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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
34/143

◇第34話



誰かがマーシャルの体を揺らす。

それは小刻みに、そして大きく。

ゆらゆらと揺れる体に、少しずつマーシャルは自分のまぶたが上がっていくのを感じた。

ああ、起きるのだ。


「おはよう、眠り姫」

「・・・・・・・え?」


マーシャルはパチッと目を開けてしばらく固まる。

ここはどこだ。

どういうことだ。

なぜだ。

マーシャルの頭の中ではさまざまな憶測が飛び交う。

服は着ていることを確認して、布団を手繰り寄せながらベッドの端へと体を寄せる。

寝起きのマーシャルの前には、騎士服ではなく普段着を着たエドワードがキラキラの笑顔を携えて立っている。

否、マーシャルを見た途端、エドワードは呆れた表情を浮かべていた。


「エ、エド?」

「なんだ」

「いや、え?なに、なんで?」


マーシャルの頭はすでにキャパを超えているらしく、頭がまわっていない。

目を白黒させながら、ベッドサイドに立つエドワードを見上げている。


「お前昨日の俺の話聞いてた?」

「へ?昨日のエドの話・・?」


マーシャルはエドワードから視線をそらすと、昨日のことを思い出す。

マーシャルは丸1日、宿舎の自分の部屋に篭りっぱなしだった。

朝も昼も食堂には行かず、水も飲まないのでトイレにも行かず、ただ部屋の中で過ごしていた。

夜も食堂には行かず過ごすつもりだったのだが、マーシャルの部屋を超がつくほど乱暴に開けたエドワードによって食堂へと強制連行され食事を詰め込まれた。

マーシャルは1日の流れについて思い出す。

問題は、その食事のときにエドワードに言われたことについてだ。

正直、マーシャルは食事のことをあまり覚えていない。

どこに座って何を食べてどんな話をしたか。

何一つ記憶に残っていないのだ。


「本気で覚えてないんだな」

「・・・ごめんなさい」


マーシャルは最近、恋に恋する乙女のように、周りのことが見えていない。

いや、考えられないと言ったほうが正しいかもしれない。

それが恋する乙女よろしく意中の相手のことならまだしも、マーシャルが今思いを馳せているのは他でもない宝石箱だ。

宝石箱のことを考えていると、気が付けばその日が終わってしまうのだ。

そして、エドワードはマーシャルのそれになんとなくではあるが気が付いていた。

だからこそ、昨日の夜、無理やりにでも部屋から食堂へ連れ出し、ガラにもなく買い物へと誘ったのだ。


「俺の買い物に付き合えと言ったのに、うんと答えたのは誰だ」

「・・・・へ?買い物?」


マーシャルはそんな話をしていたのか!と、昨日の自分を悔やむ。

エドワードは呆れた顔をしてため息をついた。


「・・・いや、もういいや。今日はゆっくり休め」

「え?」

「俺は今日非番だから、護衛は他のやつがすることになるから、なるべく部屋から出るな」


エドワードはそれだけ言うと、マーシャルの部屋を出ていこうとする。

そんなエドワードを止めたのは、マーシャルの手だった。

マーシャルの手は、エドワードが着ている白のシャツをしっかりと掴んでいる。

しわになるんじゃないかと思ってしまうほどの強さだ。

それに驚いたのはエドワードとマーシャルだった。

マーシャルは自分の思いもよらない行動に驚いていた。

なぜシャツの裾を掴んだのかはわからないが、このままでは嫌だと思ったのだ。

だから、無意識に掴んでしまった。


「シャル?」

「あ、あの、すぐ準備するので、待ってていただけませんか?」


遠慮気味にマーシャルはエドワードに聞く。

ベッドに座るマーシャルとベッドサイドに立つエドワードだ。

マーシャルにそんなつもりがなくとも、彼女はしっかりと上目遣いでエドワードにお願いしている。

それを見ながらエドワードは無自覚は怖いと再確認した。


「だが、」

「お願いします。・・だめですか?」


その破壊力の高さに息を呑んだのはエドワードだ。


「わかった、部屋の前で待ってるから準備できたら出てこい」

「ありがとうございます!」


エドワードの言葉にマーシャルは花が咲いたような明るい笑顔を向けた。

なんだかんだでマーシャルには甘いエドワードである。

エドワードは部屋を出る際にもう一言つけたしておく。


「うんとお洒落してこい。俺好みに」

「なっ」


エドワードの予想外の言葉にマーシャルは言葉を詰まらせる。

そんなマーシャルを見て笑ったエドワードは部屋を出ていった。

マーシャルは自分の顔に熱が集まるの感じて、思わずベッドの上で悶える。


「エドの好みとか知らないしっ」


半ばやけくそのような言葉を吐いて、マーシャルは買い物に行く準備を始める。

勢いよくクローゼットを開けたマーシャルは、2枚のワンピースを取り出した。

いくら王都と言ってもドレスで街を練り歩くほど、マーシャルは馬鹿ではない。

それに先ほどマーシャルを起こしに来たエドワードの服装は、白いシャツに肌触りの良い紺色のズボンというシンプルな装いだった。

とっても似合っていたが。

マーシャルは普段よく着ている藍色のワンピースを手に取る。

そして思い出すのだ。

『うんとお洒落してこい。俺好みに』という、エドワードの言葉を。


「あああああ、エドのばかやろー・・」


マーシャルは小さく叫ぶ。

あまり大きな声を出してしまうと、部屋の前にいるエドワードに聞こえてしまうし、下手をすればエドワード以外の騎士たちにも聞こえてしまう可能性がある。

マーシャルはしばし迷う。

そして意を決したように、もう1枚のワンピースを手にして着替えを始めた。

それは淡い緑色のワンピースだった。

足首まですっぽりと隠れるそれは、ふわりと生地を何重にも重ねて出来ている。

腰と胸の間に少し太めの黒色のベルトを巻き、そこにワンポイントで黒色と白色の宝石で作られた花があしらわれている。

派手でもなく、しかし地味でもない、ドレスのようなワンピース。

これはマーシャルのお気に入りでもある。

うんとお洒落してこいと言われたのだ。

見返してやるくらいの気持ちで、マーシャルは扉の向こうにいるエドワードを睨みつけた。


「絶対綺麗って言わせてやる」


そう吐き捨てるように言ったマーシャルは、持ってきたかばんの中から化粧道具を取り出す。

まさかここに来て使う羽目になるとは思ってもいなかったマーシャルではあったが、とりあえず女として持っていけと侍女に押し込むようにして入れられたことに感謝した。

化粧は初めてではない。

自分の身の回りのことをすべて侍女にお願いしていたわけではないマーシャルにとって、化粧をするというのは侍女の仕事ではなくマーシャルの仕事だった。


「はー・・久しぶりにこの顔見たわ」


マーシャルは化粧をし終わった自分の顔を見て感嘆のため息をもらす。

ワンピースに合わせて化粧はかなり薄めだ。

元がいいのだから、化粧をした今は別格の美しさをマーシャルは放つ。

耳にいつものピアスをつけ、太ももには短剣を仕込ませておく。

少しだけ首元が寂しい気もしたマーシャルだが、あまり着飾ることが好きではない彼女にとってこれが限界であった。


「そういえばあのドレスどうなったんだろ」


着飾った自分を見ていたマーシャルは、以前ヒュースが王女の私室に持ってきていた真っ赤なドレスのことを思い出した。

ヒュースのことだから、もしかしたら本気で燃やしたのかもしれない。

ドレスのことを考えていたマーシャルであったが、聞こえてきたノックに扉のほうを見た。


「シャル、そろそろ準備できた・・・・・か?」


エドワードはノックをすると、そう言いながらマーシャルの部屋の扉を開けて、そして固まった。






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