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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
2/143

◇第2話




「すごい、」


そう、マーシャルは呟いた。

真っ向から走っていった2人は身軽に魔物からの攻撃を避け、鈍く光る剣先を向けている。

彼らのおかげで、この辺にいた人たちはすでに避難しており、遠巻きに彼らを見ている。

いきなりの魔物襲撃にも臨機応変に対応してみせる黒騎士団は徐々に集まっており、魔物を取り囲んでいる。


「切れないな」

「ですね。切っても刺してもぶにぶにして文字通り歯が立たない」


赤い石が散りばめられた、ほんのり赤い剣を持つ騎士エドワード・フィリルは忌々しそうに魔物を見やる。

まるでスライムのようなそれは、どれだけ切っても刺しても跳ね返してくる。

ただこちらの体力を消耗するそれに、エドワードは苛々を隠せずにいた。

そんなエドワードに苦笑しながらも、黒騎士団団長であるエリック・ルドレナドは内心でどうしたものかと思案する。


剣も歯が立たないし、街中で魔法をぶっ放すわけにもいかない。

肉弾戦なんて以ての外。

名案らしい名案が浮かばず、ただただ気持ちの悪い叫び声をあげる魔物を見るばかりだ。


「ああ、そういや住人の避難は?」

「はっ、住民はすでに避難を終えております!・・・あの少年以外は」


エリックの言葉に黒色の騎士服をきた青年は答える。

最後のほうはとても言いにくそうにしていたが。

青年の言葉に、エリックとエドワードはまさかと思い、思い当たるほうへと視線をやる。

2人の視線の先にいたのは、先ほど出会った商人である少年。

あまりの衝撃に眩暈を覚えたのはどちらだったのか。

そんな2人の思いなど知らないマーシャルは、討伐された魔物の素材の利用価値について考えていた。

魔物から採った素材というのは、魔道具によく用いられる。

マーシャルとて、小さな魔物くらいならば、魔道具作りのために狩りに出ているくらいだ。

そしてマーシャルは、自他共に認める魔道具馬鹿である。

そんなマーシャルがなかなか見ない魔物の素材について思いを馳せるのは必然とも言えるのだった。


「なんで逃げないんだ?」

「さぁ・・変わった子だな」

「それはさっきのバングルのこと言ってます?」


いまだに打開策の浮かばない前線2人組は、魔物を見ながら目を爛々と輝かせている少年を見て呆れたように言った。

魔物を見て最初こそは怯えていたものの、今では怯えるどころか捕食者の目で瞳を輝かせている少年に黒騎士団は首をかしげる。


「そうだな、あれも変わった代物だった」

「確かにこの辺では見ませんね」


バングルはよく装飾品の一つとして平民にも貴族にも使われている。

それはおしゃれとして。

それはお守りとして。

それは力の温床として。

使われ方は多々あるが、商人が身につけるものとしてはお守りやおしゃれといったことのほうが多い。

エドワードはそうだと思っていたし、デザインは少々奇抜であったがそういうものだと思っていた。

エリックが「変わっている」と言ったが、正直「どこがだ?」と思ってしまったほどだ。


「エドお前、公爵家の人間ならもう少し目利きはできたほうがいいぞ」

「俺は軍の人間です」


カッカッと快活に笑うエリックにエドワードは憮然と答える。


「で、あれ、どうします?燃やします?」

「それってそういう使い方できたっけ?」

「さぁ?頑張れば出来そうじゃないですか?」

「火が移っちまったら元も子もないけどな」


そうして振り出しに戻るのだけれども。

切っても切れない、刺しても跳ね返ってくる、そんな脅威の肉体を持つ魔物と悶着状態が続いた、そんな状態を崩した魔物だった。


『グルオォォォォォォ』


なんとも汚い声を上げた魔物はスライム状のそれを周囲に撒き散らす。

とっさに魔道具で障壁を展開した騎士たちはそれを防ぐが、撒き散らしはいっこうに終わらない。

おまけに質の悪いことに、壁や地面に付着したそれは草木を腐敗させていく。


「おいおいおい、勘弁してくれよ」

「立派な災害ですね、あれじゃあ」


ついさっきまでは、人を数人食べたという以外は実害は出ていなかったのだが、ここにきて建物の腐敗という実害がやってきた。

途端に頭を抱えたのは国を守る黒騎士団の団長であるエリック。

彼の内心は吹き荒れている。

宰相に予算案でぐちぐちと言われる事が目に見えてわかっているからだ。


「エド、」

「嫌ですよ」

「まだ何も言ってないだろう」

「何ですか」

「俺の代わりに損害届けを」

「出しませんよ。なんで鬼畜宰相に会わなきゃいけないんですか」


エドワードはばっさりと自分の上司にあたるエリックの言葉を切る。

この王都で陛下の右腕となり政のすべてを取り仕切っている・・むしろ牛耳っていると言っても過言ではないのが、エドワードのいう鬼畜宰相、その人だ。

理知的な眼鏡の奥に隠された冷酷非道なまでの無慈悲さに、一体どれほどの人間が顔を真っ青にしたかは今では数え切れないほどだ。

そんな鬼畜宰相と呼ばれている彼が、若干21歳にして宰相の座に着いた最年少宰相であり、エドワードの幼馴染だとは、王城に住む人間以外は知る由もない。


「で、本当あれどうします?正直守っているだけで何もできない」


四方八方に飛んでくる液状化したそれを防いでいるだけで、なんの進展もない現在。

これでは街が腐り果てるのは時間の問題である。


「そうだよなぁ・・」

「やっぱり燃やします?」

「いやだからさ、その剣にそんな性能ないよね?」


赤く煌めく剣は神々しく、火の力を司っている。

赤い石は火の魔石を砕いたものであり、それが剣をほんのり赤く見せている。

戦場でこれほど猛威をふるうものはない。

しかしそれは、切ったものから火が吹き出るだけであって、火を司ってはいるがそれ自体が火を放つわけではないのだ。


「いやそれはなんとか」

「なってたら、今頃それは国宝級だよ」

「じゃあどうします?」

「どうしようか」


剣では到底歯が立たない魔物に途方にくれる。

先ほどからほかの黒騎士が剣で攻撃はしているものの、彼らが手ごたえを感じることはない。


「お困りですか?」


どうしたものかと思案していた2人に、中性的な、どちらかといえば高いといえる声が聞こえてきた。

ハッとしてそちらを見た2人の目に映ったのは、真紅の瞳が印象的な旅商人の少年。

さきほどまで随分後衛にいたのに、いつのまにこんな前衛まで来たのか。

というよりも、どうやって魔物の撒き散らし攻撃を凌いでこんなところまで来たのか。

騎士たちの間にいくつもの疑問が生まれる。

しかしそんな声にもなっていない疑問に、マーシャルが答える筋合いはない。

マーシャルはうんうんと唸りながらも余裕そうな笑みを絶やそうとしない2人に聞いているのだ。


「どちらかというとお困りかな」


エリックが答える。

この状況で困っていないといえるほど、現状はよいものではない。


「君は魔物を見ても怖がらないんだね」

「魔物は素材集めに狩ってますから。まぁさすがにあの大きさは初めて見ますけど」


マーシャルは先ほどよりも間近で見る魔物に高揚感を覚える。

すでに魔物はマーシャル目には素材にしか見えていない。

彼女の心は今小躍りしている。

なんて言ったって、普段手に入りそうにない素材が手に入りそうなのだから。


「では黒騎士の皆さん、私と取引をしませんか?」


マーシャルのその言葉に、話を聞いていた黒騎士たちは動きを止めたのだった。







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