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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
68/143

◆第68話





マーシャルの朝はどちらかというと、遅い。

しかし、その遅いというのにはそれなりの理由がある。

なぜならマーシャルは、夜な夜な魔道具を造っているからである。

しかし、これがマーシャルにとってはストレスになっているとは、誰も気が付いていない。


「・・ガッと集中してやったほうが効率いいと思うんだけど」


マーシャルはため息混じりに独り言を呟くと、朝食を食べ損ねた代わりにと、常備しているパンを食べた。

これはマーシャルが用意したものではない。

数日前にたまたまエドワードが用があって研究塔に来たときに、ご飯も食べずに不眠不休で魔道具を造っていてフラフラだったマーシャルとばったり出くわしてしまったのだ。

そのときに、人前だとか、マーシャルの体調とか、そういったものは一切お構いなしに子どものように叱られ、定期的にパンを買えと言われて、エドワードが買わせたものだった。

そしてご飯ともう一つ。

マーシャルは3日に1回は必ず寝ることを約束させられた。

3日くらいなら別に寝なくても何とかなると思っていたマーシャルであったが、これにはウィズも反対したため、マーシャルは認めざるえなくなったのだ。

実際、これを守っているかどうかを確かめる術は彼らにはないのだが、寝不足に関してはもはや友達ではないだろうかと疑うほどに親しいシェイラが目敏くも気が付くのだった。


―――――まぁ心配されて悪い気はしないんだけど。


ここまで心配されると、逆に気を使ってしまうマーシャルだった。

マーシャルは何とも複雑な思いのままパンを飲み込むと、数時間前まで対面していた場所へと座り魔道具を造り始めた。

机の上には、とても乱雑に置かれた紙がいくつもあり、その紙には文字というよりも何かの回路図が多く示されている。

いつだったか、シェイラがそんな机を見て、技術士はみんながみんな同じ机のあり方をしていると言っていた。

つまり、マーシャルも立派な技術士なのである。

そんなことはさておき、マーシャルの手には、銀で造られた輪が2つあった。

幅1cmほどのそれは、真ん中がまるで何かをはめ込むように凹んでいる。

そこを撫でながら、マーシャルはどうしようかと思案するのであった。


「・・やっぱ治癒力よね、必要なのは。でも水とは相性が最高に悪いのよねー」


5属性を何の問題も無く使えるマーシャルにはわからない感覚であるが、相性の悪い魔力を魔道具を通して使おうと思うと、かなり燃費が悪いらしい。

この燃費の悪さをどれだけカバーできるかが当面の課題になるわけだが、これが何とかなってしまったときのウィズの反応が怖いと、マーシャルは今から怯えている。

それでも造ることはやめないのだが。


「とりあえず混ぜるところから始めてみようかな」


そう言うと、マーシャルは元々研究室にあったフラスコを2つ持ち出すと、紙も何も置いていない机の上に置く。

そして徐に取り出したのは水の魔石と火の魔石。

それもかなり上等なものだ。


「精霊さんたちには本当に感謝しなきゃね」


そう言うと、ふわりとマーシャルの白銀の髪を風が撫でた。

まるでマーシャルにいいよと言っているみたいに。

マーシャルは心の中でお礼を言うと、その魔石を細かく砕くと、フラスコの中へと入れた。

そしてそれを特別な液体で浸すと、しばらく放置する。

20分ほどつけておくと、透明だった液体に色が付き始める。

片方は青色に。

もう片方は赤色に。

これはマーシャルが15歳のときに発見した、魔石を溶かして液体にするやり方だ。

ちなみにこれはレイモンドも知らない。

知られていたら、間違いなく自分の部屋にあった実験セットは問答無用で捨てられていたことだろう。

そんなことを思いながら、マーシャルはフラスコを振って石が残っているかどうかを確認する。

カラカラという音は聞こえない。

つまり、石は完全に溶けたということだ。

そしてここからが問題であった。


「この配合間違えたら終わりよね」


自分で言っていて笑えないとマーシャルは思う。

精霊から魔石を与えてもらえるという稀有な立場にいるマーシャルであるが、魔石自体の価値はわかっているつもりである。

魔石を使って失敗しましたなど、口が割けても言えないと思っている。

だから、マーシャルは考える。

相性の悪い2つの力が混ざり合う、その配合を。

教えてほしいと請うのだ。

すると聞こえてくるのは、男の子とも女の子ともとれる中性的な声。

その声は言う、『それ以上は入れないで』と。

その声を聞いて、マーシャルはその手を止めて、赤色を入れるのを止めた。

そしてすばやく青色をかき混ぜる。

とろみのあるそれは少しだけ重たく、かき混ぜていくと混ざって綺麗な紫色へと変化していく。

いや、少しばかり赤みのほうが強いかもしれない。


「ちょっと我慢してくれたんだね、ありがとう」


誰に言うでもなく、マーシャルはそう呟く。

ゆっくりと、それでいてしっかりとかき混ぜていくと、やがてそれは先ほどとは比べ物にならないほどに粘り気を出していく。

ある程度粘り気が出たら、フラスコから取り出して、マーシャルは手袋をしてそれ自体に触れた。

それをちぎって平たく伸ばすと、銀の輪の凹んでいる部分に押し当てていく。

ゆっくりと、確実に、1mmのずれも無いように、マーシャルは細かな作業を進めていく。

その集中力はいつだったか、ユーリウスが褒めていたものだ。

しっかりとくっついたのを確認したマーシャルは、今度はその銀の輪にあらかじめ掘り込まれていた回路に赤色の魔力を流した。

この工程をもう一度繰り返す。

手元に狂いは無い。

作業が終えたときには、マーシャルは非常に疲れていた。

あとは成功していることを祈るばかりだとため息をこぼしたマーシャルは、つけていた手袋を外してゴミ箱へと捨てた。

そして、何か飲もうと立ち上がった瞬間、研究室の入り口にエドワードがいたことに気が付いた。


「・・いつから?」

「その謎の液体が出来上がったくらいか?」


結構前じゃないか、と、マーシャルは舌打ちをつきたくなった。

マーシャルはエドワードに中に入るように促すと、紅茶を入れるために立ち上がった。


「飲む?」

「お願いする」


短い言葉を交わしたあとに続く言葉は無い。

しかし2人ともそれに気にした素振りはなかった。

マーシャルは少し前にシェイラが持ってきた茶葉を使って紅茶を入れると、エドワードの前に差し出した。

そして気が付いたことは、エドワードの服が騎士服ではなかったことだ。


「エド仕事は?」

「今日は非番だ」

「あ、そうなの?だからか」


マーシャルは納得するとエドワードの前に腰かける。

最近になってエドワードは気が付いたのだが、マーシャルは初めのころに比べるとだいぶ言葉が普通になってきた。

それに対してエドワードは素直に嬉しいと感じていた。


「で、何してたんだ?」

「改造はしてないよ」


ほぼ反射的にマーシャルは言った。

ここ最近、ウィズやエドワードに研究室に訪ねられては、改造していないか、とんでもないものを造っていないかをチェックされる。


「なんか造ってたのか」

「んー、というよりはただの実験ですかね。成功する確率のほうが低いのでまだ何とは言いませんけど」

「珍しいな、その言い方」

「そりゃそうですよ。普段は寝食忘れてやって出来上がったときにぶっ倒れてお披露目してるんですから」


途中経過で人に見せることなどほとんどなかったと、マーシャルは言いたいのだ。

そのなんともな言い草にエドワードは苦笑する。


「で、非番の黒騎士副団長様がここに何の用ですか?」


その言い方もどうかと思うが、実際騎士たちが変人ばかりが集まるこの塔に来ることは珍しく、マーシャルがいるためにここにやってくるエドワードであるが、彼自身もこの塔の住人は苦手である。


「シャル、暇か?」

「はい?」

「暇だよな」

「何言ってるんですか?」


マーシャルは暇なわけないと声を大にして言いたいところだが、実際研究や実験をしていなければ暇と言っても差し支えない立場にいるため、しっかり言い返せない。


「ちょっと付き合え」

「は?いや、え、どこに?」

「城下だ。5分やるから支度しろ」


そう言うとエドワードは部屋から出て行く。

その後ろ姿を睨みつけるようにして見たマーシャルは「横暴だ」とぼやいたものの、その顔はどことなく嬉しそうだった。





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