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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
52/143

◇第52話




マーシャルがエドワードの部屋から出てきた。

朝を迎えた騎士たちの食堂では、その話で持ち切りだった。

朝食を食べようとエドワードの部屋を出たマーシャルをたまたま自室に戻っていた黒騎士に見られ、瞬く間に他色の騎士たちにまで広がってしまったのだ。

そのおかげで、エドワードとマーシャルは向かい合って食事をするも、なんとも居たたまれない気持ちになっていた。

まるでそれはマーシャルが初めて騎士の宿舎にやってきた時のように。


「見られてますねー」


無言でいることが辛くなったマーシャルは目の前で黙々と朝食をとるエドワードを見ながら言った。

マーシャルの言葉にエドワードは一度だけ辺りを見渡してため息をつく。

エドワードは自分の見た目や副団長や爵位持ちという地位も相まってか、人に見られることには慣れているつもりだ。

それでも、今回のような視線にはかなり堪えていた。


「あ、水どうぞ」

「悪いな」


マーシャルはエドワードに自分の分の水が入ったグラスを渡した。

エドワードはそれを断ることなく受け取ると、ぐいっと飲み干した。

上げた頭をカクンと落とすと、エドワードの視界が心なしか揺れる。

それと一緒にやってくる頭痛にエドワードは顔を顰めるも、そんな様子を見ているマーシャルは苦笑を返すしかなかった。


「体調、大丈夫ですか?」

「そうだな、すこぶる悪いな、これは」

「ですよね」

「まぁ団長を恨むな、これは」

「確かに」


エドワードの言葉にマーシャルは首を縦に振って肯定するが、マーシャルは知らない。

エドワードがいろいろな意味でエリックを恨むと言っていることを。

そんな会話をしているとも知らずに、エドワードの後ろに現れたエリックはにこやかに2人に挨拶をすると、エドワードの隣の席に座った。


「どうだった?やっぱり安心安全だったでしょ?」


エリックはパンを齧ってから2人に向かって言った。

それにエドワードは無言を返し、マーシャルは曖昧な笑みを返す。

そんな2人の反応にエリックはおや?と、なんともわざとらしく首を傾げた。

エリックだとて、安心安全と言ってマーシャルをエドワードの部屋に泊めさせたが、本当に安心安全だとは思っていない。

エドワードも男だし、おまけにマーシャルのことを好いている。

万が一が起こりうる可能性がないわけではなかった。

まぁ他の騎士に任せるよりは、その万が一の可能性が低いとは考えていたのだが。


「何か問題があったのかな?」


にこやかにエリックは問うと、無言を貫くエドワードを見た。

エドワードはそのまま無言を貫くつもりであったが、隣からの有無を言わさぬ視線に、ため息をつくという返事をした。

それは諦めにも似たようなため息。


「特には」

「本当に?」


エリックは今度はマーシャルを見た。

マーシャルはエリックの青い瞳に少しだけ肩をビクつかせ、すっと目をそらしてエドワードを見た。

昨日の夜。

2人きりで同じ部屋。

何が起きてもおかしくなかった場面で、実際には何も起こらなかったのだ。

否、起こらなかったいえば嘘になる。

エリックやほかの騎士たちが思っておる、あるいは期待しているようなことは何一つ起こらなかった。

むしろ起こせなかったというほうが正しいのかもしれない。

なぜなら、昨日の夜、マーシャルが風呂からあがりエドワードの服を着て、髪を乾かしてベッドに戻った時には、エドワードはすっかり酔っていたからだ。

エドワードもそこでやめればよかったものの、マーシャルが寝付いたあとも酒を飲み続け、結果的に泥酔。

そして明け方に目を覚ましたマーシャルに介抱してもらうという、なんとも穴があったら入りたい愚行をおかしていた。

マーシャルはこれを言うべきか迷う。

正直に話せばエドワードの矜持にも関わるだろうと、容易に想像がついたからだ。

エリックならば笑って済ましそうだが、これがほかの騎士たちに広まってしまえば大変なことになる。


「そうですね、エリック様が心配されることはなにもなかったですよ」


マーシャルはにっこりという微笑み付きで言うと、いつものデザートであるヨーグルトを口に含んだ。

ヨーグルトを味わっていたというよりもヨーグルトに全神経を集中させていたマーシャルは気が付かなかった。

マーシャルの物言いに、エリックが何かに感付きにっこりと微笑んでいたことを。


「まぁ仲がいいのはいいことですけどね」

「仲がいいねぇ、」


エドワードはため息混じりにエリックの言った言葉を繰り返す。

その様子にエリックは苦笑してみせた。


「で、本題だけど」


そう前置いて、エリックは食べていたパンをごくりと飲み込む。

声量は対面しているマーシャルに気が付かれない程度で、しかし隣にいるエドワードには聞き取れる程度。

エドワードは眉をひそめた。


「昨日捕まえた男だけど」

「ヒュースがどうせ尋問するんでしょう?」


この国の宰相がするのもどうかと思うのだが、ヒュースは捕らえた敵を精神的に追い詰めることに長けていた。

むしろ楽しみにしているといえる。

日頃から、使えないけど仕事をさせないと文句を言ってくる貴族たちを相手にしているヒュースの唯一といってもいいほどのストレス発散方法であった。

その確認を今更してくるのかとエドワードは不思議に思ってちらりとエリックの顔を見れば、エリックは神妙そうな顔をして首を横に振った。


「じゃあ誰が?」

「・・誰もないよ」

「というと?」

「逃げられた」

「・・・・・・はい?」


エドワードはエリックの顔を凝視する。

青色の瞳は真剣にその事実を伝えている。

エドワードは頭痛のする頭を抱えたくなった。


「今朝見に行ったら、見事にもぬけのからだったよ。内側から鍵を壊した形跡はないから誰かが手を引いたとみえるね」

「・・・これ、今ここでシャルの前で話す話ですか」

「やっぱりそう思う?俺もそう思ってたんだよね」


エリックは真剣な表情から一変して、にこやかな笑顔をエドワードに向ける。


「じゃあ悪いけど、今日は執務室に来てくれる?あ、もちろんマーシャル嬢も連れてね。命を狙われてるのは彼女だから」


エリックはそう言うと、いつの間にか食べきっていた朝食の皿たちを持って、席から立ち上がる。

ちなみにエドワードの皿には、普段ならばすでに食べ終わっていてもおかしくないはずの朝食がいくらか残っている。

二日酔いのせいで、まったくと言っていいほど胃袋に食べ物が入らないのだ。


「・・・わかりました」


エドワードはそれだけ言うと、自分の眼前に残されている朝食をちらりと見た。

水ならばいくらでも飲めるのだが、食欲が訓練後だというのに全くない。

どうしたものかと思案していると、食器を厨房に返し終えたエリックがエドワードの肩を去り際に叩いた。


「飲み過ぎはよくないよ?非番じゃないんだから」


ね?と子供に言いきかすように笑ったエリックを見たエドワードは、エリックに聞こえない程度の音量で舌打ちをついてしまった。

どうやらエリックは、エドワードが昨日あびるように酒を飲んで二日酔いになっていることに気が付いているようだった。

なんとも侮れない男だと、エドワードもマーシャルも思う。


「シャル」

「なんですか?」

「今日は悪いが俺の用事に付き合ってくれるか?」


マーシャルはその申し出に目を丸くする。

エドワードは基本的にマーシャルの護衛であるため、マーシャルの行きたいところについてくるというスタンスととっている。

そのため、あまりエドワードの用事に振り回されることなはいのだ。


「いいですよ?」

「悪いな」


マーシャルは笑顔でこたえる。

それにエドワードは簡単に謝罪をすると、胃に詰め込むべく残っていたパンにかじりついた。







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