サーシャは青騎士に連れられてきた老人を見ながら、目だけを彼らに向けて問う。
たったそれだけの動作に、青騎士は肩をビクリと大きく揺らした。
「庭師がシェイラ様を数時間前に見たとのことです!」
「本当か!?」
「シェイラ様はどこに!?」
青騎士の言葉に、今度は異なった意味で、そこにいた全員が庭師を見た。
シェイラが見つかったと、このとき誰もが思った。
これでやっと、またいつもの少しだけ慌しい日々に戻れると。
しかし、それは甘かったと気付かされる。
「そ、その・・クマが。・・クマのぬいぐるみが、シェイラ様を抱えていきました、」
庭師は怯えながらも、はっきりとした口調でそう言った。
それは信じられない話。
しかしここにきてつくような嘘ではない。
どうやら謎は更に深まったらしいと、マーシャルはため息をつきながら思った。
やっと王女様編の話が進みます(^^)
王女様編いつ終わるんでしょうか・・?




