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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
21/143

◇第21話



扉の前でニケル・バーゲイと名乗った青年は、ウィズの研究室にいたエドワードとマーシャルをちらりと見るとにっこりと笑顔を作った。


「はじめまして。ウィズさんの知り合いかな?」


笑顔を絶やさずに聞くニケルは、ウィズのような簡素な衣服とは違い、着ているものは上等で貴族のそれであった。

たったそれだけで、マーシャルは警戒心を強める。


「そうだよ。僕の元へ来るように言っておいたんだけどね、間違えて西側に行ってしまったみたいで。それを焔鬼様が見つけてここまで送ってくれたんだ」


ウィズはツラツラとありもしないことを笑顔で言う。

マーシャルは頬が引き攣るのを知りながら、必死に笑顔を取り繕う。

黒を纏うエドワードは、マーシャルの後ろに立ちながら、憮然とニケルを睨むように見ていた。


「お美しいご令嬢ですね。お名前をお伺いしても?」

「・・・マーシャル・レヴィと申します」


マーシャルは小さな声で、自分の名前を言う。

マーシャルの名前に、一瞬だけ馬鹿にするような表情をニケルは作ったが、すぐに先ほどの愛想の良い笑顔に戻った。

それをエドワードとウィズは見逃さない。


「レヴィ?ということは、あの商会の?」

「そうだよ。僕がここにある魔道具を買い換えたくて呼んだんだ。本当はお兄さんのほうが来る予定だったんだけど、熱で寝込んでしまったみたいでね。代わりにマーシャル嬢が来てくれたんだよ」


ニケルの笑顔は相変わらず愛想はよいが、聞こえてくる言葉は嘲るものばかりで、マーシャルはせっかくの笑顔を曇らせる。

エドワードにいたっては眉間にしわを寄せていた。


「じゃあマーシャル嬢、今日のところはこれで。また連絡するよ」

「・・はい、兄に伝えておきます」


マーシャルはウィズの言葉に合わせると、ぺこりとお辞儀をして部屋から出る。

その後ろを当然のようにエドワードが追いかける。

ニケルを睨みつけるのを忘れずに。


「ああもう、気分悪い」


技術塔を出てすぐに、マーシャルはしまった扉を睨みつける。

マーシャルは先ほど出会ったばかりの男、ニコルについて考えていた。

見るからに貴族出身である彼は、商家の娘ではあるが平民であるマーシャルを明らかに格下に見ていた。

それがマーシャルには気に入らないのだ。


「あれ、誰なの?」


マーシャルはエドワードに聞く。

自分は名乗らずに、マーシャルの名前だけ聞くという態度も、マーシャルは気に入らなかった。


「ニケル・バーゲイ。バーゲイ伯爵の息子で、この技術塔に勤めている技術士。ちなみに王子派の一員だ」

「王子派?・・ああ、あれね」


ばかばかしい、と切り捨てたいところだったが、ここが王城の敷地内だということを思い出したマーシャルは出かかった言葉を呑み込む。


「腕は?」

「さぁ、さすがにそこまでは知らん。ウィズに聞けばなにかわかるかもな」

「そういえば、ウィズ様っておいくつ?」


マーシャルはずっと気になっていたが聞くに聞けなかったことを口にする。


「・・あれでもうすぐ俺の父親と同じ歳になる」

「へ?」

「俺の父親と同じ歳だ」


マーシャルはよろよろと、近くにあった壁に手をついてうなだれる。

マーシャルとエドワードは6歳差であり、おそらく父親の年齢は10も変わらないだろう。

ということは、ウィズは自分の父親とも近しい歳になるということだ。

なんという事実。


「10年ほど前に素材の調合を失敗して、気が付いたらあの容姿になっていたらしい」

「そんなことある?」

「ないとは言い切れんな。実際にウィズは10歳の子どものまま過ごしている」

「え?じゃあ、10年間ずっと10歳?」

「聞いた話ではな」

「え、ということは、それを応用すれば若返りの薬とか、もしかしたら不老不死の薬とか作れちゃったりするんじゃ?いや、でもそんなの作ったらお兄様に怒鳴られそうだわ。そもそもそんな効果のある素材なんてあったかしら」


マーシャルは壁に手をつきながら、ぶつぶつと壁と会話をする。

一歩間違えれば変人のそれに、エドワードは背中を見ながら呆れる。

マーシャルを見ながら、エドワードは先ほどウィズと話していたマーシャルを思い返す。

マーシャルはウィズのように興奮気味に迫るように話すわけではないが、流暢に魔道具のことだけを話していた姿に、やはり技術士と同じ雰囲気を感じた。

そして、マーシャルの技術と持っている魔道具の性能に、危険だとすぐさま感じた。


「シャル。さすがにこんなところで独り言はやめろ。奇妙だ」

「あ、ごめんなさい」


マーシャルはほんの少しだけ顔を赤くすると、ついていた手を離して歩き出した。

向かっているのは、王城の西側。

随分と長い時間を技術塔で過ごした2人だったが、お昼ご飯はまだ食べいていないのだ。

マーシャルは気分と空気を換えるために、話題を探した。


「あ、そういえばエドって男色家なんですか?」

「はぁ?」

「だって、ウィズ様はそうおっしゃってたじゃないですか」


マーシャルの言葉にエドワードは頭を抱えたくなった。

実際には、刻むようにして寄っている眉間のしわを指でつまんでいる。


「俺は男をそういう意味で好いたことはないな」


女が好きだとはっきりとマーシャルを前にしては言えないエドワードは遠まわしな言い方をする。

そもそもエドワードが男色家だという噂が出回ったのは、騎士団として忙しかった時期に、顔を合わせるたびに求婚紛いのようなことをする令嬢に嫌気がさして、宿舎にこもりきりだったからだ。

団長であるエリックも同じように宿舎にこもりきり、何かとエドワードと行動を共にすることが多かったため、エドワードとエリックが付き合っている説が流れたのだ。


「男ばかりの場所に身を置いてはいるがな」

「本当に男性だけでしたものね」

「嫌か?」

「どうでしょう?まだ1日にか寝泊りはしてませんから」


嫌なら1日寝泊りするのも無理だろうと、エドワードは思っているが、それでマーシャルに大丈夫だと思われたくもないため、あえて何も言わなかった。

この先何があるかわからないからだ。

護身用の短剣をマーシャルが持っていることには驚いたエドワードだが、まともに剣を扱ったことのないマーシャルが、騎士である男に勝てるとは思わない。

たとえそれが、魔石が嵌めこまれた魔道具であったとしても。


「エドじゃないか」

「団長。こんなところで何してるんですか」


宿舎の前までやってきた2人の前に現れたのは、黒の騎士団を纏め上げているエリックだった。

エリックの手には数本の木刀があった。

それを見たエドワードは訝しげにエリックを見る。


「訓練ですか?」

「そうだよ」


木刀は基本的に訓練や模擬戦の時に使用される。

模擬戦はまれに真剣を用いたりもするが、大事があっては困るので原則木刀だ。

そして、黒の騎士というのは、王都を巡回しているので、非番という休みがあっても基本的に他に命令がなければ巡回を繰り返している。

人がいくらいても足りない騎士団でもある。

それなのに、巡回をせずに訓練とは何事だ、とエドワードは思ったのだ。


「入団希望は聞いてませんよ?」

「俺だってそんなものは聞いてないね」


そう言いながら、エリックは遠くのほうにいる黒を纏う集団を見る。

立っているのは5人ほどの男。

マーシャルには顔までは見えないが、エドワードは何かに気が付いたようだ。

大袈裟にため息をついた。


「まだ未遂ですよ」

「それでも俺の団にいてもらっちゃ困るんだよ」


エリックは笑顔で答える。

まるでこれからの訓練を楽しみにしているようだ。


「・・お手柔らかにお願いしますね。使い物にならなくなると困るんで」

「お前がそれを言うなよ」


エリックはケラケラと笑いながら、2人の元から歩いていってしまった。






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