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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
22/143

◇第22話




――――月がよく見えるな。


夜空を見上げながら、エドワードはそんなことを思った。

食堂で夕飯を一緒に食べ、彼女を部屋まで送ったころには、すでに夜になっており、月と星が輝いていた。

満月のおかげで、あまり明かりがなくとも道は照らされている。

エドワードはとくに迷うことなく、足取り確かに目的地を目指す。


「で、用ってなんだ」


エドワードは目的地に着くと、どうやら先についていたらしかった人物に声をかけた。

エドワードの腰辺りを少し越える身長に、あどけない表情を見せる少年。

昼間は印象的な黒髪が、今ではすっかり周りと馴染んでいるように見えた。

エドワードの視線の先にはウィルが立っていた。

ウィズはエドワードの姿を確認すると、にっこりと笑う。


「もちろん、マーシャル嬢についてですよ」


ウィズは魔道具で灯された明かりを薄暗くすると、白い壁にもたれかかった。

ウィズは思い出していた。

昼間、自分の研究室にやってきたレヴィ商会の娘のことを。

彼女が見せる魔道具はどれも、とんでもない品ばかりだった。

そのとんでもない品を彼女は隠すことなく見せていたことから、きっと価値など知らずに生きているのだろう。

そう思うと、ウィズはいてもたってもいられなくなった。


「シャルがなにか?」

「とんでもない子を連れてきちゃいましたよね、本当」


ウィズはため息混じりに言った。

そして言葉を続ける。


「あの子は危険すぎる」


エドワードはどういう意味で、とは問わない。

彼とてわかっているつもりだ。

たったひとりであれだけのものを造り上げるという技術、知識。

もはや才能とすら言えるだろう、彼女のそれは、一歩間違えればただの脅威でしかない。

そしてそれは、彼女の命を脅かすことになる。


「マーシャル嬢が造る魔道具は異常です。あんなものを造れるのはきっと彼女だけでしょうね」

「そうか」

「彼女には価値があります」


利用するだけの価値が、マーシャルにはあるとウィズは言う。

マーシャルを手に入れるということは、マーシャルの持つ技術も知識も手に入れるということ。

マーシャルを手に入れるということは、巨万の富やこの国を手に入れることができるということ。

マーシャルを手に入れるということは、精霊師という武器を手に入れるということ。

マーシャルにはそれだけの価値がある。

そして、それに加えてマーシャルの容姿はずば抜けて良い。

その容姿だけでも、マーシャルは貴族と結婚することも出来るだろう。

マーシャルを手に入れたい男など、五万といるということだ。


「それに多分王子派の連中が動きますよ」

「王子派が?」

「宝石箱を開けられて王女が出てこられたら困りますからね、きっと」

「まさか?」

「おそらくニケルは気が付いたでしょうね。最後まではぐらかしてはいましたけど、マーシャル嬢が出て行ってからやたらと彼女のことを知りたがってました」

「・・面倒な」


エドワードは思わず顔を顰める。

いずれは王子派にばれるとは思ってはいたが、マーシャルがこちらへ来た1日目に存在がばれるとは思いもしなかったのだ。

彼らとて、王女を食った宝石箱は王子派が用意したのだろうということくらいは想像がついていた。

だから、マーシャルの存在がばれれば、彼女を排除しようという動きが出てきてしまう。

それだけはなるべく避けたかったのだ。


「厄介だな。そもそもシャルの敵が多すぎる」


エドワードはため息をこぼす。

普段から体を鍛え、剣を扱っている彼にとって、暗殺や実力行使で責めてこられる分にはどれだけでも対応できる。

しかし、マーシャルの技術と特性、そして容姿を狙ってやってこられる分にはエドワードでは対処しきれない。

彼にはマーシャルを守る術がないのだ。


「今は誰もマーシャル嬢の実力というものを知らないから、しばらくは容姿目当ての貴族が寄ってくるんじゃないですかね」

「すでに青と赤の何人かが声をかけている」

「うわぁ・・とんだお見合い会場だ」


エドワードは先ほどの夕食のことを思い出す。

2人で食堂へと行き、開いていた2人席についたのだが、視線の量は相変わらずだった。

それを見兼ねたエドワードがマーシャルの分の料理も取りにいったのだが、席に戻ってみると、赤と青を纏う騎士たちがマーシャルを囲んでいた。

声をかけている、といえば聞こえは良いが、実際は大勢による求婚だった。


「黒はいないんですね」

「・・黒は昼ごろに団長にこってり絞られている」


エドワードがあの時マーシャルと見た騎士たちは、昨日マーシャルの部屋の前で聞き耳を立てていた男たちであった。

まだ黒の騎士団に入ったばかりの彼らは軍神とまで呼ばれ敵味方関係なく恐れられているエリックのことをよく知らなかった。

へらへらしているしいい加減なところが多いエリックではあるが、怒ると大の男でも震え上がるほどに怖いことを。


「あはは、あの軍神様を怒らせた人たちがいるんですか?」

「笑い事じゃないぞ」

「まぁまぁ。随分と軍神様にも好かれてすんですね」


ウィズは翡翠色の瞳を細めながら言う。


「馬鹿なことを言うな。変な噂が流れても困る」

「いやいやいや、今さらじゃないですか?きっと今頃王城じゃ焔鬼様とマーシャル嬢の話で持ちきりでしょうに」


だから余計に困るのだ、と、エドワードは言いはしないが、深いため息をつく。

エドワードが女性を連れるという、前代未聞の事態が起こってしまっている今、王城内ではエドワードとマーシャルの恋人話で持ちきりだった。

どれだけ美人でも、どれだけ豊満でも、エドワードはまったくと言っていいほど令嬢に靡くことはなかったのに、今になってとんでもない美人を連れている。

おまけに人食い宝石箱の件でマーシャルを呼びつけていることは極秘情報であり、エドワードが護衛しているということも伏せられている。

そのため、余計に噂を煽っているのだ。


「まぁ僕が言いたいのそれだけなので」


ウィズはそう言って、エドワードの前から姿を消す。

残されたエドワードは、ウィズの言葉たちを反芻させながら宿舎へと帰る。

マーシャルの腕と魔力に目をつけた貴族。

マーシャルを邪魔だと思う貴族。

マーシャルを側に置きたいという貴族。

それらすべてが、マーシャルの敵となる。

そしてそれば、護衛をしているエドワードの敵にもなる。

どれだけ懸念したところで、その悩みがつきそうにもないことに、エドワードは呆れてため息をこぼした。


「よお、エド」

「団長。お疲れ様です」


宿舎へと戻ってきたエドワードを迎えたのは、執務室から出てきたエリックだった。

その手には数枚の書類がある。

エリックはたびたびこうやって執務室にある書類を自室へと持ち込んでは、仕事の続きをやりたがる。

そうまでしないと終わらない量の仕事が舞い込んできているのだが、エリックは持ち込むたびに書類を紛失させるのだがら、たちが悪い。


「書類は執務室に置いといてくださいね」

「ええー、終わらないんだけど」

「知りませんよ、そんなの」


なんとも酷い言いようだが、団長の彼が書類を捌いてくれなければ、どうしようもないのだ。


「そうえいば、マーシャル嬢はどうだ?」

「どう、とは?」

「昼間見たときは随分と仲良くなっていたが」


ここでも、エドワードとマーシャルの恋仲を疑う人間がいた。

この1日だけで何人目だ・・と、エドワードは隠すこともなく顔を顰める。


「ウィズに厄介な人間を連れてきたと怒られましたよ」

「ウィズに?なんでまた?」

「思っていたより、シャルは規格外だったみたいです」


エドワードはため息混じりに言うと、せっかく執務室から仕事を終えて出てきただろうエリックを執務室に戻すと、ウィズに言われたことを報告したのだった。




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