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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
77/143

◆第77話




「暇だわ、姉さま」

「平和って言ってください」


マーシャルはそう言って、シェイラの魔道具である銃の整備をする。

別にちょっと前にシェイラに渡したものであるため、特にメンテナンスの必要はないのだが、万が一ということを込めて、マーシャルは定期的にシェイラの魔道具をこうやってチェックしている。

そんな整備をしている最中に、マーシャルが出した紅茶を飲み干したシェイラがポツリとこぼしたのだ。


「何もないのが一番じゃないですか」


むしろ今までが色々ありすぎたのだとマーシャルは思っている。

平和で何が悪い。

そうでなければ困る人間が五万といるではないかと、マーシャルは口にはしないものの、シェイラを見つめる目で雄弁に語る。


「わかってるけど、そういう意味じゃなくって!」


最近、シェイラの口調は大分崩れてきていると、マーシャルは感じている。

初めてマーシャルと出会ったときは、物腰柔らかな丁寧な口調で、いかにも良いところのお嬢様だった。

今でも良いところのお嬢様という立場は変わらないのだが、マーシャルといる時間が長くなってしまったせいか、シェイラから物腰柔らかな丁寧な口調がだんだんと感じられなくなってきたのだ。

しかし、それはマーシャルにも言えたことだ。

出会った頃は、いくら礼儀知らずのマーシャルでもそれなりに言葉を選んでいた。

それが最近はどうだ。


「次また宝石箱みたいなことがあったら、それこそ王妃が倒れる」

「あら、お母様は元気よ」

「今はって言葉が抜けてますよ」


王女であるシェイラの言葉に対して全く物怖じしない。

それどころか、とりあえず敬語を使っているだけで、そこに敬意の念はまったくと言っていいほどない。

主従というよりも友達に近い感覚で、2人は会話していた。


「でもそうね。確かにお母様には心配をかけたわ」

「妹君にもでしょう」

「あら、知ってるの?」

「ディートリア殿下が言ってました」


マーシャルはため息混じりにそう言うと、微調整の済んだ魔道具を優しく布で拭く。

シェイラはそんなマーシャルを見つめて思う。

魔道具に対しては、誰よりも、そして何よりも愛情を注ぐ人だと。

シェイラがこの研究室に入り浸るようになってから、シェイラはマーシャルの魔道具好きをたびたび垣間見ることになったのだが、ただの魔道具馬鹿という言葉では言い表せないほどの人だと、シェイラは思っている。

そして、マーシャルにとっての一番は魔道具であり、それはこの先も揺らぐことはないのだろうということも感じていた。


「そういえば、王女様っていつ成人されるんですか?」


マーシャルはシェイラに魔道具を返して、気になったので聞いてみた。

マーシャルの記憶では、シェイラは2つ年下であり、今年18歳で成人を迎えることになっている。

その記憶に間違いはない。

そして、いまだにシェイラが成人の儀を迎えていないことも噂で聞いていた。


「1ヵ月後です」

「1ヶ月?え、じゃあ王女様ってここにいていい人じゃないですよね」


マーシャルはシェイラの生活に干渉したことはないため、シェイラがどういう経緯でここまでやってきているかは知らない。

しかし成人の儀を1ヵ月後に控えた今が目も回るほど忙しいということは、それとなくわかっている。

第一、ここにやってくるシェイラがいつも疲れた顔をしていることに、マーシャルは気が付いている。


「姉さままでそんなこと言わないでちょうだい」


シェイラはマーシャルが注いだ紅茶を飲んで、愛らしい頬を膨らませた。

どうやら相当お疲れらしいと。


「そういえばこの前、シェイラ様を必死の形相で捜す侍女を見ましたよ」


マーシャルは先日のことを思い出して言った。

シェイラ付きの侍女の顔を何度か見たことがあるマーシャルは、名前までは把握していないが、それなりに覚えていた。

その覚えた人が、王城を駆け回り、その先々にいる人物にシェイラの居場所を聞いてまわっていたのだ。

もちろんマーシャルにも聞かれた。

食って掛かるように問われ、疑いの目で見られていた。


「鬼ごっこしてるんですか?」

「どちらかというとかくれんぼに近いかしら」


そう言って、シェイラはため息をこぼす。

そんなシェイラを見てから、マーシャルは先ほど座っていた席について、今度は自分の魔道具のメンテナンスを開始する。

そして、そろそろ改良しなければと思うのだった。


「で?なんでそんな追われてるんです?」

「成人の儀のドレスが決まらないのよ」

「ドレスですか」


マーシャルはふいにエドワードの姉であるメアリの言葉を思い出した。

あの人もドレス嫌いだったなと思い出して、またシェイラを見る。

マーシャルの認識では、シェイラは特にドレスを着ることに抵抗はないように思えるし、嫌いな素振りもない。


「シェイラ様って別にドレス嫌いじゃないでしょう」

「ええ。ドレスを着るのは嫌いじゃないわ。新しいドレスを見るのも好きよ」


シェイラはマーシャルとは違って、ずっと女の子として育ってきたのだ。

ドレスを着るのが日常であり、それが王女である彼女の装備品でもある。


「じゃあ何がそんなに嫌なんですか?」


マーシャルは自分で話を振っておいて、だんだんと面倒くさくなってきた。

別に話をしていてもメンテナンスはできるし、むしろ誰かと話してでもいないと集中しすぎて時間を忘れてしまうため、とても助かるのだが、話し相手と話す話題を間違えたと、マーシャルは思うのだ。


「ドレスを見るのも着るのも好きですよ。選ぶのも。そのための着せ替え人形ならいくらでもしますわ」


その言葉にマーシャルは顔を引き攣らせる。

しかしそんなことには気付かずに、シェイラは言葉をつなげる。


「でも!」


とても意気込んで。

バンッと机を叩いたその音に、マーシャルはビクリと肩を揺らした。

思わず手元に狂いがないかを確認してシェイラのほうを振り返る。

シェイラがいる机には、叩いたときの振動のせいで、紅茶がこぼれていた。


「私、顔合わせだけは嫌なのよ!」

「・・顔合わせ?」


貴族社会に縁のないマーシャルにはよくわからない単語だ。

しかしその言葉を耳にした途端、シェイラは堰が外れたかのように話し出してしまった。


「そうですわ!私が成人するからか知りませんけど、こぞって私に会いに来られるのよ!自分の息子を連れて!いえ、息子だけで会いにこられる肩も勿論いらっしゃるわ。でも私からしてみればすべて同じだわ。私、今は姉さまと一緒にいたいですし、まだ家族とだっていたいわ。それなのに、結婚の話なんかされても困りますわ。それにも気が付かないで、私に似合うと思ってとか言って変なものを送りつけてこられても、いい迷惑だし、そもそも「ちょっと待った」


いきなりのマシンガントークに、マーシャルは思わず待ったをかける。

本当に誰だ、シェイラが控えめな女性だとか言った奴。

マーシャルはそう言っていた誰かを恨めしく思いながら、まだ言い足りないと不満顔のシェイラを見つめた。


「とりあえず結婚の話が出てるのはわかった。それから逃げてることも」


だからとりあえず落ち着いて、と言いたいマーシャルであるが、シェイラはいっこうに落ち着きそうにない。

どうしたものかと、マーシャルは悩む。

一方的に話されているだけでは、マーシャルが集中してやることと大差ないからだ。


「ていうかシェイラ様、降嫁するの?」

「その予定ですわ。私はこの国にいたいもの」

「それ、国王は許してくれてるの?」


シェイラの婚姻はシェイラの意思では決められない。

それは王族に生まれたゆえの運命とも言える。

しかしシェイラはそんなことなど一切気にせず言った。


「テートリアは他国と手を組まなければならないほど小国ではありませんわ、姉さま」

「・・・・・そうですよね」


この一言で、マーシャルは気がついてしまった。

シェイラが降嫁するつもりであるということを、おそらくこの国の最高権力はまだ知らない。









シェイラがどんどんお転婆になっていく・・・

本当は礼儀正しいけど、世間知らずで素直が取り得のお嬢様で書く予定だったのに。




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