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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
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◇第6話


――――妹は膨大な魔力をもって生まれた精霊師であり、精霊に愛されている。


小さなときより魔道具を解体しては組みなおし・・という遊びを繰り返していたマーシャルは気が付けば職人も卒倒するほどの腕前を持っていた。

おまけにマーシャルが改造してできる魔道具は、一般的に出回っている魔道具の性能を大きく上回る。

両親はなぜ?と首をかしげていたが、兄であるレイモンドだけは知っていた。

マーシャルは精霊に愛された人間なのだ。

真紅の瞳にその姿を捉え、声を聞き、恩恵を受ける。

精霊が生み出した純度の高い魔石を使った魔道具など、一般に出回っている魔道具が敵うはずもない。


レイモンドはたびたび思うのだ。

マーシャルの技術と強大な精霊の力を借りれば、この国を滅ぼせるほどの兵器さえも造り得てしまうのではないかと。

それはあまりに危険で、そして大いにあり得ることだ。

おまけにマーシャルは何度やめろと言っても魔道具改造を自重しようとしない。

だからつい彼女の婿選びに慎重なってしまうのだけれど。


「お兄様?」

「シャル、お前は普通の娘になりなさい。そうでないと守れなくなってしまう」


とても悲しそうな声色で、レイモンドはマーシャルに言う。

改造すると毎度怒られるマーシャルは、レイモンドがいつも怒った後に悲しそうに発するこの言葉の意味がよくわかっていない。

彼女は自分の造る魔道具がどれほどの価値になるかを知ってはいないから。


「そして然るべきところへと嫁ぐんだ。お前を大事にしてくれる人の元へ」


だからどうか普通の娘として生きてくれ、とレイモンドは心で呟く。

しかしそんなレイモンドの心中など知るわけもないマーシャルは、今さら・・と心でぼやくのだ。


「レイモンド様、よろしいでしょうか」

「どうした?」


レイモンドの説教がちょうど終わりを迎えた頃に、この屋敷の家令であるハートン・ボレストが声をかけた。

老齢の彼は、このレヴィ家に仕えて長い。

もはやハートンがいなければ、屋敷は回らないと胸を張って言えるほどだ。


「屋敷に黒の騎士団ご一行が参られました」

「黒の騎士団?・・・俺、なんかしたか?」


レイモンドは身に覚えのない事態に、訝しげに呟く。

王都で実力重視で集められた黒騎士団が、王都を離れこのような職人街へ来ることなど、そうあることではない。

黒を纏う彼らは、唯一常に帯剣を許された集団であり、前線で活躍する集団である。

そんな彼らがたかだかいち商家であるレヴィ家に来るなど、不測の事態でしかない。


「レイモンド様とお会いしたいとのこと。いかがされますか?」

「王命か?」

「そのようなことはおっしゃられてはおりませんでした」


レイモンドはますます首をかしげる。

彼らの目的が全くわからないからだ。

レヴィ家は真っ当な商家だし、すでに隠居に入った両親も不正などということは行ってこなかったはずだ。

ならば、マーシャルの魔道具だろうかと考えるが、確かに性能は他とは一線を画するものの、危険物を造っているわけではないはずだ。


「・・・まぁ考えてもわからんな。よし、応接室へ案内してくれ」

「かしこまりました」


ハートンは綺麗な礼をして、部屋から出ていく。

その後姿を目で追ったあと、レイモンドはマーシャルを見やった。

マーシャルはどことなく複雑そうな表情をしており、それすらレイモンドは不思議に思える。


「噂の英雄、お前も見るか?」

「興味ないわ」

「例の魔剣が見れるかもしれないぞ」

「・・・・・いいえ、結構よ」

「なんだ、つれないな」


マーシャルは実は後ろ髪を引かれているのだが、5年前にいくら男装していたとはいえ、言葉を交わしているのだ。

なるべく接触は避けたほうがいいだろうと、泣く泣く魔剣を諦めたのだ。


「シャル、くれぐれも」

「改造はしないように、でしょ?わかったわよ」


鬱陶しそうに言い放ったマーシャルは部屋を出て行くレイモンドを睨みつけた。

バタンと扉が閉まったときには深いため息すらはいた。

そっと窓に寄り添えば、外には屋敷に入ろうとしている黒を纏う騎士たち。

否、入ろうとしているのは2人だけだ。

それはマーシャルにとっては見覚えのある2人。

ついさきほどまで、見違えたなどと言って思い出していた、あの2人だ。


「あの魔剣、どうなってるんだろう」


敵に容赦なく猛威を奮っているところをみると、特に問題はないのだろうけれど。

などと、マーシャルは思う。

そしてそれにしても、と。

一体こんなところまで何用だ、と思う。

ばれたか?と一瞬マーシャルは冷や汗を流したが、あのときの自分は少年だったし名前すら名乗っていなかった。

珍しいといわれる、母親譲りの白銀の髪はかつらで隠していたため、易々と身元がばれることなどないはずだ。


「ううーーー、見たい見たい見たい見たいーーー!」


マーシャルの欲望は爆発寸前だった。

自分が無償であげた魔石を使って出来た魔剣をもう一度見てみたいのだ。

5年越しに。

そして彼女はあの時と同様、あまりに欲求に忠実な人間であった。






----------------------------------------






「どうぞ、こちらへ」


レイモンドはやってきた英雄2人に顔を引き攣らせながらも、笑顔で対応する。

実はレイモンドは心の中ではとてつもなく深いため息をついている。

商家であり礼儀と作法は一通り覚えているレイモンドではあるが、予想だにしていない今の状況に眉間にしわが寄らないように努めるのに精一杯であった。

なぜならいくら武人と言っても、目の前に座る2人は紛れもなく貴族であり、それも公爵と侯爵という爵位の中でも高位の位置にいるのだから。


「ご用件を伺ってもよろしいですか?」


レイモンドは黒色を纏う2人に威圧されながらも、はっきりと言葉を発する。

それに驚いたのは、青色の瞳をした黒騎士団団長であるエリックだった。

自分たちの呼び名と黒色の騎士服に威圧されてしまう人間は多い。

それを知っていて騎士服でやってきたのではあるが、ここまで堂々とした態度で見据えてくるレイモンドにエリックは好感を覚える。


「では、単刀直入に」

「はい」

「マーシャル嬢をいただけないだろうか」

「・・・・・・・・・・・・・はい?」


レイモンドはこの時ばかりは、威圧感も礼儀も忘れて、素で言葉を返した。

黒騎士団総出で求婚か?と、飛んだことを思ってしまうほどには混乱しているようだ。


「・・団長、それでは誤解が生じますよ」


エリックの隣に座る青年、エドワードはため息混じりに言って眉間に寄ったしわをのばす。


「話が見えないのですが?」

「失礼しました。こちらの令嬢、マーシャル嬢を頂きたいというわけではなく、お借りしたいのです」

「はい?」


いよいよ話がわからなくなってきたレイモンドは、海底のような藍色の瞳を見つめる。

自分よりも多少年上に見える青年は言葉を続ける。


「マーシャル嬢のお力をお借りしたいのです」


そう紡がれた言葉に、レイモンドは自分の手が冷たくなっていくのを感じた。

もしかしたら顔が青いかもしれない。

レイモンドは自分を見つめる藍色の瞳をただ呆然と見ているしかなく、エドワードはそんなレイモンドに向かってさらに言葉を紡ぐ。


「彼女に会わせていただけますか?」

「シャル・・・マーシャルにですか?」

「はい」


レイモンドはギリッと手を強く握る。

否、とは言えないその申し出に、レイモンドは力なくハートンにマーシャルを呼ぶように言いつける。

ただならぬ事態ということだけは理解しているハートンはレイモンドの言葉に何も言わずに部屋を出ようと扉を開けた。


「ひゃっ!」

「お、お嬢様!?」

「シャル!?」


扉を開けて倒れこむように部屋に入ってきたのは、たった今ハートンが呼びに行こうとしていた本人-----マーシャルだった。






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