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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
49/143

◇第49話


急ぎ足、急ぎ足(/・ω・)/




マーシャルの目の前には、真剣を持ったエドワードが相手の剣を受けて立っていた。

その額には汗が流れていることから、エドワードが訓練の後そのままここに来たということにマーシャルは気が付く。


「はっ、鍵壊したのか?焔鬼さんよぉ!」


男は懐から取り出した短剣をエドワードめがけて切りつけるが、それを簡単に避けたエドワードは足蹴りを食らわして男との間合いをとった。


「で?シャルこれどういうこと」

「むしろ私が聞きたいんですけど。なんで騎士様の宿舎にこんな易々と暗殺者に侵入されてるんですかね」


疑問形ではないその物言いにマーシャルはほんのわずかな苛立ちを感じたが、それどころではないことをわかっていたため、悪態をつくだけにとどめる。


「まぁ団長か俺に会わなきゃ、誰が黒騎士かなんてわかんねぇからな」

「それ本気で言ってます?」


マーシャルはエドワードの言葉に呆れ半分で返す。

精鋭部隊などと言われているくせに、黒騎士同士の顔を覚えていないなどありえないだろうに。

そんなことをマーシャルが考えているとエドワードは想像がついてしまったため、今度はエドワードが呆れたようにため息をついた。


「お前な、入団しては辞めていく黒騎士がどれだけいると思ってんだよ。いちいち覚えてられるか」


精鋭部隊という言葉だけに憧れて入団してくる騎士はことごとく辞めていき、危険の少ない青騎士になりたがる。

いったん黒で扱くという通例行事が新米騎士たちにはあるため、黒に入団したがらない騎士たちが多いのだ。

もっとも、今はそんなことに嘆いている時間などないのだが。

エドワードはそう思いなおして目の前にいる男を見据える。

足蹴りしたときにしっかりと相手の鳩尾に入ったらしく、男は立ち上がりながら鳩尾を痛そうにさすっていた。

男の顔をしっかりと見たエドワードは、その顔に見覚えがあって顔を顰める。


「お前、ドータラスか?」

「あ?なんだ、俺のこと知ってんのか?」


エドワードの信じられないと言わんばかりの物言いに、ドータラスと呼ばれた男はニヒルな笑みを浮かべる。

なんとも獰猛なその笑みに、エドワードは嫌悪感丸出しで舌打ちをついた。


「貧民街出身の根っからの殺し屋だろう」

「ほー、俺も有名になったもんだな。・・にしては、ここの騎士たちは俺に無反応だったけどなぁ?」


ニヤニヤと笑うその顔にエドワードはさらに舌打ちをつく。

こんなことならば、団長であるエリックに早々にこの男の存在を騎士たちに言うように申告するべきだったと、エドワードはひとり後悔する。

ドータラスという男の話は、実は諜報部隊である赤騎士から聞いていた。

貧民街に手慣れで、その腕は本物だと言われる、とんでもない殺し屋がいると。

しかし貧民街からこの王都まではかなりの距離があるし、現段階ではそこまで脅威になるわけではないだろうと思っていたエドワードは、エリックにまだ言わなくてもよいだろうと話していたのだ。

それがまさかこんな形で対面することになるなど、想像すらしていなかった。


「誰の差し金だ?」

「それはその嬢ちゃんにも聞かれたがな、言うと思ってんのか?」

「言ってもらわないとこっちが困るんだよ」


エドワードはそう言うと、真剣を構える。

その姿を見たドータラスは嬉しそうに笑みを深めた。

ドータラスは貧民街、それも貧民街の中でも更に荒れた街で育った。

窃盗や殺しなど、日常茶飯事あり、そうしなければ自分が殺される、生きるために人を犠牲にするようなそんな街だった。

抵抗がなかったのかと問われれば、答えはノーだ。

最初こそは、人を殺すということに吐き気すら覚えたほどだ。

それがどうだろうか。

1年もすれば、人を殺すことに慣れ、いつしかそこに快感を覚えるようになった。

彼はいつしか、生きるためではなく自分の快楽のために人を殺すようになった。

それが、今のドータラスという男だった。


「聞きたきゃ俺を殺せよ!」


そう言って、ドータラスはエドワードに切りかかる。

ドータラスの言葉に、死んだらそれこそ聞けないだろうがと悪態をつきながら、エドワードはドータラスの剣を正面から受ける。

金属特有の甲高い音が聞こえる。

その様子を見ていたマーシャルは気付かれぬように、そっとその部屋から逃げるように姿を消した。


「へぇ、さすが焔鬼と呼ばれるだけあるねぇ、そうこなくっちゃな」


ドータラスはところどころに傷を負いながらも楽しそうに笑った。

快楽に飢えた獣、というよりも戦闘狂という言葉の方がしっくりくると思いながらも、エドワードは口にせずに舌打ちだけつく。

どうにも、エドワードは動きづらいのだ。

それはここが狭い部屋だからというわけでも、ましてや相手が強すぎるからというわけでもない。

普段から腰に差しているあの魔剣でない、ただそれだけで、エドワードはどうにも調子が出ないのだ。

それはたんに言い訳にしかならないのだが。


「いいのか?シャルは逃げたぞ?」

「シャル?ああ、あの嬢ちゃんか。心配ない、あんたを殺したらすぐに殺しに向かうさ」

「その時は黒騎士が総出で出迎えてくれる」


少なくとも、エリックは出迎えるだろうとエドワードは思っている。

もっとも、この時間にエリックが仕事をしていて、すでに寝ていなければの話ではあるのだが。

そんなことはいくら考えたってきりがないので、エドワードは目の前の男をいかに倒すかを思案する。

現状、エドワードのほうが劣勢だ。

剣を扱いきれてないのだから。

それに関しては、エドワードはため息一つで片づけて訓練のやり直しだなと肝に銘じる。


「さぁ、どんどんいくぜぇ!」


ドータラスはそう声を上げると、いっきにあいていた間合いを詰める。

それに反応したエドワードは、ドータラスと幾度となく剣をあわせる。

部屋には金属の音だけが響く。

ドータラスに少しばかり圧されながら、エドワードはドータラスの剣技に舌を巻く。

騎士にでもなれば、そこそこいいところまでいけただろうに、惜しいなんてことを思うエドワードは一瞬のその気の緩みから手から剣を叩き落とされた。

その痛みに手が痺れるが、すぐにマーシャルの治癒能力付きのピアスのおかげで、痺れがおさまっていく。

しかし、状況は最悪だ。

エドワードの体には大したダメージは無いものの、戦うための剣がない。

叩き落とされた剣は、カラカラという音を立てて男の足元まで転がってしまったからだ。


「俺の勝ちだな」

「どうだろうな?」


ドータラスの言葉に余裕ぶって返すエドワードだが、実際ドータラスの言う通りこのままではエドワードの負けだ。

さすがに拳で剣に勝とうとは思わないし、勝てないことをわかっている。

まずい、とエドワードは顔を顰める。

それとは反するように、ドータラスは口元に弧を描く。

勝敗が決まった瞬間だった。

エドワードに向けて、その剣が振り下ろされる。

エドワードはがらにもなく、その目を閉じた。


―――その刹那。


ガキィンという、鈍くも高い金属音が聞こえてきた。

何事だとエドワードがその目を開ければ、見覚えのある白銀の髪が目の前にあった。

そしてそのさらに前には、男の力任せの一撃をギリギリで耐える、見覚えのある赤く煌めく剣。


「シャル、」

「戦場で目を瞑ったら死ぬんでしょ?ていうか助けて。もう本当腕限界」


せっかくかっこよく助けたのに台無しである。

エドワードはそんなところに苦笑すると、マーシャルの手に自分のそれを重ねて、その魔剣に感触を確かめる。

マーシャルはエドワードがその魔剣を自分の手から取っていくのを感じると同時に、エドワードの背中へと一目散に逃げた。

それを目で確認したエドワードは、ドータラスの剣を力で押しのけると、1歩前へと出た。


「勝負はこれから、だな」


エドワードはそう呟くと、赤く煌めく魔剣を優しそうに見つめた。









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