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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
54/143

◇第54話


ながらく更新を滞らせておりましたが、再び執筆に入りたいと思います( ..)φ

長期で放置してすいませんでした(:_;)


もうすぐ宝箱編完結です!








知らせがきたのは、昼食を食べ終えて、騎士たちの午後の訓練をマーシャルが見学し、エドワードが手合わせをしている時だった。

木剣がバキバキと当たる音と一緒に、訓練場にバタバタと走り寄ってくる音が聞こえてきたのだ。

訓練場に、ほかのどの施設にも目もくれずにやってきた青騎士は息を整えることを待つことなく、その場で大きな声を張り上げる。


「お、お、王女様がっ!第一王女が、出てきましたっ!!」


その言葉を聞いた騎士たちはその手を止めて、周りと目を合わせる。

マーシャルはエドワードと目を合わせる。

2人の間には、様々な感情が見えた。

動揺と安心、不安と疑念。

マーシャルの真紅の瞳はこれ以上ないほどに揺れていることに気が付いたエドワードは、持っていた木剣をその場に置くと、マーシャルの隣に立てかけておいた魔剣を腰に差して、「行こう」と小さく呟いた。


「シャル、」

「わかってる」


エドワードが手を引く中、マーシャルは珍しくその手を震わせていた。

王女が箱から出てきたのだから喜ぶべきことなのだろうが、出てきた状況までは知らされなかった。

マーシャルは、最悪の展開を自分の頭に思い描いていた。


「大丈夫だ。だから、行こう」


マーシャルの震える手をぎゅっと強く握ったエドワードは、そうマーシャルに言う。

その言葉に、マーシャルもうなずく。

自分がここで怖気づいていてはいけないのだ。

自分がやれるべきことは全てしてきたし、何よりも最善を尽くしてきたつもりだ。

マーシャルはそう思いなおすと、しっかりと自分の足で王城へと向かったのだった。






-------------------------------------------------











「エド!」


王城へと入ったもののどこへ行けばいいのかわからっていなかった2人に声をかけたのは、今朝ほど顔を合わせたヒュースだった。

ヒュースはいつものような冷静な落ち着きのある青年ではなく、バタバタと王城内を走り回っていた。

いや、彼だけではない。

王城にいる侍女や侍従、貴族までもが慌ただしく王城内を駆け巡っていた。


「ヒュース!第一王女は!?」


エドワードはどこか慌ただしくしているヒュースを呼び止めて、王女について聞いた。

その瞬間、手を握っていたマーシャルがピクリと反応した。


「魔力をだいぶ吸われたようで、今は眠っておられるが・・・箱から、出てこられた」


そう言ったヒュースは柄にもなく、その茶色い瞳に涙を流していた。

その様子に、安心したのはマーシャルだった。


「うわ・・大丈夫か?」

「・・・助かったん、ですか?」


その場にへたり込むように腰をおろしたマーシャルは、信じられないと言わんばかりの言い方で涙を拭うヒュースに聞き返す。

その手はいまだにエドワードと繋いだままだ。


「はい、命に別状はないとのことです。ありがとうございました、マーシャル嬢。本当に、」


ヒュースの言葉にマーシャルは深紅の瞳からハラハラと大粒の涙を流す。

そして「よかった」と小さく呟いた。

そんなマーシャルを見たエドワードとヒュースは顔を見合わせて、珍しく笑い合った。


「落ち着いたら、王座に来てください。陛下が会いたいと仰ってますから」

「それ急ぎか?」

「まぁ今すぐとは言いませんよ。落ち着いてからで」


そう言い残したヒュースは、先ほど2人が見かけたときと同様に走っていってしまった。

そんなヒュースの後姿を見送ったエドワードは、いまだに床の上に座り込んで安堵の涙を流すマーシャルに視線を移す。

マーシャルはよかった、よかったと、まだ見たこともない王女のために涙を流している。


「いつまで泣いてんだよ」

「だって、」

「助けるためにやってたんだろうが」


泣いている女の子を前にしてかける言葉にしてはいささか冷たい気もするが、エドワードの手は変わらずマーシャルの手をしっかりと握っている。

座り込むマーシャルの顔を覗き込むようにしゃがんだエドワードは、すっかり泣きはらしたマーシャルを見て苦笑を漏らす。

そしてよくやったと言わんばかりに、エドワードはマーシャルの白銀の髪を撫でた。

それは慈しむように。

そして愛おしむように。

あるいは労いの意味を込めて。


「よくやったよ、シャルは」

「うん」

「ちゃんと王女も出てきただろ」

「うん」

「ほらもう、いい加減泣くのやめろって。俺がいじめたみたいだろうが」


エドワードはそう悪態をつきながらも、マーシャルの頬に伝う涙を拭う。

すっかり泣きはらしたマーシャルの目は充血し、真紅の瞳も相まって、ある動物をエドワードに連想させた。


「ウサギみてぇ」


ただでもその白銀の髪と真紅の瞳のせいでウサギのようだと揶揄されるのだ。

目が充血してしまえば、ウサギそのものだろう。

マーシャルはいまだに目に涙を溜めながらもエドワードの肩をポカポカと叩く。

なんとも和やかな時間がそこに流れた。

マーシャルがすっかり泣き止んだのを確認したエドワードは、スッと立ち上がると辺りを見渡してからマーシャルを見た。


「さて、ヒュースの話じゃ陛下がシャルに会いたいって言ってるってさ」

「え!?」

「声でかいし」

「ご、ごめん・・」


泣くばかりでヒュースの言葉をしっかりと聞いていなかったマーシャルはエドワードから告げられた言葉に顔を引き攣らせた。

貴族の礼儀作法など付け焼刃に近いマーシャルにとって、この国で最も偉く高貴な人物と会うなど、もっての外であり、何よりも避けたい懸念事項であった。

そんな懸念事項が、泣きじゃくった今にやってくるとは。

驚くなというほうが無理な話である。


「まぁ王女が助かれば謁見する可能性はあるって最初のほうに言ったしな。腹くくれ」

「他人事だ」

「まぁ間違いないからな」


マーシャルは恨めしそうにエドワードをジトリと睨み付ける。

それが上目遣いで見上げているということを彼女は知らない。


「ほら行くぞ」

「・・・・・えっと、エド?」

「なんだよ」


マーシャルの手を握ったままのエドワードはマーシャルを立たせようとその手を優しく引っ張る。

その動作を止めたのは座りっぱなしのマーシャルだった。

マーシャルはしばらくきょとんとした顔を作った後、とても申し訳なさそうにエドワードに言う。


「えっとね、その、安心しちゃって、なんかね、・・腰、抜けちゃったみたい」


最後にテヘッ☆とでも付きそうな言い方だった。

そんなマーシャルにエドワードは呆れたような視線を投げかけると、また周りを見渡した。

マーシャルだとて、自分で自分のことに呆れている。

彼女は自分が人より図太くできていることを知っているし、まさかこんなことで腰を抜かすことになるとは思ってもみなかったのだ。


「ごめんね?」


だからもう少しだけ待ってくれる?という言葉を含ませた謝罪だった。

それを聞いたエドワードは何かを思案した後に、「まぁそれもありだな」と小さく呟くと、あろうことか、座り込んでいたマーシャルを抱えて歩きだしてしまった。


「へ?やだ!エド、おろして!」


いきなり襲ってきた浮遊感に怯えつつも、エドワードにお姫様だっこされていることに気が付いたマーシャルはエドワードの腕の中で暴れる。


「喚くな、うるさい。自分で立てないんだから仕方ないだろ」

「だからもう少し待ってって言ったじゃん」

「いや言ってないから」

「いやわかるでしょ!とにかくおろしてってば!」


こんなところを誰かに見られたものならたまったものじゃないと、マーシャルは必死におりようと暴れる。

それを防ぐように、エドワードの腕はマーシャルをしっかりと抱え直す。


「落とすだろうが。だいたいそうやって暴れるほうが目立つ」

「じゃあおろしてよ」

「歩けない奴が文句言うなよ」


そう言われてしまえば、マーシャルは何も言い返せずにグッと黙る。


「そうそう、そうやって大人しくされときゃいいの」


そう言ったエドワードの顔は誰も見たことがないくらい緩んでいたとか。

それを2人が知るのは、もう少し先のこと。








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