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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
19/143

◇第19話


「ささ、座って座って!僕、君の話をいっぱい聞きたかったんだ!」


少年、ウィズ・ホーキンスはとてもにこやかに言うと、机に紅茶とクッキーを用意した。

その手際の良さには、さすがのマーシャルも驚く。

マーシャルの中でのウィズという少年の謎が膨らんでいく。


「君は精霊に愛されてる人なんだよね?この場合選ばれたって言うほうが正しいのかな?火の魔石をくれたってことは、焔鬼様と同じ火の加護を持ってるのかな?精霊に愛されているってどんな感じ?僕、君みたいな人を見るのは初めてだからさ、知りたくて仕方がないんだ!ああ、ちょっと待って、メモをするから紙とペンを「おい」


いつなれば終わるのだろうかと、マーシャルが遠くなって聞いていたウィズの言葉をエドワードが強引に終わらせる。

エドワードは呆れたようにウィズを見ると、きょとんと目を丸くするウィズにため息をこぼした。


「話が長いし、そもそもお前はシャルに自己紹介すらさせてないだろ」


マーシャルは、ははっと乾いた笑い声を出す。

ウィズは「ああ!」と思い出したように言うと、続けて「名前は?」とマーシャルに聞いた。


「マーシャル・レヴィと申します」


マーシャルが名前を名乗ると、ウィズはガバッと起き上がるとマーシャルの両手をとって、マーシャルよりも少し小さな手両手で包んだ。

まるで求婚でもするかのような動作に、相手が少年でもマーシャルはドキリと胸を高鳴らせる。


「レヴィ!?ってことは、あのレヴィ商会の娘さんだよね?あそこの魔道具はいつ買っても質がいいし、斬新で好きなんだ!実は近々僕の研究室にある魔道具をレヴィ商会の商品に交換しようと考えてくらいだし、次に出てくる新しい魔道具も楽しみで仕方ないんだよ!」


前のめりになって語るウィズに、マーシャルも少し引いてしまう。

いや、顔は明らかに引いていた。

なんといっても近いのだ。

さきほどエドワードに詰め寄っていたときは気にもしなかったマーシャルであるが、それは自分がその近さに気が付いていないというだけで、冷静なときに相手にされると不快に感じてしまう。

つまり、ウィズもマーシャルと同じように周りが見ていないだけなのだけれど。


「あ、ありがとうございます」


引き攣りながらも、マーシャルはかろうじてそう答える。

マーシャルの両手はいまだにウィズの手に包まれている。

子ども特有の少し体温の高い、温かな手だっただとマーシャルは思ったが、今はそんなことなどどうでもよい。

幼いときより魔道具一筋だったマーシャルにとって、異性と手を包まれるという経験はほとんどないに等しい。

たとえ相手が10歳ほどの少年であっても。


「ウィズ、お前シャルに嫌われたいのか?」

「は?まさか何を言ってるの?好かれたいことはあってもそんなこと微塵も思わないよ。・・ていうか今何て言った?シャルって呼んだ?呼んだよね?焔鬼様とマーシャル嬢ってどういう関係?え、まさか本当にそういう関係なの?」


すっかりエドワードへの敬語も忘れて、ウィズはペラペラと喋る。

マーシャルに関してはもはやウィズの言っていることの半分も耳には入っていない。


「何でそうなる」


エドワードはウィズの言葉に呆れ返る。

ウィズはたっとマーシャルの両手から手を離すと、自分で淹れた紅茶に口付けた。


「ですから、あの焔鬼様ですよ?一時は男色家だなんて噂されてたような人が、親しく名前を呼び合うなんて、一体なんの前触れですか」

「そこまで言うか」

「言いますよ。どうせ宰相閣下にも似たようなことを言われたのでしょう?」


ウィズは紅茶に砂糖をこれでもかというほど入れながら言う。

スプーンで紅茶をかき混ぜるたびに、ザラザラという砂糖の音が聞こえる。

その明らかに飽和しすぎて溶けきっていない音にエドワードとマーシャルは思わず眉間にしわを寄せた。


「お前そのうち病気で死ぬぞ」

「余計なお世話ですよ」


ウィズはそう言って、砂糖が溶けきっていないだろう紅茶をためらいもなく飲む。


「え、で、まさか本当にそういう仲なんですか?」

「違う」

「私がエドにそう呼んでほしいとお願いしたんです」

「エド!?」


ウィズは顔を引き攣らせながら、エドワードの顔を睨むように見る。

しかし、エドワードはウィズのそんな形相など知ったことではないと言わんばかりに、静かに紅茶を飲む。


「焔鬼様、もしかして本当に?」

「なにがだ」

「え?なに、もしかして無自覚?」

「だから何がだ」


ウィズはおろおろと、マーシャルとエドワードを交互に見るようにして首を振る。

とても信じられないものを見るかのように、ウィズの翡翠色の瞳は揺れている。

何も知らないとは、なんと恐ろしいことか。

ウィズはこの先のことを思うと、ため息しか出てこないのであった。


「苦労するね、マーシャル嬢」

「え、何がですか?」


きょとんと、首かしげるマーシャルにウィズは固まる。


「え、なに、こっちも?」

「何がですか?」

「・・・・・いや、もう何もない」


ウィズはこの2人の関係に関して触れるのはよそうと固く誓った。

そして、一息つくようにクッキーを手に取り齧る。


「さて、じゃあマーシャル嬢、改めて話を聞かせてくれないかな。まずは精霊について。君は精霊師なんだよね?」


じっとマーシャルを見つめる翡翠色の瞳は、いつかのマーシャルのようにキラキラと輝いている。

マーシャルは自分を見ているみたいな気分に陥る。


「はい・・そうですね」

「加護は何色なのかな?」

「・・他言無用でお願いできますか」

「もちろん」

「5色、すべての色の精霊の加護を受けています」


マーシャルの遠慮がちな言葉に、ウィズとエドワードは驚く。

精霊の加護というのは、1つの属性であることが多く、ごく稀に2、3属性の加護を受けているという人間がいるくらいだ。

それをマーシャルは5色すべての属性の加護を受けているのだから、精霊に愛されているとは、そういうことなのである。


「じゃああの魔石は?」

「あれは精霊があの子の望むところへ連れて行ってあげてほしいとお願いされたからで・・でもそのときが最初で最後でした」


マーシャルは淡々と答える。

ウィズはマーシャルの言葉を適度に相槌をうちながら、紙にメモしていく。

その姿はもはや10歳の少年ではなく、立派な大人の研究者だ。


「ふぅん・・精霊ってやっぱり謎だなぁ。あ、じゃあさ、どうやってあの宝石箱開けるの?」


ウィズは唐突に聞く。

ウィズはこの王城にいる精霊師や魔法師が攻撃魔法をぶつけても破損すらしなかったことをその場で見ていてよくわかっている。


「あの宝石箱はこじ開けようと思えば開けれると思いますよ」

「へ?あれを?どうやって?」

「え、解体用の魔道具を使ってですけど」

「えぇ!?マーシャル嬢、魔道具解体できるの!?」


がたんと、ウィズが立ち上がった拍子に、マーシャルの前においてあった紅茶が少しこぼれた。

そんなことを気にも留めずに、ウィズはマーシャルの真紅の瞳を見つめる。


「できますよ?」

「すごい!すごいすごい!さすがレヴィ商会のご息女だ!その技術を僕にも教えてほしい!」

「え?いや、それは・・」


さすがにマーシャルもそれはまずいと思った。

マーシャルは解体が専門なのではなく、あくまで改造が専門なのだ。


「ウィズ、シャルが困ってる」


エドワードはそう言って、ウィズを席に座らせる。

ウィズは渋々ながらいすに座り直してマーシャルを見つめた。


「マーシャル嬢は魔道具も造られるんだね」

「はい」

「じゃあやっぱり商会の商品もいくつかは手がけてるの?」

「いえ・・兄が私の造るものは値が付けられないから無理だと」

「へぇ」


いつだったか、マーシャルは兄にとても良い出来だから商品化してほしいとお願いしたことがあった。

レイモンドも少しくらいならと考えていてくれていたが、マーシャルが造ったものを見た瞬間、手のひらを返したように駄目だと言った。

それからは、いくらマーシャルがお願いしようともレイモンドはマーシャルが造ったものを店先におくことはしなかった。








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