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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
53/143

◇第53話





朝食を食べたエドワードとマーシャルは、少し休んだ後にエリックが待つであろう執務室へと向かった。

ほんのわずかな緊張を纏った2人は、執務室の前までやってくると、顔を見合わせた。


「緊張してる?」

「しないわけないじゃないですか」


エドワードの言葉にマーシャルは素っ気なく返す。

それに苦笑を漏らしたエドワードは扉の方へと向き直すと、遠慮気味に扉をノックした。

中から聞こえてきたのは、今朝にも聞いた声。

それを聞いた後に、エドワードはそっと執務室の扉を開けてマーシャルを中へと促した。


「ヒュースもいるし」


マーシャルが入ったあとに続けて執務室に入ったエドワードは、中を確認するなり目が合った宰相であるヒュースを見て声を出した。

王城に勤めている宰相であるヒュースが宿舎に来ることはあまりない。


「こればっかりは黒騎士に任せきりにすわけにはいきませんからね」


ヒュースはため息まじりにそう言うと、やや疲れ気味に眼鏡のブリッジを上げた。

いや、疲れ気味ではなく彼は疲れていた。

日を追うごとに過激化する王位争いとそれにまつわる貴族たちの諍い、そして先に起きた魔物事件と今朝方起きた逃亡事件の対処と、ヒュースはここ連日寝る間も惜しんで職務に当たっていた。


「お前早死にするぞ」

「そう思うならどれか一つでも代わってくれません?」


エドワードの言葉にヒュースは射殺さんばかりの殺気のこもった笑顔で対応する。


「・・とりあえず話し合いを始めようか」


エリックはヒュースの笑顔に慄きながらも、話を進めようとみんなを席につかせる。

執務室に置かれた、なんとも質素なソファに向かい合って座る4人の空気は異様なほど重い。


「とりあえず、今朝方起きたことについてだが、」


重たい空気を破ったのは、エリックだった。

4人の間にある机にはドータラスについてまとめられた紙と、今朝方起きた逃亡事件についてまとめられた紙が数枚置かれている。


「詳しく説明していただけますか?」


ドータラスの逃亡に関しては、エドワードもマーシャルも朝食をとっているときに初めて知ったことであり、詳しい内容については何も知らされてはいなかった。


「そうですね・・・今朝、といってもほんの数時間前ですけど、朝練を終えた青騎士が尋問をするために地下牢へと向かったんですよ」


ヒュースはそれだけ言って、いったん言葉を区切ると、机の上に散らばっている紙をヒラリと手に取った。


「で、行ってみればその牢屋の中には誰一人もいなかった、という話です」


なんとも簡潔に締めくくったヒュースの言葉にエドワードは思わず顔を顰める。

王城の地下牢といえば、警備もしっかりしているし、その目を掻い潜って牢屋から抜け出すなど、どれだけ手慣れた殺人鬼でも難しいだろう。

それこそ、こちら側に手助けする仲間でもいない限り。


「つまり内通者がいたと」

「内通者かどうかはわかりませんが、それに近しい者がいたことは確かでしょうね」


ヒュースは自分で言って頭を抱える。

自分が仕事場としている王城内で、そのような人物がいるなど、あまり考えたくはないのだ。

普段どれほど周りの貴族が無能だと言い張っていてもだ。


「それに近しいとは?」

「・・この王城に勤務している者をあらかた調べましたが、騎士にも給仕者にも貧民街出身の者はいない」

「つまり、誰かがあの男を雇い、この王城内に入れ、黒騎士の騎士服を貸し、そして牢屋から逃がしたということになります」


その言葉に、4人がそろってため息をついた。

内通者どころか、しっかりとした協力者である。


「ニケルはどうしてる?」

「あの男なら未だに牢屋にいますよ」

「つまりニケルを切ってドータラスに乗り換えたってことか?」

「それはどうでしょう?」


マーシャルは首を傾げて呟く。


「バーゲイ伯爵が、あの魔物らしきものを放った事件はおそらく突発的なものだった思います。それか単発的なもの」

「というと?」


マーシャルの呟きにヒュースは目を光らせながら聞き返す。


「すごく計画性がなかったので。バーゲイ伯爵は私の短剣にご執心でした。私のような小娘がそんな代物を持つべきではないと言っていましたから」


マーシャルの言い分にエリックとヒュースは頷きはしないものの納得する。

マーシャルに伝えてしまえば怯えると思ってエドワードにも口止めをしているのだが、牢屋に入れられたニケルは譫言のように「あの女から短剣を奪え。あれはあんな下賤な女が持つべきものじゃない。あれは俺にこそ相応しいんだ」と言っているのだ。


「それに私だけを狙うのならば、昨日の襲撃のようにエドがいない時を狙うほうが確実じゃないですか」


実際に1度目の襲撃の時はエドワードがいない時にマーシャルは狙わている。

わざわざ英雄と呼ばれ焔鬼と恐れられているエドワードが隣にいる時に襲撃するメリットはない。


「じゃあやはり切り捨てか」

「その線が一番濃いですね。問題はドータラスが今どこに潜伏しているか、ですね」


エドワードの言葉に、再び重たい空気が生まれる。

牢屋にいない以上、マーシャルが狙われるのは必須であり、おそらく相手もそのつもりでどこかでその好機を探っているだろう。

1度とはいえ、黒騎士団の宿舎に事も無げに侵入され、あまつさえ逃がしてしまったのだ。

騎士団としてもこれ以上の失態は繰り返したくないというところだ。


「青にも呼びかけたほうがいいだろうな」

「内部の探るのならば赤にも要請したほうがいいですかね」


エリックとエドワードはそう呟いて深いため息をついた。

その光景をマーシャルは珍しいと思う。

2人が書類の整理が終わらずため息をついているところや、予想外の魔物と出くわしてため息をついているところをマーシャルはよく目にしていたが、他色への応援の要請にここまで深いため息をつくとは思っていなかったのだ。


「不思議そうな顔をしてますね」

「え・・まぁ、少し」


マーシャルの表情に気が付いたヒュースは苦笑を漏らしながら言う。


「そもそもマーシャル嬢はなぜ騎士たちが色分けされているかご存知ですか?」

「えっと・・仕事の効率を上げるためじゃないんですか?」


人には向き不向きがあり、適材適所というものが当然ながら存在する。

その適材適所に人員を分け、仕事の効率を図るためにわざわざ色を分けているのだと、マーシャルは思っている。

あとは見やすさ。

色が分かれているほうが、誰がどの団に所属していてどういう役割を果たしているのか、一目瞭然だ。


「いいえ、違います。いや、違いはしませんけど。そういった理由も確かに込められてはいますから」


ヒュースは机の上に散らばっていた紙を綺麗にまとめながら答えていく。


「黒と青と赤・・あと白ですか。その騎士団に誇りを持つことはいいことだし、誇りを持ってやってほしいとは思いますけど、如何せんその誇りが高いんですよ」

「・・誇りが?」

「簡単に言うと、ウマが合わないんですよ。仲が悪い。何でなんですかね、色を分ける前から仲が悪いんですよ」

「たまたまですか?」

「偶然なのか、そういう人たちが集まりやすいのか、いつまで経っても仲が悪いですよ」

「じゃあそのための色分けでもあると」

「そうです。マーシャル嬢は頭の回転が速いですね。喚くしか能のない貴族たちに見せてやりたいですね」


ヒュースはそう言いきると、紙束を机に置いて「では、戻りますね」とだけ告げて執務室から出ていってしまった。

しっかりと毒だけ吐いて。

その後姿をしばし見送った後、エリックはソファに深く腰掛けた。


「セティはいいんだよ、セティは。問題は青だよ」

「青の騎士様ですか?なにか問題でもあるんですか?」


マーシャルにとって、青騎士というのはユーリウスのイメージしかない。

つまり飄々としたチャラい男というイメージだ。


「青の騎士団長は団長の幼馴染でさ。超が付くほど仲悪いの」


と、エドワードは耳打ちして教えてくれた。

耳打ちするときにかすかにエドワードの息がマーシャルの耳にかかる。

マーシャルはほんのりと頬を染めてしまったのだった。

そんな様子をソファに深く座りながら眺めていたエリックは内心で盛大な舌打ちをついたのだった。








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