◆第62話
「なーんか違うんだよなぁ」
そうマーシャルは傍観しながら呟く。
大きくも小さくもないその一言、というよりもマーシャルのその話し方に、ここ最近、訓練をしている騎士たちはビクビクしている。
というのも、マーシャルが独り言のように呟いた言葉には、実は相手がいる。
マーシャルの数メートル先。
淡い水色のドレスに身を包んだ、この国の第一王女が、そこにいた。
彼女の手には、訓練騎士たちが普段見ることのない魔道具がある。
それは魔道具特有の銃のように見えると、シェイラの手にある魔道具を見た訓練騎士は言っていた。
―――――――伝導率が悪いっていうかさぁ。
マーシャルは頬杖をつきながら、シェイラの持つ銃を見つめる。
シェイラが持っている銃はマーシャルが造ったものではなく、元々シェイラが持っていたものであり、護身用として飾ってあったものだ。
マーシャルがどうせ教えるならと護身術を言い出したときに、シェイラが銃の存在を思い出し、武器は使わなければ意味がないというマーシャルの教えの元、現在に至っている。
至っているのだが。
マーシャルはこの銃を見るたびに実は不機嫌になっている。
エドワードにお願いして、銃の的を用意してもらい、ただひたすらにシェイラにその腕前を磨いてもらうという、射撃の訓練。
7日ほどこの訓練をしているのだが、如何せん的から外れる。
あるいは、当たりはするが中心から大きく外れている。
これじゃあ本当に意味がない、とマーシャルは思っている。
しかし、マーシャルは魔法を駆使して剣をふるう戦い方であり、銃に関してはまったくのド素人である。
「どうして当たらないのでしょう・・?私の腕が悪いのでしょうか?」
シェイラは不安そうにマーシャルに問う。
しかしマーシャルは自分が銃を使える人間ではないため、それに答えることはできない。
こればっかりは銃の専門に聞いてもらわなければどうしようもないと思っている。
「魔法の使い方は間違ってないですよ」
銃に自分の魔力を送り込み、それを銃が勝手に弾へと練成して、トリガーを引けばその弾は放たれるという、いたって簡単な仕組みだ。
「じゃあどうして、」
「その銃、少し見せていただいても?」
マーシャルの言葉に、シェイラは持っていた銃をマーシャルに渡す。
受け取ったマーシャルは、まずその見た目をしっかりと確認する。
「・・・・・・へぇ、綺麗だ」
ポツリとそう言って、マーシャルは銃を撫でた。
使われている素材自体は魔力をよく流す銀だが、わざわざ白で上塗りされているそれは、確かに飾られていても問題ないといってもいいほど、美しいものだった。
マーシャルがこれは実用できるもなのかと疑いたくなるほどには。
「これどういう経緯で手に入れました?」
マーシャルはさすがに解体するわけにはいかないと思いとどまり、シェイラに問うた。
「これは・・・私が7つの時に魔法師団長にいただいたものです。護身用にどうぞと」
「魔法師団長に、」
実力はあるけど権力にめっぽう弱い人、とマーシャルの頭の中で変換される。
マーシャルは心の中で唸った。
解体して中身を見てみたい。
しかしこれは王女の持ち物であり、万が一のことがあれば弁償のしようもない。
「あの、」
「はい」
「姉さまは魔道具についてもよくご存知なんですか?」
シェイラの遠慮がちの言葉に、マーシャルは「言ってなかったっけ?」と首をかしげた。
「私、技術士ではないんですけど、こっちのほうが本職なんです」
そう言ってマーシャルは徐に銃を構えると、的に向かって弾を撃ち込んだ。
ガツン、という鈍めの音が聞こえてきたものの、弾は的の端っこにかすったかのように当たっただけであった。
それを見て、マーシャルは顔を曇らせる。
見た目重視すぎやしないかと。
「シェイラ様はこの銃でその身を守りたいとお考えですか?」
唐突にマーシャルはシェイラのほうを向きそう聞いた。
シェイラは少しばかりマーシャルの言った言葉の意味を考える。
マーシャルが言いたいのは、この銃を使いたいか、そうでないのか。
なぜこの銃を使って射撃の練習をしているにも関わらずそんなことを聞かれるのかわからなかったが、それでもシェイラは何も言わずにマーシャルの言葉に答えた。
「そうですね・・できたらこれを使いたいと思うわ」
「できたら、ですか」
「ええ。これはね、さっき魔法師団長にもらったと言ったけど、もらったのは前任の魔法師団長なの」
そう切り出したシェイラはどこか懐かしそうに銃を見つめた。
その瞳はどこまでも優しい。
それだけで、思い出の品なのだとマーシャルにはわかってしまった。
「わかりました」
「姉さま?」
「この銃を数日でいいので、私に貸していただけますか?」
「それは構いませんけど」
「ありがとうございますっ!あ、じゃあ私はこれで失礼します!」
シェイラの言葉に、マーシャルはまるでお菓子をもらった子どものように喜ぶと、礼儀もそこそこにシェイラの前から立ち去ってしまったのだった。
-------------------------------------------------
「シェイラ」
「あら、お父様。どうかなさって?」
シェイラがマーシャルに銃を渡して3日ほど経った頃だった。
いつもならばマーシャルがいるであろう騎士の宿舎へと嬉々として出向いていくシェイラが、どこへも行かずに庭園で過ごしていると、キャレットが声をかけた。
キャレットはシェイラがここ最近活発に行動していることに嬉しくも怖くも感じている。
宝石箱から出てきたときは憔悴しきっていたシェイラだったが今ではその面影なく、毎日を楽しそうに生き生きと過ごしている。
しかし、向かう先はマーシャルの所とはいえ、場所は男ばかりが集まる騎士の宿舎。
もうすぐ成人を迎えるシェイラが誰かを見初めてしまったらどうしようと、キャレットは焦っていた。
騎士団には貴族も多くいるし、特に今の黒騎士団には国中の女の子を魅了してやまない男がいる。
それだけで、キャレットは不安になるのだった。
「最近ずっと庭園にいるね?」
「ずっとって、お父様、3日ほどですわ」
そういうが、ほぼ毎日騎士の宿舎へと行っていたのだ。
庭園に3日もいれば、おや?とシェイラを見ている人ならば思うだろう。
「毎日お嬢さんのところに通っていただろう」
「ちょっと事情がありますの」
フフッと愛らしく笑うシェイラにキャレットは王妃の面影を思う。
シェイラは正妃であるオリヴィアによく似ていた。
「事情?」
「はい。お姉さまが魔道具を少しばかり見てみたいと言われたの」
その言葉にキャレットは少しばかりの違和感を覚える。
「魔道具?」
そしてその違和感をしっかりと口にする。
シェイラは笑って「ええ」と首肯した。
「以前、魔法師団長からいただいた魔道具ですわ。よい機会だからあれを使いたいとお姉さまにお願いしましたの」
花のように笑うシェイラは気が付いていない。
シェイラが言う魔道具の存在を思い出したキャレットが何とも言えない表情をしていたことを。
キャレットは気が付いてた。
前任の魔法師団長がシェイラにあげた魔道具は、弾を撃つことはできこそすれ、的に当てることなど到底できそうもない、飾りに特化した代物であるということに。
そもそも護身用にとシェイラに渡したわけであるが、実際にシェイラが使うことなどないと思っていたし、護衛は騎士がいるからそれで十分だと思っていたのだ。
それが今になって裏目に出た。
「・・そうかい。練習は順調かな?」
キャレット言葉にシェイラは顔を曇らせる。
その表情を見たキャレットは「ああやっぱり」と心の中で言葉をこぼす。
「なかなか的に当たらないのです。お父様、私やはり向いてないのかしら」
「・・・・・そんなことないよ。まだ始めて数日だろう?頑張りなさい」
魔道具の性能は知ってはいるものの、落ち込んでいるシェイラの姿に本当のことを言えずにキャレットはただ励ますしかなかった。




