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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
35/143

◇第35話




エドワードは、扉の向こうに信じられないものを見たとでも言いたげな顔でマーシャルを見る。

目の前にいる女は誰だと、本気で問うてしまいそうになった。

普段紺色のような暗い色のワンピースしか着ないマーシャルが、淡い緑のワンピースを着て薄く化粧までしている。

なんという大変身か。

お転婆だの野蛮だの言われていたマーシャルであったが、服と化粧だけで見違えるほど変身したマーシャルに、エドワードは何と声をかけていいのか迷う。

うんとお洒落をしてこいと言ったのはエドワードだ。

それにマーシャルが応えただけだ。

そうとわかっていても、エドワードはここまで化けるとは思っていなかったし、その半面では嬉しく思ったのだ。


「何か言ってくださいよ」


扉を開けたまま固まるエドワードを見かねたマーシャルは苦笑しながら言った。

それすら絵になるのだから困る。

エドワードの目には、目の前にいる彼女はすでに子どもではなく女性だった。

そうとしか見えないほど、今のマーシャルには魅力があった。


「・・驚いた。服と化粧だけで変わるもんだな」

「もっと素直に褒めて頂いていいんですよ」

「そうだな。シャル綺麗だな」

「・・・・・っ、どうも」


褒めろと言ってのけたマーシャルではあったが、まさかエドワードが本当に言うとは思っていなかったため、いきなり言われた綺麗という言葉に頬を赤く染める。

これでマーシャルの当初の目的は達成されたわけだが、今のマーシャルにはそんなことなど関係ない。

心臓がうるさいくらいに鳴り響いているのだ。


「まぁ俺好みってところは無視してだけど」

「エドの好みとか知らないっ!」


食いつくように言うマーシャルに、エドワードは今がとても綺麗に見えるだけにすごく残念に思えた。

外見と中身のギャップが半端じゃないなと、内心で思う。


「教えたら俺好みにしてくれるの?」

「・・っ!しませんっ!」

「ハハ、今度教えてやる」

「いらない!」


笑って言うエドワードであったが、今のマーシャルの格好は実はエドワードの好みど真ん中であった。

そんなことはマーシャルは知らないし、エドワードも言えるわけがなかったが。

エドワードは派手な色合いよりも淡い色や大人しめ色を好む。

ゴテゴテに装飾されたものよりもシンプルなものを好む。

元の顔がわからないほどの濃い化粧よりも薄めの化粧を好む。

今のマーシャルはエドワードの好みをそのまま具現化している。


「じゃあ行くかー。まず飯な」


エドワードは扉を開けたまま、マーシャルが部屋から出るのを待つ。

紳士的な態度に、マーシャルは驚く。


「さすがの俺だってこれくらいは心得ている」

「公爵様ですものねー」


すっかりエドワードにエスコートされるマーシャルはからかうように言った。

宿舎にはすでに騎士の姿はなく、訓練場に数人見かけたが、外からはマーシャルの姿は見えない。

それにホッとしたマーシャルではあったが、実はエドワードもホッとしていた。

こんな綺麗なマーシャルを飢えた男共に見せるなど、エドワードには耐えられなかった。

食いつく輩がどれほどいることか。


「シャルは王都をこうやって歩くことってあったのか?」


王城を出て、城下を歩くエドワードはマーシャルの手をとって聞いた。

その自然な動作にマーシャルの心臓はうるさく鳴る。

マーシャルの手はエドワードの腕にしっかりとかけられている。

それは傍から見れば腕を組んで歩く恋人のそれだ。

はぐれないようにそうしているのだとわかってはいても、マーシャルは意識せずにはいられないのだった。


「5年前までは王都に来てましたから。ああ、でも立ち寄ったのはいつも食堂と素材屋とギルドでしたね」


エドワードはなんとなく想像できたマーシャルの答えであったが、最後のひとつに関してはきゅっと眉を寄せた。


「シャル、ギルドって言ったか?」

「え、はい、言いましたよ」

「なんでギルドなんかに?お前商人として来ていただろう」


5年前に会ったときも、確かにマーシャルは商人として王都に来ていた。


「王都のギルドっていろんな仕事あるじゃないですか。魔物退治もいろいろあるし。珍しい素材を手に入れるのにもってこいなんですよ」


その言い方のなんと逞しいことか。

そこいらの娘なら魔物を見たら腰を抜かすか恐怖で震え上がるか悲鳴をあげるかのいずれかであるのに、マーシャルはその魔物を退治するという。

エドワードはあの時もそうだったと懐かしい過去を思い出した。

大きな魔物を見たにもかかわらず、マーシャルは目を爛々と輝かせていた。


「よくギルドもお前に仕事紹介してくれたな」

「最初は断られましたよ。お前みたいな子どもに何ができるんだって」


マーシャルがこの王都で商売をするようになって、ギルドに初めて足を運んだのはマーシャルが13歳のことだった。

見るからに少年にしか見えなかったマーシャルに仕事を紹介してくれるようなギルドなどない。

それでもマーシャルは魔道具を造るために素材が必要だったし、自分が知らない素材が欲しかった。

マーシャルは何度となくお願いして、やっとのことでベテランのハンターについていく形で許可をもらったのだ。

ハンターたちは1度連れて行けば怖気ついて来なくなるだろうと思っていた。

まだ10歳前後の少年が魔物を見てまともにいられるはずがないと、そう思っていた。

マーシャルはそれを「素材っ!あんなの見たことないっ!」と目をキラキラさせて食いついていったのだが。

素材欲しさにとっても綺麗に魔物を狩るマーシャルの姿にハンターたちは驚き、そしてマーシャルの実力を認めたのだった。


「お前本当魔道具ばかだよな」

「最高の褒め言葉ですね」

「褒めてねぇよ」


エドワードはマーシャルがお世話になっただろうギルドに同情する。


「さて・・まず腹ごしらえだが、何か食いたいものはあるか?」

「うーん・・私にはあまりわからないので、エドがよく行くお店とかに連れて行ってください」

「俺もあんまりだが」

「私よりは知ってるでしょ」


確かにその通りではあるのだが、と、エドワードは言いかけた言葉を呑み込む。

仕事が仕事なだけに、王都のことは知り尽くしているエドワードではあるが、それは王都の道や治安の悪い場所を知り尽くしているというだけで、美味しいご飯のお店を知っているというわけではない。


「文句言うなよ」

「言いませんよ」


ニッと笑ったマーシャルを連れてエドワードが入ったのは、パン屋さんだった。

香ばしい焼きたてのパンのにおいが店中に広がっている。

それだけでお腹の虫が鳴きそうだとマーシャルは感じる。


「いらっしゃい。おや、珍しい。黒の副団長さんじゃないの?今日は非番かい?」


奥から、焼きたてのパンが入った籠を持った女性が出てきて、エドワードに快活に話しかけた。

この店の主人だろうかとマーシャルは首を傾げたが、何も言わずにエドワードの背中に隠れる。


「席は空いてるか?」

「ああ、さっき一番いい席が空いたところだよ。ラッキーだね。ひとり・・・・2人だね」


女主人は席を指差した後に、エドワードに視線を戻して、そしてエドワードの背中にもうひとり人がいることを確認した。

その姿を見た女主人はなにも言いはしないものの、とっても驚いた顔をして見せた。

女など連れてきたことのない男が、初めて店に女を連れてきて、しかもその女が絶世の美女ときたのだ。

驚かないわけがない。

そんな女主人をエドワードは苦笑して一瞥すると、一番良い席として案内された席にマーシャルと一緒に座ったのだった。





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