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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
65/143

◆第65話





銀を素材にし、その上に綺麗に上塗りされた、真っ白のボディ。

ところどころに金のラインが入っているのがとても印象的だ。

それ自体はとても細身で軽く、女性が片手で難なく振り回せるほどだ。

しかし、それでいて、その耐久性は非常に高い。

落とそうとも叩こうとも、決して割れもひびが入ることもない。

そして、それを白く輝くそれを更に一際美しくさせるのは、グリップ部分に邪魔にならない程度に嵌めこまれた数個の白い魔石。

見た目の変化はそれだけだった。

感想といえば、異様なほど精巧に、そして観賞用では疑うほどに美しくなったということだろうか。

実用するなと、どこぞの貴族が口をそろえて言いそうだ。


しかし、武器は使ってこそ意味があるのだ。


数十メートル先にある的に向けて構える。

相変わらず、的の中心は見にくい。

人差し指をそっとトリガーへと持っていき、ほんの少しの魔力を流して、トリガーを引く。

その瞬間。

ボウッというほんの小さな音と共に、光の弾が的に向かって飛んでいく。

そしてゴンッという音が確かに聞こえた。

近付いて見れば、しっかりと的の真ん中を射抜いていた。

それは寸分の狂いもなく、だ。

偶然もあるのではないかと、真ん中を射抜くことだけを数回繰り返した。

幾度その行為を繰り返そうと、光の弾はしっかりと真ん中を射抜いてしまう。

その精密さに、少しばかり恐ろしさを感じた。


それが、シェイラがマーシャルから受け取った魔道具だった。

シェイラがそれを使うところを目の当たりにしたキャレットは、その魔道具を少し貸してほしいとシェイラへ頼み、今それはキャレットとヒュースの目の前の机の上に鎮座していた。

魔道具を見つめるキャレットの気は重い。

それはヒュースも同じだった。


「なんということだろうな」


2人しかいないその場所では、キャレットの呟きは非常に大きく聞こえた。

その声は心なしか硬い。

それもそのはずだ。

シェイラがマーシャルに造ってもらったという魔道具は、護身用にしては使えすぎてしまい、それどころか軍事用にすらできる代物へとなってしまったのだから。

しかし、彼らが驚いているのはそれだけではなかった。


「これほどの物をあのお嬢さんが造ったんだな」

「・・そうですね」


なによりも驚いているのは、マーシャルのその腕だった。

美しいその見た目だけではなく、軽量且つ丈夫、それでいて恐ろしく威力が高く的中率も高い。

しかも、射撃の音は小さい。

実用性を盛りに盛り込んだ魔道具が完成してしまったのだ。


「この城の技術士に、これと同じものを造れる者はおるか?」


キャレットのその問いに、ヒュースは答えられない。

いや、ヒュースの中にはすでにその答えはある。

しかしそれを簡単には口に出来ないのであった。

だが、そんな態度は答えているようなものだ。

ヒュースが黙ったままでいる真意をしっかりと汲み取ったキャレットは、魔道具を見たまま深いため息をついた。


「・・マーシャル嬢は聞くところによると、資格は持っておられないとのことです」

「なんと!資格無しでこれか!・・・世も末だな」

「その言葉を陛下が言わないでください」


笑えないとヒュースは思うが、それ以上に今の話している内容に笑えないと思い直す。


「陛下、お呼びでしょうか」


ため息で会話していたような2人に聞こえてきたのは、なんとも幼い声。

入ってきたのは、年齢不詳であり、研究塔の管理人で技術士でもあるウィズだった。

ウィズはキャレットヒュースに恭しく挨拶をしてから、机の上にある異様なほどに存在感を示すそれを見る。

さすが王都屈指の技術士と、2人は感心する。

一目見ただけで、ウィズはその魔道具がただものではないと感じたようだった。

なんとも怪しむような目でそれを見たあと、キャレットに向き直り、その魔道具について説明を請う。


「・・・・お嬢さんが造ったそうだ」


キャレットはどのように説明しようか迷った挙句、なんとも言葉足らずな説明をした。

それに呆れるのはヒュースとウィズだ。


「お嬢さん・・といえば、マーシャル嬢のことですか?」

「そうです。彼女がシェイラ様に造られたものです」

「・・マーシャル嬢が、」


そう言って、ウィズはじっくりと机に置いてある魔道具を見た。

しばらく見つめた後に、ふいっと視線を魔道具から、中心ばかりが撃ち抜かれた的に移す。

ウィズはそれを交互に見た後、徐にその魔道具を持ち上げると、さっとすばやく的に目掛けて数発弾を撃ち込んだ。

その音があまりに静かすぎて、扉の前に立っているであろう騎士は気付かないのか入ってこない。

そんなことはお構いなく、ウィズは魔道具を上から見たり下から見たりを繰り返す。

しばらくそんな作業を続けた後に、ウィズはコトリとそれを机の上に戻した。


「とんでもなく恐ろしいものを造ってくれましたね」


ウィズは屈託のない笑顔でそう言った。


「説明していただいても?」


ヒュースは悪い予感しかしないと感じつつも、ウィズに言葉の続きを促す。


「おそらくこの魔道具の凄さはお二人とも気付いておられるでしょう?」

「それは勿論」

「軽さ、伝導効率の良さ、威力、魔力の消費量、音の無さ、どれをとっても随一ですね」


ウィズはとんでもないものを見るような目で魔道具を見つめる。

本当に見ているだけならば、ただの観賞用のものとしか思えないのだ。

いや、もしかしたらどこぞの貴族は、その実用性すらも気付かず額に飾って眺めているかもしれないとウィズは思う。


「でも、こいつの怖さはそこではないですね」

「というと?」

「・・この魔道具の怖さは、その正確さにあると思いますよ」


ウィズはそう言って、先ほど自分が撃った的を見た。

的には、中心とは別に、縦一列に寸分の狂いも無く等間隔に穴があいていた。

それが意味することに気が付いたヒュースとキャレットは思わず顔を青くする。


「どういう仕組みになっているのかはわかりませんけど、これは正直怖いですよ。少量の魔力で正確に相手を撃ち抜けますから」


なんとも恐ろしい魔道具を造ったものだと、ウィズはマーシャルに感心する。

しかしそれと同時に恐怖すら感じるのだった。


「魔力が少量で?そういえばシェイラも同じようなことを言っていたな。前とは比べ物にならないくらい連射しても体が楽だと」

「そりゃそうでしょう。そのグリップに嵌めこんである石は本物の魔石でしょうから」

「本当ですか!?」


ヒュースはぎょっとした顔でウィズに問いただす。

さすがのキャレットも驚いているようだった。


「マーシャル嬢も太っ腹ですね。この魔道具の性能ですら万金に値するというのに、光の魔石を3つも使うとは。もはやこの魔道具は焔鬼殿の魔剣同様、国宝級ですよ」


ウィズの言葉にヒュースとキャレットは頭を抱える。

キャレットは娘のシェイラのことを思って。

ヒュースは国宝級の魔道具がマーシャルによって量産されていくことを思って。


「それにしても流石ですね、マーシャル嬢は。これ、全部銀で造ってその上に白を塗ったんでしょう?そこに金のラインだなんて・・相当コストがかかってますよ」

「・・・ああ、それは元々銀で造って白塗りしてあったものだ。前任の魔法師団長がここを去るときにシェイラに渡したものだ」


頭をいまだに抱えているキャレットは、事も無げにウィズに言葉を返す。

キャレットにしてみれば、今はそれどころではないのだ。

しかし、キャレットの言葉にウィズは「・・は?」と言葉を返し、その幼い顔を引き攣らせる。

その変化に気がついたのは、キャレットよりも頭を抱えるという状態から早く立ち直ったヒュースだった。


「どうかなされましたか?」

「どうも何も・・これはマーシャル嬢が造ったんじゃなくて、マーシャル嬢が造り替えたものじゃないか!とんでもないぞ、これは!」


ウィズの興奮したような言葉に、やっと気が付いたヒュースとキャレット。

魔道具の性能が凄すぎて、全くそのことに気が付いていなかった。

これはこれでまた新しい問題が浮上してきた。

マーシャルのこの腕前が貴族たちに知れ渡り悪用されるのはまずい。

国が滅ぶ、と3人は本気で思う。


「・・・・陛下に、一つ提案がございます」


ヒュースは少し重たそうに、自分は気が進まないとでもいうように、言葉を紡ぐ。


「マーシャル嬢を、研究塔に勤めさせてはどうでしょう?」


その言葉に2人はハッとする。


マーシャルは知らなかった。

自分がいない間に、着々と自分の立場が確立していくのを。

気が付くのは、この言葉が有無を言わさない形で決定したときだった。






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