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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
67/143

◆第67話




騎士の宿舎から研究塔に棲家を変えたマーシャルの一日の流れはそう変わらない。

根っからの魔道具好きではあるが、毎日魔道具を造っているというわけではないのだ。

そんなマーシャルは今日も今日とて、王女であるシェイラに付き合って魔道具を扱う訓練をしていた。

その場所は今までどおり、騎士の訓練場。


「だいぶ慣れましたね」


マーシャルはそう言うと、先ほどシェイラが撃ち抜いた的を見た。

魔道具に正確に撃ち抜けるように、シェイラの意思を読み取れるよう魔石を嵌めこんでいるため、的を外すということは無い。

絶対と言い切れるほどに。

つまり、この魔道具はシェイラの意思一つで、その威力も的中率も大きく変わってくるという代物になっている。

ウィズにこの魔道具のことを聞かれたときにマーシャルがそう言えば、ウィズは目元を手で伏せて呆れていた。

そのときにウィズが「なんてものを・・」と呟いていたことをマーシャルはしっかりと覚えている。

その呟きもあり、マーシャルはまだその事実をシェイラに告げずにいた。


「本当にお姉さまは凄いものをお造りになるのね」

「そうですか?」

「はい。お父様が驚いてましたわ」


そりゃそうだ、とは言えず、マーシャルはなんともあいまいな笑みを返す。


「それ、もう護身用として普段から持ち歩いても大丈夫そうですね」


魔力をこめなければ発砲できないそれは、持ち歩いて多少雑に扱っても暴発の恐れは無い。

だからといって、絶対に危険ではないとは言い切れないのだが。

しかし、あれだけ射撃に慣れたのならば、まぁ問題ないだろうと、マーシャルは考えていた。

だからこそ、そろそろ話さなければならない思っているのだが。


「シェイラ様。少し、お話しましょうか」

「お話ですか?」


きょとんと目を丸くしたシェイラだったが、そっと、マーシャルの隣へと腰を下ろす。

その動作に、もはやマーシャルは動じない。

一国の王女と隣に並んでお話など、どこの平民にできようか。

いい加減、マーシャルの感性も鈍りつつあるのであった。


「その魔道具をどう思われますか?」

「どう、とは?」

「見た目などではなく、武器として扱うことにです」


マーシャルの問いに、シェイラはしばらく黙る。

シェイラが扱っているのは、玩具でもなければ、模擬のものでもない。

当てた相手が的でなく人ならば、その人の命を脅しているものだ。


「正直、とても怖く思います」


シェイラはとても正直にマーシャルへと伝えた。

武器を持つという怖さ。

人の命を奪うことの出来るその怖さ。

そしてそれを自分が簡単に出来てしまう恐ろしさ。


「ひとつだけ、シェイラ様に伝えたいことがあります」

「伝えたいこと?」

「・・この魔道具は間違いなく、どの技術士が造っても到底真似できない代物です。その威力も然り。しかし間違えないでほしいのです。これは人の命を奪う魔道具ではなく、シェイラ様の命を護る魔道具であるということを」


マーシャルは愛しい子を撫でるように、シェイラが手にしていた魔道具を撫でた。


「この魔道具は人の命を奪うために生まれてきたのではなく、シェイラ様を護るために生まれてきたのです。魔道具は人を殺めるものではありません。それをわかっていただきたいのです」


魔道具はたびたび悪用される。

それは人を騙す道具として。

それは人を殺す道具として。

それは国を滅ぼす道具として。

しかしそれは、魔道具本来の使い方ではないと、マーシャルは思っている。


「エドが使っている魔剣をご存知ですか?」

「ええ。あの赤く煌めく剣のことでしょう?」

「あれを見てどう思われますか?」


シェイラは少しだけ考えて「怖いわ」とポツリと呟く。


「いつだったか、どこかの貴族が言っていたわ。まるで血を浴びているようだと。生き血を啜っているようだと。本当にそういうわけではないけれど、赤を見るとそう思えてくるときがあるわ」


マーシャルは自分の瞳も赤色なんだけどとは思っても口にはしない。


「確かに、エドが沢山の命を奪ってきたのは間違いないでしょう。それが人なのか魔物だったのか、それは私にはわかりません。ですが、彼は殺めるためではなく護るために、あの魔剣をふるっているんですよ」

「護るため?」

「はい。自分の身を。自分の騎士団を。自分の祖国を。あの魔剣で」


マーシャルは5年前のことを思い出す。

初めてエドワードと話して、無償で魔石をあげてしまったあの日だ。

マーシャルは彼に問うた。

これ以上の強さは、自分の身を常に戦場に置くことになるぞと。

それでもよいのかと。

エドワードはなんの戸惑いもなく、それでもよいと答えた。

そんなことを思い出しているマーシャルの顔は優しく、そしてどことなく愛しいものをみるようだと、シェイラは思った。


「だからエドは、焔鬼と呼ばれ英雄と言われているのです。ですから私はあの魔剣を怖いとは思いませんし、魔剣をふるうエドを誇りに思います。そしてとてもカッコイイと思います」


そう言ったマーシャルの笑顔はどこまでも慈愛に満ちていた。


「まぁエドの話は少し大きすぎるし、結局は相手を殺しちゃってるのであれなんですけど。シェイラ様も護るためにその魔道具を使ってください。その魔道具は決して人を殺めるためのものではありません。その魔道具ならば、それができるはずですから」


マーシャルはそうしめくくったが、結局同じことしか言ってないのでは?とふと思い直す。

途中から自分でも何を言っているのかわからなくなってきたのだ。


「ありがとう、姉さま」

「へ?」


マーシャルはお礼がくるとは思っておらず、シェイラの思いもよらぬ言葉にぎょっとした。


「私、はやり姉さまに師事をお願いしてよかったです」

「え?なんで?私、特にこれといったことはしていませんよ・・って、何で泣いてるんですか!?」


これをウィズが聞けば「とんでもないことしてるから」とでも言いそうだが、やはりマーシャルにはそのとんでもないの感覚が鈍い。

しかしシェイラには、マーシャルが話し下手でも言わんとしていることが伝わった。

だからこそ流れた涙なのだが、その涙にマーシャルはおかしいほど慌てていた。

そんなマーシャルの様子に、シェイラは泣きながら笑ったのだった。





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「副団長って愛されてますよね」

「・・・・・は?」


今日の業務が終わった黒騎士たちは、黒い騎士服を着崩して、城下にある酒場へと向かい酒を飲んでいた。

黒い集団が集まるととんでもなく迫力が増すのだが、黒騎士たち持ち前のひょうきんさで、その迫力を霧散させていた。

そうして楽しく酒を飲んでいた時だった。

エドワードに向けて、自分よりも3つばかり上の騎士がそう投げかけてきたのは。

その騎士の言葉に周りは「確かに」と口々に肯定する。


「いや誰にだよ」


エドワードはぼやくように言う。

今度はどこの令嬢だと、エドワードは綺麗と評されえる顔を顰めた。


「なにとぼけてるんですか、マーシャル嬢に決まってるでしょう」

「いいっすよねー、副団長。俺もあんなふうに思われてみたい!」

「は?シャルがどうしたって?」


マーシャルが騎士の宿舎から研究塔に寝床を移動してからは、2人の接点は驚くほどに減った。

護衛をしていたときは当たり前だが毎日顔を突き合わせていた相手であったのに、今となっては5日に1度顔を見ればいいほうだと言えるほど、会ってなどいなかった。


「あれ、聞いてないんですか?今日、マーシャル嬢がシェイラ様と訓練場で射撃してるときだったんですけど、そのときにマーシャル嬢、副団長のこと誇りに思うしかっこいいって言ってましたよ」

「俺もそんなこと言われたい!」

「いやお前じゃ無理だろ」

「お前もなー」


騎士たちは口々に言い合いながら酒をあおっているが、エドワードは正直それどころではなかった。

マーシャルが、どういう経緯でそんな話をしたのかはわからないが、そう思ってもらっているということに、エドワードはとても嬉しく思えたのだ。


「マーシャル嬢、副団長が魔剣をふるって戦場を駆けるのは、みんなを護るためだって言ってました。そんな副団長が誇りだって。いやぁよくわかってますよね、マーシャル嬢」

「うるさい」


そう言ったエドワードの顔はお酒のせいか赤かった。

そんなエドワードの姿を見ていた騎士はポツリとこぼす。


「副隊長じゃ流石に勝てないかなぁ」


そんな呟きは、酒屋の喧騒に飲まれて誰にも聞こえていなかった。




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