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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
20/143

◇第20話



「マーシャル嬢は今までどんなものを造られてきたのかな?」


ウィズは2杯目の紅茶をカップに注いで、当たり前のように砂糖をドバドバ入れていく。

マーシャルの目が正しければ、カップの底には白い塊が少し残っていた。

激甘だろう紅茶に、これまた甘いクッキーをおいしいと頬張るウィズに、マーシャルもエドワードも胸焼けを感じる。


「なんでも造りますよ。このピアスは、少し大ぶりになってしまったんですけど、治癒能力と防壁展開の2つを兼ね備えたものになってます」


マーシャルは銀色の髪をそっと耳にかけると、耳についているピアスをウィズとエドワードに見せた。

銀色の1センチ幅ほどあるリングに嵌めこまれた小さな青色と翡翠色の石がとても印象的だ。

ただ、嵌めこまれた石は、リングの幅めいっぱいの大きさであり、嵌めこまれたというよりは付いているという言い方のほうが正しく感じられる。

それにしても、その造りが銀細工職人が作るそれとあまり違いはないのだけれど。


「・・治癒能力と防壁展開!?それがその1つに!?」


ウィズは食い入るようにマーシャルの耳を見る。

魔道具にさほど詳しくはないエドワードさえも開いた口がふさがらない状態だ。

彼らが驚くのも無理はない。

普通、彼らが日常で目にする魔道具というのは、原則として一つに対して一つの性能しか付けられない。

稀に2つあるいは3つの性能がついた魔道具を見かけることがあるが、それはどこかで発掘された魔道具であったり、純度の高い魔石を使用してあったりする。

そんな滅多に見られないものを、マーシャルは耳につけている。

それも、なんてことがないとでも言わんばかりの態度で。


「効力は!?」

「治癒能力は即死でなければ、ゆっくりでもだいたい治りますよ。あと骨とかも。防壁は自分から半径3メートルくらいですかね」


マーシャルは思い出すようにして言う。

実は、この魔道具を造ったのは、彼女が8歳のときだ。

お転婆で破天荒だったマーシャルは毎日外で剣術や武術の稽古をしては、白い肌に生傷をつくっていた。

そしてそれが両親、特にレイモンドにばれるとこっ酷く叱られた。

それが嫌だったマーシャルは8歳にして、治癒能力のあるピアスを造りだしたのだ。

そしてそれから2年後の10歳のとき。

素材を手に入れるためにマーシャルはたびたび身につけた剣術や武術を駆使して魔物を狩っていた。

魔物が正面から襲ってきてくれるときはいいが、ときには不意打ちで狙ってくることもある。

そしてそこで怪我をすれば怒られる。

その結果として、マーシャルは得意の改造で、ピアスに防壁展開の性能を加えたのだ。


「・・性能よすぎるだろ」


エドワードは頭を抱え、ウィズはもはや言葉にも出来ないようだ。

一般的に出回っている治癒のできる魔道具は、切り傷刺し傷は治すことが出来るが、それも程度が酷ければ治せないし痕だって残るし、骨に関しては全く治癒が効かない。

防壁専用の魔道具は、壁が張れるのは、だいたいが自分から周囲2メートルほどだ。

マーシャルのそれは、あまりに他の魔道具を上回っている。


「他には?」

「他?んー・・ああ、これとか」


そう言ってマーシャルはワンピースの裾をたくし上げる。

予想外の行動にエドワードとウィズはピシリと固まってしまう。

あらわになった白い足を気にすることなく、マーシャルは太ももについたベルトから銀色に光る鋭利なそれを取り出した。

鋭くとがったそれは、長さ15センチほどの短剣。

マーシャルはワンピースをふわりと下ろすと、机の上にことりと短剣を置いた。

全身が銀色のそれは、飾り気がほとんどないだけに、柄の部分に嵌めこまれた魔石が妙に存在感を示している。

これだけで、一体いくらの金が動くだろうかと、想像するだけでエドワードとウィズは顔を青くする。

おまけにそんな代物を20歳で成人をしているといえど、女性が持ち歩いているのだから、その心配はいっそうである。


「魔石がはめ込まれてるのかな?」

「そうですよ。この魔石、ちゃんと5色なんです。さすがに5色の魔石嵌めこむと、相性がいいって言われてる銀ですら受け付けてくれなくて、改良するの大変だったんです」


5色、それはこの世に存在している精霊の色の種類だ。

火の加護を授けてくれる、赤の精霊。

水の加護を授けてくれる、青の精霊。

風の加護を授けてくれる、緑の精霊。

光の加護を授けてくれる、白の精霊。

闇の加護を授けてくれる、黒の精霊。

もちろん、加護によって使える力は違ってくるし、魔石の色によって宿っている力も異なる。

赤い石は、火の力を宿している。

青い石は、水の力を宿している。

緑の石は、風の力を宿している。

白い石は、光の力を宿している。

黒い石は、闇の力を宿している。

その、5つの石が、同じ大きさで嵌めこまれた短剣。

つまりそれが意味するのは、その短剣ひとつで5つの力が使えるということ。

それはもしかすると、たったひとつの力を極めた剣でさえも太刀打ちできてしまうのではないかと思える、脅威にもなり得る剣。


「これ最強なんじゃないの・・?」

「そうでもないですよ?やっぱり5色になっちゃうと反発しあって中途半端な力しかだせなくなっちゃったんですよね」


マーシャルは不満げに言う。

彼女の中では、石本来の力を使えてこそ完成品であり、それまではどれだけ問題なく使えたとしてもそれは未完成であり欠陥品なのである。

だから、マーシャルはいつかこの短剣も完成させなければと考えている。

ちなみにこの短剣がレイモンドに最も怒られた改造品なのだが、マーシャルはそんなことは忘れている。


「改良する気なの?」

「もちろんです。この銀では魔道の伝達がイマイチみたいなので、もう少し純度の高い銀を使用してみようかと。あとは銀と相性が良くて、伝導率を上げれる素材を混ぜ合わせてみようとも考えてます」


マーシャルは銀の柄を撫でながら流暢に語る。

しかしウィズからしてみれば、それはあまりに現実的ではないと言いたくなる。

ただですら魔石は希少なのにそれを5色も使い、おまけに純度の高い銀を使用するという、国宝にもなれる魔道具を再び造ろうなど、目玉が飛び出そうな額が財布から出ていくことになる。


「伝導率を上げるとなると・・・例えば、魔物の心の臓とか?」

「そうですね、それは以前考えました。でも私が狩れるほどの魔物の心臓では、魔石の力に負けてしまうので意味がなかったですね」


マーシャルは紅茶をすすってから答える。

マーシャルの頭の中は、すでに短剣の改造計画でいっぱいである。

そんな時であった。

ウィズの研究室の扉が叩かれたのは。


「誰かな?」

「ニケル・バーゲイです」

「・・ちょっと待ってくれる?」


ウィズは扉の向こうにいる人間を確認すると、マーシャルに目配せで短剣をしまえと言う。

マーシャルはそれに頷くと、短剣を取り出したときと同じ要領でベルトに付いた鞘に短剣を戻す。

その様子に、エドワードはやはり頭を抱えた。


「彼には必要以上にいろいろ話さないほうがいい。優秀だが、あの男は危険だ」


ウィズは小さな声でそう呟くと、扉に向かって大きな声で「どうぞ」と言う。

その言葉を受けて、扉を開けたのは、赤茶色の髪に茶色い目をした青年だった。





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