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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
56/143

◇第56話





王女が宝石箱から出てきたという知らせは瞬く間に広がった。

その知らせに喜ぶ王城の騎士たち。

歓喜の声を上げる王女推しの貴族たち。

それとは対照的に、見るからに肩を落とす王子推しの貴族たち。


そして、側妃。


「なぜだ!?なぜこうなったのだ!?」


その言葉に言葉を返す者はいない。

側妃はお気に入りで普段から持ち合わせている赤色の扇子を叩きつけて、王女が寝ているであろう私室を睨み付けた。

側妃の予定では、今頃第一王女であるシェイラは魔力枯渇で死んだものとして扱われており、自分の息子であるディートリアが王位を継ぐはずだったのだ。

それがどうだ。

莫大の資金をつぎ込んで宝石箱を造らせたニケルは捕まり、あろうことか目的を違えてしまう始末。

ならばとそれなりの金を出して雇った刺客は黒騎士の手により捕まってしまう。

明朝に侍女に指令を出し牢屋から出したものの、あれはもう使いものにはならない。

レイチェルはギシリと奥歯を噛み締めた。


・・憎い。

憎い、憎い、憎い、憎い!

レイチェルの心の中はその気持ちだけで占領されていく。

レイチェルは思いなおす。

シェイラさえいなければ。

シェイラさえ消えてしまえば、それだけでよかったのに、と。


「・・・そうよ、その娘を殺してしまえば・・」


レイチェルはそう呟いて、赤く濡れるその唇に弧を描いたのだった。







----------------------------------------------







「暇ねー」


マーシャルはそう呟いて、木陰から騎士たちの訓練を見続ける。

王女様が宝石箱の中出てきてしまったのだから、自分の役目は終わったと帰ろうとしたのだが、医師がいくら大丈夫と言えど、元気な姿を目にしなければ安心はできないマーシャルは、王女が目を覚ますまではと、いまだに宿舎に寝泊まりしていた。

今までは王女の私室にある宝石箱の解明にあたっていたマーシャルは、特別忙しくはないが暇ではなかった。

しかし、今は特別することもなく王女の回復を待っている。

つまり暇なのだ。

魔導具をいじくり倒そうにも、いじくり倒す魔導具がそもそもない。

買い出しに行こうものなら、エドワードに限らずなぜか護衛が付いてしまう始末。

平民の自分に護衛など必要ないと言ってみれば、「そんなことは知らない」と一蹴されて終わり。

ならばと思い研究塔に行けば、ウィズを筆頭に、技術者士に捕まって小一時間は帰ってこれない。

結局、マーシャルは1日の大半をこうやって訓練を見て過ごすしかなかったのだ。


「お前よく飽きないな」


騎士たちとの手合わせを終えたエドワードが、汗を拭いながらマーシャルの元へとやってきた。

ちらりとマーシャルが垣間見たのは、鍛え抜かれた逞しい身体。

それを見て見ぬふりをしたマーシャルは隠れるようにため息を小さくついて「飽きてるわよ」と返した。


「じゃあ違うことすればいいのに」

「例えば?」

「うーん・・婿探し?」


エドワードのその言葉にマーシャルは今度こそ盛大にため息をついた。

なぜ平民の、それも職人街の自分が騎士様を婿にしなければならないんだと、そういう思いを込めてマーシャルはエドワードを睨み付ける。

それがエドワードに伝わるわけはないのだが。


「王城内でも練り歩けば、どこぞの貴族様が声でもかけてくれるだろうに」


その言葉にマーシャルは本気で言っているのかと、美人と称される顔を引き攣らせる。

マーシャルは気が付いていた。

ここ最近、どこにいても誰かしらの嫉妬やら羨望やらの視線を感じることに。

むしろなぜこの男は気付かずにここまで平然としていられるのかが、不思議なほどだと思っている。

おまけにだ。

少し前にエドワードがマーシャルを抱えて王城内を歩いたおかげで、元々あった噂に背ひれ尾ひれがつきまくって仕方がないのだ。


「・・知ってまして?貴族様の中では私とエドワード様は今、婚姻関係にあるらしいですわよ?」


マーシャルはにこやかな笑顔で、普段は決して使わないお淑やかな言葉遣いで、エドワードに毒ついた。

マーシャルはたまったものじゃないと思っている。

かたや公爵、かたや平民。

おまけにすでに婚姻関係ときた。

いったいこの噂をどうしてくれようと、マーシャルは少しばかり苛立ってもいるのだ。


「噂だろう?」

「その噂が怖いんですよ?世の中の貴婦人をなめていただいては困りますわ」


マーシャルの言葉の棘は増していく。

ここ数日積もり積もった鬱憤がそろそろ爆発しそうなのである。


「別に困りはしないだろうに」


しれっと言ってのけるエドワードに、思わずマーシャルは眉間にしわを寄せる。

確かにこの男の経歴には傷が付かないかもしれないが、マーシャルは生娘であり婚前の娘でもある。

いくらエドワードとそういう関係ではなかったにしろ、そういう噂が立った人物を嫁にほしいと言う物好きいったいどれほどいようか。

間違いなく、兄であるレイモンドが嘆く。


「困る困らないの問題ではないんですけど」


いやむしろ困る、という言葉をマーシャルは呑み込んで小さくため息をついた。

この噂が城下でしか広まっていないことを切に願うしかなかった。


「婿探ししてる身からしてみれば、とんでもない噂だと思いません?」

「それもそうか」


マーシャルとしては、別に結婚する必要がないと思っていても。

エドワードはマーシャルの言葉に頷いて、マーシャルの隣へと腰かける。

エドワードもここ最近、貴族たちが自分とマーシャルが恋仲だという噂をしていることは知っていた。

婚姻関係にあるというのは初めて聞いたが。

しかしエドワードはそれでいいと思っていた。

実際そうなるように仕向けるつもりでいるのだから。


「ていうか、私絶対ここでは婿なんて見つかりませんよね」

「・・見つける気があったのか」


自分がいる手前、絶対見つからない宣言をしたマーシャルに、エドワードは少しだけ落ち込みながら問う。

まるで自分もマーシャルの目には男として映っていないと言われているようだった。


「いや確かになかったですけど」

「魔導具が恋人だもんな」

「魔剣が恋人のような人には言われたくないですね」


マーシャルはそう言葉を返して、自分とエドワードとの間に立て掛けるようにして置いてある魔剣を見た。

よく手入れされたそれは、鞘に入ったままでもその凄さを見せつけている。


「間違いないな。俺はこいつなしじゃ戦えない」

「ああ、そういえばそうでしたね」

「おい、そこはフォローしろよ」


マーシャルは少し前の襲撃事件を思い返していた。

確かにあの時のエドワードはとても戦いづらそうだったし、マーシャルが魔剣を渡してからはものの3分ほどで決着がついてしまった。


「で?なんで婿が見つからないって?」

「え、だってこんな普通じゃない女の子、いらなくないですか?」


彼女が言う通り、マーシャルは普通の女の子ではない。

何と言っても資格もないのに魔導具を自分の思った通りに造り、あまつさえ解体し、改造までしてしまうのだから。

おまけに精霊に愛された精霊師を超える精霊師。

彼女が精霊に請えば大抵のことは精霊たちが叶えてくれるだろう。

そんな特別を持っているにもかかわらず、神様は飽きずにマーシャルにもう一つ贈り物をしている。

それが、マーシャルの類稀なる容姿だ。

美人と形容される顔立ち。

日に当たれば金とも銀とも言える、この国には珍しい白銀の髪。

宝石のように美しい真紅の瞳。

これだけのものを持っているのだ。

普通ではない。

しかしエドワードはだからこそ、と思うのだ。

技術士であり精霊師であり、加えてあの美貌。

普通でない彼女を狙う貴族は間違いなく、大勢いるのだ。

だからこそ、エドワードは噂を否定もしないし流したままでいる。

それがマーシャルを守る盾に成り得るのなら。


「シャルは見る人が見たら喉から手が出るほど欲しいだろうよ」


そう言ったエドワードの言葉は、マーシャルの耳には届かなかった。










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