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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
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◇第8話



王都に住まう、この国の賢王には3人の子どもがいる。

陛下と正妃であるオリヴィア様との間に生まれた王位第一継承権を持つ王女シェイラ様と第三継承権を持つリーソフィア様、側妃であるレイチェル様との間に生まれた第二継承権を持つ王子ディートリア様。


3人とも王族の証である金の瞳を持って生まれたという。

しかし、それがいけなかった。


正妃との間に王女しか生まれなかったがために側妃を娶り、待望の王子が生まれたのだが、2つ上の王女のほうが何と秀でていた。

第一王女であるシェイラは、聡明で賢く、王の器を兼ね備えた美姫であり、第一王女を王位へという声は高い。

しかしそれを側妃が許さない。

王子を産んだのだから、王子を王位へおくべきだと彼女は言う。


王城は現在、王位継承で荒れに荒れていた。

そんな中起こった奇妙な事件。


『宝石箱が王女を食べた』。


寝言は寝て言えと誰もが思ったが、王女の部屋に王女はいつまで経っても帰ってはこない。

部屋にあるのは、キラキラと光る宝石が嵌めこまれた、やたらに大きな宝石箱のみ。

おまけに、王女が宝石箱に食べられる瞬間を侍女が目撃している。

そして、その宝石箱は鍵などついていないのに開かない。


「・・・これが6日ほど前に起こったことです」


にわかに信じがたいエリックの言葉に、マーシャルは涙を引っ込め、レイモンドは目をぱちくりとさせる。

宝石箱が王女を食べた。

ありえないだろ、普通、と笑い飛ばしたいところだが、深刻に言うエリックに、マーシャルとレイモンドは現実なんだと認める。

そもそもこんな場所までそんな冗談を言いにくるほど、黒を纏う騎士団は暇ではない。


「それで?」

「精霊に愛されたあなたならば、どうにかできないかと思い、うかがわせていただきました」


なんとも傍迷惑な・・と、マーシャルは出かかった言葉を呑み込む。

しかしレイモンドは隣に座るマーシャルの瞳を見て気が付いてしまう。

自分と同じ真紅の瞳が、キラキラと、まるで宝物を見つけた幼子のように輝いていたことを。

まずい、とレイモンドは思う。

マーシャルはすでにその人を食ったという宝石箱に興味を持ち始めている。


「精霊は魔石をつくったり加護を与えてくれるだけで、自分で力の行使はできません。そもそも壊すだけならば精霊に力を借りる必要もないでしょう」


マーシャルは胸の中に沸き起こる欲求を抑えながら、騎士に告げる。

確かに精霊にはそれぞれに宿った力がある。

属性はあるものの、その力の使い方は精霊師次第だと、マーシャルは思っている。

そして精霊自体は魔石を生み出し加護を与える以外には、その力を行使しない。

大分昔にマーシャルもどうしても分解できない魔道具を精霊に壊してほしいとお願いしたら、力の行使はできないとばっさり断られたことがある。

きっと今回だって、精霊にお願いしてみたところで出来ないと断られるのは目に見えている。


「お城の中には精霊師も魔法師もいるのでは?」


レイモンドは自分の欲求と戦っているマーシャルを見ながら質問する。

そもそも、壊したいというならば、攻撃魔法を力の限りぶつければ解決する話ではないのか。

その言葉に先に反応したのはエリックだった。


「宝石箱は触れることはできるものの、いかなる攻撃魔法をぶつけても壊れない。おまけに、造ることが専門で、分解などできずお手上げ状態だ」

「そもそも魔道具を分解するなど、彼らはしたことがない」


エリックの言葉に続けてエドワードが補足するするように言った。

魔道具とはそれひとつで、物によってはかなりの価値になるものも存在する。

エドワードが手にしている魔剣がその最たるもので、これでもかと言わんばかりに魔石が使用されたそれは、持ち歩いてはいるが国宝級の代物である。

そんなものを分解して、あまつさえ壊してしまえば元も子もないのだ。


「破損すると修復にも一苦労ですから、あまり壊すことも分解することもしないですね」


その言葉にレイモンドはうなずく。

レイモンドとて、魔道具を扱う商家なのだ。

その貴重性と扱いは誰よりもわかっているつもりでいるし、だからこそマーシャルが勝手に解体して勝手に新しく造り変えてしまうことに反対している。


「魔道具の壊し方を知る人、ですか・・・」


レイモンドはそう呟いて、妹を見やる。

いや、その目はどこか遠くを見ているようだ。

レイモンドはすでに魔道具の壊し方を熟知している人間を知っている。

壊し方どころか、それを自分なりに再構築してしまうような人間をだ。


「シャル」

「はい」

「お前、魔道具をいくつ壊してきた」

「私は魔道具を壊したことはないですよ」


マーシャルの物言いにレイモンドは何も言わないが、細められた真紅の瞳には嘘をつくなと雄弁に語っている。

物心つく前から魔道具を解体していたマーシャルであるが、実のところ稀に解体方法を間違えて壊すことがある。

それは小さな爆発を伴ったり、けたたましい音を伴ったりと壊れ方は様々であるが、マーシャルにとってはそれですら新しい発見であった。

そのため壊したのは手の指で足りる回数ではあるが、マーシャルは意地でもそれを壊したとは認めていない。


「では質問を変えよう。シャル、今までいくつ解体してきた」

「そんなの覚えてませんよ。昔はずっとかい・・・たいしてたし」


改造、と言おうとしたマーシャルをレイモンドはきつく睨みつける。

マーシャルの言葉にエドワードとエリックは目を丸くして彼女を見た。


「彼女は技術士か何かで?」


魔道具を造る人間のことは、この世界では技術士と呼ばれる。

魔道に精通し、多くの知識を手に入れた先に、魔道具の根幹を知ることが出来るのだと、そう言われているほどに、魔道具を専門とすることは狭き門なのである。

それを彼女が?と青と藍色の瞳が語る。


「いいえ、そのような資格は持っておりません」


マーシャルの代わりにレイモンドが応える。

マーシャルはレイモンドの受け答えに、心の中で文句をたれる。

マーシャルは王都で技術士という資格を知ったときに、自分もなりたいとレイモンドと両親に言ったことがあった。

商家は長男であるレイモンドが継ぐのだから、問題はないと考えていた。

しかし、彼女の改造技術を知っているレイモンドは頑なに否定し、結果としてマーシャルは資格をとることができなかったのだ。


「ですが、シャルはその辺の職人よりも腕は確かだと思いますよ」


なんと言っても、物心つく前から魔道具をおもちゃにしていたのだから。

レイモンドは隣に座るマーシャルを見る。

マーシャルはそんな兄と目を合わせることもなく、好奇心のままに、エドワードが手にしている魔剣を食い入るように見ている。


「どうされますか?」

「・・・・・・・マーシャル嬢のお力をお借りいたします」


レイモンドの言葉に、エリックとエドワードは頭を下げた。

それに驚いたのは他でもないレイモンドだった。

仕事柄、貴族の相手をすることもある彼だが、何せただの商家であり爵位を持っていないレヴィ家に対する貴族の態度は基本的に横柄だ。

それなのに、今目の前にいる2人は何の迷いもなく頭を下げた。


「頭を上げてください。貴族様に頭を下げられるのはこちらの心臓がもたない」

「いいえ。すべてこちらのわがままであり、頭を下げるのは当然のこと」

「当然、ですか。・・・・シャル、部屋にもどって侍女たちと荷物をまとめてきなさい」


レイモンドはマーシャルにそう告げる。

マーシャルはもう少し魔剣を見ていたかったが、レイモンドが睨むように見るので、泣く泣く部屋から辞する。

バタンと部屋の扉が閉まってから、もう一度レイモンドは口を開く。


「ひとつだけ、肝に銘じていただきたいことがございます」

「というと?」

「シャルは婚前の娘です。歳はもう20歳です。それだけは肝に銘じておいていただきたい」


レイモンドは真面目な顔をしてそう告げる。

いや、レイモンドからすれば最も懸念する事柄だ。


「それは我々のどちらかに婚姻を結べということか?」


エリックは思わず聞き返す。


「そのようなことは言いません。ただ変な虫がつくようなことは阻止していただきたいですね。あれでも大切な妹なので」


そう言い切ったレイモンドの表情はどことなく寂しそうだった。









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