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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
13/143

◇第13話



食堂にて食事を済ませた3人は黒の宿舎へときていた。

黒色の旗が立てかれていたそこは、どこを見ても男ばかりで、さすがのマーシャルも焦っていた。

先ほどの食堂のようにマーシャルを見てくることはないが、目立つことこの上ない。

黒の騎士服の中に、一人ドレスをはためかせるなど。


「ここがマーシャル嬢の部屋だ」


エリックとエドワードに案内された一室の扉を開けると、なんとも簡素な部屋がそこにはあった。

必要最低限の家具のみが置かれた部屋に、さすがのマーシャルも驚いた。

ベッドの上には自分が持ってきたかばんが置かれている。


「隣がエドの部屋で、向かいが私の部屋になる。何かあればすぐ言ってくれ」


隣!?と内心でぎょっとしているマーシャルであるが、顔には出さずに「わかりました」と簡素に答える。

しかし、さすがのエドワードも思うことがあったのか、顔を顰めてエリックを見た。


「さすがに隣は・・1部屋くらい空けませんか」

「それで何かがあっては困る」

「何かって、」


一体何があるのだ、とマーシャルは言外に問う。

騎士しかいないこのような場所で起こりうることなど少ないだろうと思ってのことだ。


「騎士なんていうが、中身はただの男だ。そこに見目のいい令嬢がひとり。なにも起こらないと思わないほうがいいよ」


エリックの言葉にマーシャルは開いた口がふさがらない。


「まぁそんなことが起こってほしくはないけどね。黒が一番どうしようもない連中を抱えているから」


朗らかに笑うエリックの目は笑ってなどいなかった。

それに気が付いたからこそ、エドワードは「わかりました」と、マーシャルが自分の部屋の隣に住むことを了承した。


「では今日はもう疲れただろうから、休みなさい。また明日、朝食の時間になれば迎えをよこそう」

「はい」


エリックとエドワードはそう言い残して、マーシャルの部屋を出る。

扉を開けて、何もなかったように扉を閉めて、冷ややかな視線をちらりと向けた。

その先にいたのは、数人の黒を纏う騎士。

まさか団長と副団長が出てくるとは思わなかったらしい彼らは、予想外の事態に顔を引き攣らせる。


「さっそくか」


エドワードは呆れたようにこぼすと、顔を引き攣らせる騎士たちを見下げる。

まだ黒に配属されて間もない数人の騎士たちであった。

それに気が付いたエリックもため息をつく。

元々実力主義で精鋭部隊である黒へ希望する人間は少ない。

騎士団の中で最も危険であり、最も命の保障をされない団であるからだ。

そのため、せっかく入団を決めてくれた彼らを退団に追いやることはしたくないのだ。


「お前ら、マーシャル嬢に何かしたら、ただじゃ済まない、とだけ言っておく」


エドワードはそれだけ言い残して、何も言わないエリックの後を追う。

エリックは執務室の扉を開けて、エドワードもそれに続いて執務室へと入った。

途端に疲れが見えたエリックに、エドワードは苦笑をこぼす。


「なんだ、あれは。どうすればあんな馬鹿が出来上がるんだ」


エリックは先ほどの彼らを思い呟く。

騎士であるならば、もう少し自分を律してほしいものだと、エドワードも思うが何も言わずに自分の席に腰を下ろす。

この執務室には、団長であるエリックの事務机と副団長であるエドワードの事務机が置いてあり、そのほかに並ぶ机には、山のような書類がこれでもかというほど積まれている。

王都だけでなく、他の街の警備にもあたっている黒騎士団へやってくる書類の量は多く、3日も職務を怠慢すれば、紙はうず高く積み上げられてしまう。


「今晩あたり危ないかもしれませんね」

「あの様子だと、懲りそうにないな」


なんとも気が重たい会話だ。

今日は訓練も魔物討伐もなかったからよかったが、もしそんなことがあった日には、興奮しきった騎士たちが何をするかわかったものではない。

それでもここで保護すると決めたのは、他でもないエリックとエドワードだ。

もっとも、2人も初日からこうなるとは予想もしていなかったが。


「どうします?見張ります?」

「そうしたいところだが・・明日の仕事に支障がでても困る」


なんといっても王都の治安を守っているのだ。

魔物が出ていなくとも、住民の諍いがあれば出なくてはならない、彼らが寝不足で何もできないでは話にならない。


「護衛は固定にしますか」

「そうだな、そのほうが見張りも楽だろうし、普段の仕事はできないしな」


マーシャルはおそらく王城の中を移動することしかないだろうが、自分でお転婆と言いきったほどだ。

何をするかわかったものではない2人にとって、マーシャルには四六時中護衛をつける必要があると考えていた。


「問題は誰にその任務を任せるかだ」


エリックは深くいすに座り込み思案する。

団長自らが護衛につくわけにもいかなければ、半端な人間をつけるわけにもいかない。

本来ならば、護衛という仕事は黒騎士団ではなく青騎士団の仕事である。

荒事を荒事で解決してきた黒騎士団にとって、護衛というのは面白みに欠けてしまう。


「団長」

「なんだ?」

「その護衛、俺がしますよ」

「はい?」


エドワードが真顔でさも当然というように言うから、エリックは余計に狼狽する。

エドワードという男はこんな男ではないことを、付き合いの長いエリックは知っている。

女に勘違いさせない為に無駄な優しさは見せないし、特別声をかけることもしない。

時には女を煩わしいとすら思っているような男だ。

そんな男が、自分からすすんで護衛の件を受け入れようとしているのだ。

驚かない人のほうが少ない。


「護衛、俺がやりますって言ってるんです」


エドワードは崩した口調で再度言う。

その言葉にエリックは聞き間違えでないことを認識する。


「いや待て、お前は副団長だろう。お前が抜けるといろいろ困る」

「嘘言わないでください。俺が抜けても問題ないくらいには何も起きないですよ」


エドワードは貴重な戦力だ。

彼がいるだけで、勝機を生み出せるし、強気でいられる。

しかし、黒騎士団は彼に頼ってばかりではなく、個人個人の力も強い。

よっぽどのことでない限りは、エドワードの力を借りなくとも解決することのほうが多い。


「ていうか俺が適任でしょ」


エドワードはうんうんとひとりで頷いてみせる。

そんな様子にエリックは頭を抱えたくなった。


――――実は一番危ないのはエドなんじゃないか?


と、そんなことを思うくらいには、彼は今の状況に混乱していた。

しかし、エドワードの言うとおり、彼ほど適任はいないのも事実だった。

マーシャルはしばらくここにいることになるだろう。

王城を出入りすることも多くなれば、陛下や宰相にお目見えすることもあるだろう。

そうなれば、いくら宝石箱を解く鍵となる彼女であっても、周りがいい顔をしなくなる。

おまけに彼女は爵位をもたない、ただの商家の娘である。

そのため、爵位を持たないマーシャルが王城に居続けるための盾がどうしても必要になる。

エドワードはそれを持っている。


「わかった。マーシャル嬢の護衛はお前に一任する」


エリックは渋々ながらエドワードの申し出を認めた。

その言葉に、エドワードは言葉こそ返さなかったが、普段見ることのない満面の笑みを返した。

それに呆気にとられたのは言うまでもなく。


「・・エド、お前もしかして彼女のこと、」

「なんですか?」

「・・いや、なんでもない」


これは面倒くさいことになった、とエリックが心で呟いたなど、知る由もなく。

悪い虫ではないが、マーシャルに虫がついてしまいそうだ。

こうなったらエドワードにマーシャルを娶ってもらえばなんてことを、真剣に考えてしまうのだった。






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