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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
76/143

◆第76話



手の上に転がったピアスを見て、マーシャルは笑いながら聞いた。


「少しだるかったでしょう?自動治癒だから」

「そういえばそうだな。でもまぁそれくらいで枯渇するような魔力量じゃないし、怪我もすぐ治ったからある意味助かった」


エドワードはグラスに入った水を机に置いて、座りながらそう言った。

なんとも穏やかな時間がそこに流れる。

エドワードにとっては、久しぶりに心休まる時間を過ごせている気がした。


「怪我することあったんですか?」

「そりゃあるだろ。といっても、できても掠り傷程度なんだけど」


相手にするのは街のごろつきか、訓練しているまだ若い騎士か、剣など握ったこともない令嬢いずれかだ。

黒騎士としてしっかり任務に当たっている騎士やエリックを相手にするならばエドワードでも打撲ほどの怪我をするだろうが、相手が相手なだけに、そうそう怪我などしないのだった。


「まぁそれでも、副隊長最近丈夫すぎて怖いと言われるな」

「元々エドって丈夫だもんね」

「知らないだろ」

「知らないけど」


なんと適当な会話だろうかと、聞いている者なら思うかもしれない。

しかし、こういう緩い雰囲気がエドワードもマーシャルも好きだった。


「でね、このピアスの代わりなんだけど」


マーシャルはエドワードから返してもらったピアスを自分の耳につけ直すと、少し前に造ったピアスをエドワードに差し出した。

キラリと光ったそれは、大きなエドワードの手に収まれば一層小さく見える。

赤紫が目立つそれをエドワードは目を丸くして見つめていた。


「これは?」

「ん?だから同じ治癒能力付きのやつ」


自動治癒はついてないよと言葉を付け加えるマーシャルの顔を、なんとも不思議そうに見るエドワード。


「治癒って俺の認識が確かならば水属性だな」

「そうだね。世間一般の認識では治癒は水属性だね」


マーシャルは両肘を机について、その上に顔を置く。

ニコニコと笑うマーシャルと、少しばかり顔色を悪くしていくエドワード。


「もう一つ言うならば、俺の認識では水属性の魔石は青色なんだが」

「そうだね。それも世間一般の認識で間違いないと思うよ」


エドワードの顔が引き攣る。

対照的にマーシャルの顔は笑う。


「じゃあこれは何色だ?」

「赤紫って言うんじゃないかな。綺麗だよね」

「・・・・・・シャル」

「なに?」

「これはなんだ」

「治癒能力付きのピアスだよ」


そう言ったマーシャルはエドワードが持ってきてくれた水をゴクリと飲んだ。

それと共に、エドワードは唾を呑み込んだ音が聞こえてきた。

エドワードは迷っている。

治癒能力付きと言いながら魔石が青色ではなく赤紫色である理由を問いただすべきかと。

知ってはいけない、聞いてはいけないことな気がしているからそっとしておくべきなのかと。


「一体何した、お前」


エドワードは思い悩んだ結果、問いただすという選択肢を選んだ。

その問いかけに、マーシャルは貼り付けたような笑顔を消して、「聞いちゃうの?」と少し面倒くさそうに答えた。


「別にただの治癒能力がついた魔道具だよ。それ以下でもそれ以上でもない」


誰にも造れはしないだろうが、という言葉はマーシャルは言わない。

しかしマーシャルは思うのだ。

別に自分がさっき身につけたピアスのように自動治癒ができるわけでも、もう一つ別の能力がついているわけでもない。

見た目こそ赤紫だが、性能はそこいらに売っている魔道具と変わらないと。

治癒能力を使う火属性特化というだけであって。


「じゃあこの色の説明をしろ」

「いいじゃない、オシャレでしょ」

「シャル」

「粗悪品じゃないことだけは保証するよ」

「そういうことを言ってるんじゃないんだが」


そうは言いつつも、エドワードはそのピアスを自分の耳につけた。

先ほどつけていたピアスよりも少しばかり軽い気がした。

おまけに水属性の魔石が嵌められているにしては、つけ心地がいいと感じた。


「それで多少の疲れもとれればいいけどね」

「それは水属性じゃ無理だろ」

「確かに。・・闇属性もつけるべきだったかなぁ」

「やめろ。俺に国宝級の魔道具を2つも持たせる気か」


エドワードは本気で嫌がるが、マーシャルにその自覚はない。

というよりも、口が割けても言えないとマーシャルは思っているが、エドワードは国宝級の魔道具を結果的に2つ持つことになっている。


「うん、エドはその色も似合うね」


マーシャルは魔道具をつけたエドワードをしっかり見据えて笑った。

元がいいため何をつけても似合うのだが、マーシャルの目にはとてもよく似合って見えた。

マーシャルは見た目が派手なため、着る服や身につけるものが思っている以上に限られている。

だからこそ、何でもそつなく似合うエドワードが少し羨ましく思えたのだ。


「そうか?俺は昔から明るい色は似合わんと言われてきた」

「・・あ、ごめん、確かに」


マーシャルはシェイラがよく身につけてくるパステルカラーを思い出してエドワードに合わせてみた。

言いようのない違和感がそこにはあった。

そのためどうしてもフォローができなかったのだ。


「じゃあ私そろそろ戻るね。あんまり仕事の邪魔しても悪いし」

「あ、」


マーシャルの仕事という言葉にエドワードは何もかもを放ってきたことを思い出す。

エリックに怒られるなと内心でため息をこぼすエドワードであったが、それでもここに来てよかったと思っていた。

マーシャルに会えたのだから。


「シャル」

「なーに?」

「俺の仕事が落ち着いたら、今度飲みに行こうか」

「あ、いいですね、それ」


マーシャルは笑う。

エドワードとお酒を酌み交わすのはいまだにしたことがないのだ。


「仕事の落ち着きっていうか、お嬢様の猛襲から逃げ切れたら一度来てくださいよ」

「・・なんでそれ知ってるかな」

「ウィズ様に聞きました」


マーシャルは笑って、エドワードはため息をついた。

いずればれるとエドワードはわかっていたが、それでもマーシャルにはあまり知られたくないと思っていたのだ。


「送るよ」

「いいですよ。そんな危ない道じゃないですし」

「シャルに限ってそれはない」


その言葉に言い返すことができなかったマーシャルは、大人しくエドワードに送られることになった。

騎士の宿舎を出て、研究塔までの道のりを並んで歩く。

その光景をたまたま見た黒騎士は、しばらくはエドワードの冷気に触れなくて済むかもしれないと涙をのんだことを、2人は知らない。


「香水、使ってくれてるんだな」

「さすがに毎日というわけにはいきませんけど。それにしてもよくわかりましたよね、これ。見てたんですか?」

「さぁな」


エドワードはそう言ってはぐらかす。

別にエドワードはその様子をすべて見ていたわけではない。

店員と話をしているマーシャルを見て、その店員にマーシャルがどれを見ていたのか聞いただけだ。


「シャルもそういうのに興味あったんだな」

「いい匂いだなって思っただけです」


そう言ってふいっと顔を背けるマーシャルだが、そうやって体を動かすたびにエドワードが買った香水の匂いが香る。

エドワードはそんなマーシャルを見て、困ったように笑った。

自分の見ていないところで色気づいてもらっても困ると、エドワードは思うのだ。


「今度お給金が出たらなにか返しますね」

「は?・・俺十分すぎるものもらってるけど」


マーシャルの言葉にエドワードは素っ頓狂な声を出した。

エドワードのほうが長く働いているし、地位も高い。

間違いなくエドワードのほうが給金は高いのだ。

だからエドワードはマーシャルのその申し出に嬉しく感じつつも、とても複雑な心情になる。

おまけに、エドワードはそれ以上のものをもらっているという自覚がある。


「これで十分だろ」


そう言って、エドワードは自分の耳を触る。

そこにあるのは、先ほどマーシャルが手渡した魔道具。


「でもそれ、ただの魔道具ですよ」

「・・シャルが造ったものがただの魔道具で収まるわけないだろ」


エドワードはマーシャルの先ほどのはぐらかしに気がついていた。

それでもマーシャルからの贈り物だということで受け取ったのだが、自分の言葉にマーシャルがなんともあいまいに笑うものだから、少し早まったかもしれないと思い返したのだった。






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