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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
46/143

◇第46話






「なぜだ!?なぜいつまで経ってもあの王女は死なぬ!?」


煌びやかな部屋の片隅で、この国の側妃であるレイチェルは叫ぶようにして言った。

人払いは済んでいる為、その言葉に誰かが言葉を返すことはない。

レイチェルは苛立たしげに、王都の西側を睨みつけていた。


レイチェルの計画では、いや、あの宝石箱を造りだした技術士の話では、王女の魔力量はもっても数ヶ月であり、そろそろ魔力が底を尽きる頃になるはずなのだ。

王女の魔力を食べつくした宝石箱が、また次の誰かをその中に閉じ込めようと、レイチェルには関係ない。

第一継承権を持つシェイラがいなくなれば、それでよいのだから。

シェイラさえいなくなれば、玉座は第二継承権を持つディートリアにまわってくる。

レイチェルから言わせれば、宝石箱に食われた時点で王女はいないも同然であり、すぐにでもディートリアの継承権を繰り上げるべきだと思っていた。

それでも陛下が助ける術を探すと言うから、傍観してシェイラが完全にいなくなるのを待っていたのに。

王女はいっこうに消えないではないか。

どれだけ待てど、ディートリアの継承権が繰り上がることも、王女がいなくなることもない。

これが、レイチェルにとっては我慢ならなかった。

おまけに、宝石箱を造った技術士は今は王城の地下にある牢に閉じ込められている。

宝石箱の件がばれたからではない。

王城への登城を禁止されていたにも関わらずこちらへ赴き、化け物を王城内に放ったためだと、レイチェルは聞いていた。

それが余計に彼女を苛立たせた。


「・・とにかく、一刻も早く王女を殺さなければ、」


レイチェルは、その美しいと形容される顔を歪め、カリッと爪を噛む。

彼女の前には鏡はないけれど、彼女の顔はおそらく誰が見ても悲鳴を上げるほどには険しい顔になっていただろう。

今の彼女には美しいと形容されるものは何一つない。

むしろ醜いともいえる彼女は、ふいに真紅の瞳に白銀の髪をした少女のことを思い出した。

たった一度だけ会ったときは、大して気にも留めていなかったが、ここにきてレイチェルはある可能性について気が付く。


「・・まさかあの娘が・・?」


あの時、マーシャルは言っていた。

宝石箱を開ける手立てはないと。

その方法は見つかっていないと。

あと数ヶ月は必要になると。

俯いていて、その表情こそはわからなかったが、もし彼女が自分に対して嘘を言っていたのだとしたら。

本当は開ける手立てがあって。

本当はその方法を見つけていて。

本当はすぐにでも王女を救えるのだとしたら。

いまだにあの王女が宝石箱の中に閉じ込められている今に納得が出来る。

ギリッと、レイチェルは歯軋りをする。

もしそれら全てが事実ならば、レイチェルはマーシャルの手のひらの上で転がされていたことになる。


「あの娘さえいなければ・・」


レイチェルはそう小さく呟く。

その目は狂気で満たされている。

彼女が見据えるのは、その部屋の窓からは見ることのできない、西側にある騎士の宿舎。

そこにいるであろうマーシャルのことを思って、レイチェルは狂気に満ちた笑みを浮かべたのだった。







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「おや、マーシャル嬢じゃない」

「・・・ディートリア王子」


どうしてあんたがここにいるんだ、という言葉を呑み込んだマーシャルは、予想外の先客に足を止めた。

こういうときに限って、いつもマーシャルの後ろを離れないエドワードがいない。

つくづく間の悪いというか、使えない男だ・・と、マーシャルは本人には口が割けても言えないこと思いながら、ディートリアのことを見た。

王族特有の金色の瞳は、いつにもなく憂いを帯びている。

普段マーシャルが座る席に腰かけ、ただじっと、その宝石箱を見つめている。

マーシャルはその様子をただじっと見ているしかできなかった。


「まだここに姉上がいるのだな」


どれほどの時が経ったか、はたまた全く時は経っていなかったのか、マーシャルにはわからなかったが、徐に、ディートリアはそう呟いた。

その言葉にマーシャルは首肯する。

そして、その命が尽きかけていることを言おうとして、口を噤んだ。

否、言えなくなってしまったのだ。

マーシャルの目の前にいる彼は、今にも泣きそうな顔で力なく笑っていた。


「・・・悲しいですか?」

「そうだね・・父上からも母上からも、姉上はいつかいなくなると聞かされているから」


ディートリアは力なく言うが、その2人が言う"いなくなる"の言葉には大きな違いがあることを、マーシャルはその表情で理解する。

おそらく陛下が言ういなくなるというのは、どかへ嫁いでいなくなるという意味合いだろう。

しかしレイチェルが言ういなくなるとは、文字通りこの世からいなくなることを意味しているのだろう。


「姉上が結婚してどこかへ行っても、会えないなんてことないと思ってたよ。だからかな・・すっごく寂しいし、正直自分の中で整理ができてない」


ディートリアはそう言って宝石箱を見た。

宝石箱は取り除かれた緑色の宝石の代わりに白色の宝石が嵌め込まれている。

相対する色が散りばめられたそれは、異様な色彩を放っていた。


「会いたいですか?」

「会えるものならね。まだ姉上と話したいことややりたいことが沢山ある」


それもそうだろう。

いくら王家の人間で、それなりの教育を受け礼儀を知っているといっても、中身はまだ成人も過ぎていない男の子だ。

おまけに自分の母親のせいでこんなことになっているのだ。

ディートリアとしては複雑なのだろう。


「妹のリーソフィアも会いたがっている」

「・・リーソフィア、様?」


マーシャルは名前だけは聞いたことのある第二王女の名前を復唱する。

見た目だけならば第一王女であるシェイラとよく似ていると、以前誰かが言っていたことを思い出した。

といっても、マーシャルにとってはシェイラの顔すら浮かんでこないのだが。

そして、この王城に通うようになって第二王女には会っていないことに気が付く。


「今は大分マシになったけどね、姉上がこの中に閉じ込められてからは泣きっぱなしでね。精神状態が安定しないんだよ」

「・・そう、なんですか」

「王妃様も相当疲弊してるって聞いてる」


ディートリアの言葉にマーシャルは口を噤むしかない。

マーシャルが思っていたよりも、王家の人間の精神状態は悪化していたことに、マーシャルは何も言えなくなってしまったのだ。

もしかしたら、自分が早く解決しないからだと責められるかもしれないなんてことも考えた。

それに気が付いたからこそ、ディートリアは「大丈夫だよ」と言って笑ってみせた。

その笑顔も儚いものであったが。


「じゃあそろそろ戻るよ。母上が捜していると面倒だからね」


そう言って、ディートリアは最近のマーシャルの特等席であった席から立ち上がる。

そして特にマーシャルに言葉をかけるでもなく、ディートリアは部屋から出ていってしまった。

ほんのちょっとの哀愁を残して。

マーシャルはなんとも居た堪れない気持ちになりながらも、先ほどディートリアが座っていた席に腰を下ろすと、異様なほどに目に付く宝石箱を半ば睨みつけるようにして見た。


「で、あそこまで言わせて、あなたは一体何がしたいのよ、お姫様」


睨みつけたまま、マーシャルはなんとも苛立たしげに宝石箱にそう言ってのけた。







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