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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
27/143

◇第27話




「で、燃やしたほうがいいというのは?」


ヒュースの言葉にマーシャルは思い出したように言葉を漏らし、箱へと近付いた。

マーシャルは何も言わずに箱を開けて、中身のドレスを見る。

真っ赤なバラを連想してしまうほどに、赤く染まるドレスが箱の中に入っていた。

その胸元には、リボンのように布が手繰り寄せられてあり、その中央には、黒く光る石が乗っかっている。

着る者を選びそうな、真っ赤なドレス。

中身を見たエドワードとマーシャルは、あまりの派手さに「うわぁ」と声には出さないが、表情にその言葉が表される。


「趣味悪いでしょう」


ヒュースは鼻で笑って言う。

宰相でもある彼は、この部屋に運び込む前に中身を一度青を纏う騎士たちと確認していた。

そのときも、青を纏う騎士たちは、マーシャルたちと同じような表情を浮かべていた。


「・・これをシェイラ様が着るのか?」

「ですから、無能などこぞの馬鹿が自分の趣味と嗜好をふんだんにあしらったドレスだと言ったでしょう」


エドワードは、目の前にあるドレスを着た第一王女を想像する。

が、その想像は全くと言っていいほど浮かばない。

というのも、この国の第一王女であるシェイラは、金色の瞳に黒色という、いかにも赤いドレスが似合いそうな色合いをもって生まれてきたが、顔は美人と言うよりは可愛らしいほうなのだ。

可憐、という言葉がぴったりな人だった。

どちらかと言えば、淡いピンクや水色などの色のほうが、シェイラにはよく似合っていたし、シェイラ自身も派手な色合いのドレスは着たがらなかった。


「王女の嫌いなドレス、断トツ1位です。ここまでくれば嫌がらせとも思えますね」


ヒュースは何がおかしいのか、くすくすと笑った。


「で?それをなんで燃やせって?」


見た目だけは確かに派手で王女には似合わないが、それだけでは燃やす必要はない。

エドワードはドレスを見続けるマーシャルに問う。

マーシャルは不満そうな表情で、胸元にある黒い宝石を指さす。


「黒って、純度が一番見分けがつかないんです」


と、唐突に言った。

そして続ける。


「だから、黒って宝石なのか魔石なのか、ぱっと見ただけでは判断がつかないんです」


日にかざしてみたり、光を当ててみたりしてみないと、よくわからないのだという。

しかしそれは一般の人々の話であり、マーシャルのような精霊師には当てはまらないのだが。


「ではそれが魔石だと?」

「その可能性は高いですね。どういう意味合いで贈られたものかはわかりませんが、黒は闇の魔石ですから」


闇の力は恐ろしい。

闇は呪いに通じるものがあり、その使い方はさまざまであるが、多くが呪術に使われる。

つまり、この魔石もそういった力があるということだ。


「これがどんな力を持っているかはわかりませんが、精霊たちが燃やせだの割れだのうるさいのでよくないものではありますね」


マーシャルはため息混じりに言う。

先ほどから、マーシャルの耳には精霊たちの言葉が聞こえている。

そのどれもが、真っ赤なドレスを燃やせだとか、黒い石を壊せだとか、ろくでもないものばかりだ。

そのくせ宝石箱のときは何も言わないのだから、マーシャルも困る。


「そうですか!なら早速処分しましょうか」


ヒュースは嬉しそうに言うと、そのドレスを雑に持ち上げると、部屋から出ていってしまった。

嬉々として出ていったヒュースの後ろ姿を見送ったマーシャルではあるが、なんとなく複雑であった。

確かに色合いや魔石はいただけないものだったが、ドレスを燃やすという行為をあんなに嬉しそうにされるとは。

ヒュースという人間はわからない。


「シャル」

「はい?」

「まだいるか?」

「・・そうですね、もう少しだけ見ていきたいと思いますけど・・・都合が悪いですか?」

「いや、特に問題はない」


エドワードはそう言うと、壁に寄りかかった。

これは待つから好きなだけ宝石箱を堪能しろという、マーシャルがここ数日で理解したエドワードの意思表示である。

最初こそはわかりにくいわ!と怒りそうになったが、今となっては慣れたものだった。

マーシャルはそんなエドワードに笑みを向けてから、宝石箱をじっと見つめた。

相変わらず、宝石箱の状態は変わらない。

数個魔石を剥がしてみたものの、宝石箱の頑丈さは全く変わらないのだ。

それが謎だった。

障壁をつくっている翡翠色の魔石をボトボトと剥がしたのにだ。


「不細工になったな、その宝石箱」


エドワードは、ところどころ宝石が剥がされた宝石箱を見て言った。

エドワードの言ったとおり、マーシャルが無理やり剥がした宝石箱は、剥がした痕や傷があり、本来配置された場所に宝石がないのだから、見た目としては最悪だった。

歯抜けとでも言おうか。


「やっぱりそう思います?」


マーシャルとて、感じていないわけではない。

日に日に不細工になっていく宝石箱に、少しは悪いと思った。

とっても綺麗だったから余計に、たとえ仕方がないことであっても、その思いは強い。


「そういえば、何で剥がしたか聞いても?」

「いいですけど、」


言って、魔剣を使っているといっても騎士でしかないエドワードにわかるのかは、謎だった。


「お前馬鹿にしてるだろ」

「いや、そういうわけでは」


ない、と言いきれないマーシャルは曖昧に笑った。


「私も説明がうまいわけではないと思いますので、わらなかったらその都度聞いてくださいね」


マーシャルの言葉にエドワードは首を縦に振った。


「この宝石箱がどれだけ攻撃しても傷一つつかなかったのは、風の力を宿した翡翠色の魔石が嵌め込まれいたからです」


翡翠色の魔石は、障壁を張るという特性を持っている。

風は防御面ではいろいろと便利だ。

もちろん攻撃面でもとっても便利なものだが。


「だが、出来うる限りの最強の魔法を放ったと聞いているが」

「それでも傷なんてつきませんよ。こーんな純度の高い魔石が4個も5個も嵌まっていたんですから」


破綻だよ、破綻。

マーシャルは宝石箱を見て呆れたように思う。

どこぞの大貴族ですら、はめ込むのに躊躇するぞ、これは。

ましてやその宝石箱が自分の元に返ってくることもないのだから。

とんだ大冒険だ。


「と、言い切りたいところですが、この魔石はそれなりに純度が高いくらいでしょうね」


キラキラとはしているが、照明に透かしてみれば向こうの景色がはっきりと見えるわけではない。

つまり、それなりに中はくもっているということだ。


「それでも魔法は防げたわけですが」

「では今は?」

「傷ですか?付けれますよ。もちろん壊すことも出来ます。まぁお勧めはしませんけど」


と、マーシャルは言って、そこが不思議なのだけど、と心の中で疑問をぶつける。

一体どれほどの魔法師、あるいは精霊師が、どれほどの規模の魔法をぶつけたのかは知らないが、魔石が5個はめ込まれたくらいで、完璧に傷一つ付けずに防ぎきることができるのだろうか。

壊すことは出来ずとも、傷くらいはつけられてもいいはずだ。

それが、今まで無傷。

まるで魔力を供給されているみたいに。

そこまで思い至って、マーシャルは動きを止める。


「シャル?」


説明をやめて、宝石箱を、まるで信じられないものを見るような目で見つめるマーシャルを不審に思ったエドワードは声をかける。

しかし、マーシャルは返事をしない。

なにかを探るように、マーシャルは真紅の瞳を揺らしている。

その間が数秒。

マーシャルは揺れる真紅の瞳をエドワードに向ける。


「シャル?」

「・・・少し、まずいかもしれません」


マーシャルはそれだけ告げると、もう一度宝石箱を見た。





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