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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
12/143

◇第12話



食堂で3人分の席を確保した彼らは、先ほど頼んだ料理を目の前にしてため息をついた。

視線が、特にマーシャルに注がれる視線が凄いのだ。

こんなことならば、多少怪しくても顔を隠してくるのだったと後悔したところで遅い。

すでに注目は浴びている。

こんなことでは、せっかく美味しそうな料理が並んでいるのに、喉を通りそうにもない。


「食べないのか?」

「この状況でご飯が喉を通るほど私は図太くできてはおりません」


実際には魔物を目の当たりにしても素材だと喜び目を爛々と輝かせていたのだから、十分図太いとは思うのだが、そんなことはさすがにエリックもエドワードも言えない。

おまけに、周りの騎士たちは物珍しさだけでマーシャルを見ているわけでもなさそうなので、彼らとて気が気ではない。


「そう言うが、食堂はここだけだ。宿舎のほうにはない。ここで食べなければ朝までないぞ」


エリックの言葉にマーシャルは喉を通らないのを覚悟で、料理に手をつけた。


「マーシャル嬢は商家の出だが、こういった大衆食堂でも気にしないのだな」


エリックはこの食堂についてから思っていたことを口にする。

それにきょとんと真紅の瞳を丸くしたマーシャルはフォークで肉を刺しながら言った。


「そうですね、我が家は商家だからと言って贅沢な暮らしをしていたわけではありませんから」


職人街きっての魔道具商家のレヴィ家だ。

王都でもそれなりに有名であるし、資産は潤沢であると聞く。

ならばそれくらいの贅沢はしているのではないかと思っていたエリックもエドワードも、マーシャルのこの言葉には面を食らった。


「しかし・・身なりや言葉遣い、それに食べ方は上流貴族のそれだ」


また、きょとん、と。

顔が良いだけに、その表情は大層可愛らしく、マーシャルを物珍しげに見る騎士たちが人知れず悶える。

そんなことをマーシャルが知る由もないのだが。

そして、エリックがマーシャルにそのようなことを言うのには理由がある。

マーシャルは貴族のご令嬢とはいかずとも名の知れた商家の娘である。

彼らが屋敷でマーシャルに会ったときも、彼女は質の良さそうな淡い青色のドレスに身を包んでいた。

おまけに食べ方はとても綺麗で、おそらく礼儀作法も問題がなさそうだ。

そんな彼女がいきなり野宿すら厭わない野郎共がのさばる宿舎にやってきたのだ。

今までとの生活の違いに思うところがあるのではないかと、懸念するのは最もである。


「私、とってもお転婆なんです」


にっこりと笑うようにして言ったマーシャルの言葉に、彼らは盗み聞きをしていたことを思い出し納得する。

確かに、その辺のご令嬢ならば盗み聞きなどどれほど好奇心を駆り立てられようが絶対にしない。

それも女性の心を掴んでやまない美丈夫の前でなんて。

それをやってのけて、あまつさえケロリとしているのだから、お転婆と言われても頷ける。


「小さな頃は本当に手のつけられないお転婆娘で、まぁ貴族ではないので両親も兄もそこまで強く言うことはなかったんですけど」


そこまで言って言葉を区切ると、マーシャルは先ほどの緊張はどこへいったのか、しっかりと目の前の肉を食べきってしまった。

やはり図太いというのは間違っていないようだ、と目の前の2人は思うものの、遠慮せずに美味しそうに食べきるマーシャルに好感を覚える。

彼らとたまに食事をする貴族の令嬢は、自分をよく見せたいのか、誰も彼もが少食でいようとする。

出された料理も半分ほど残してしまうのだ。

それを見るたびに、軍の遠征などでたびたび食糧難に襲われる彼らは勿体無いと思ってしまうのだ。


「ドレスは嫌い、言葉遣いは平民のそれ、自分を飾るなんて興味はない。そんな私を、求婚の知らせがきたときにまずいと思ったお兄様が矯正したのです」


まぁ、矯正しきれてなどいないのだけど、と内心で毒づく彼女は、パンをちぎって食べる。

兄のレイモンドによって16歳の頃よりドレスで生活をし、誰に嫁いでも笑われないように、貴族令嬢のそれをマーシャルにさせた。

しかし、マーシャルはいつまでたってもドレスは好きになれないし、言葉遣いだって気を緩めれば品がなくなるし、着飾ることに興味など出ない。


「矯正はされましたが、息苦しくて詰まりそうでしたわ。こういう生活のほうが私は好きですよ」


マーシャルはそう締めくくって、最後の一かけになったパンを放り投げて口の中へ入れた。

始めから終わりまで上品な食べ方であったが、最後の食べ方だけは街娘でもしないだろうと言い切れた。

それをやってのけてしまうほどの娘なのだ、と、2人は再確認をする。


「さて、私の身の上話はいいので、これからのことについてお話願いますか」

「ああ、そうだな。ここで生活するのが問題なさそうだし、いいだろう」


いや、ここにいることは決定だったのでは?と出かかった疑問を口にするのことなく、マーシャルはエリックの言葉を待つ。

エドワードは先ほどから反応は見せるものの、基本的に傍観に徹しているようで何も言わずに綺麗に料理を食べていく。

そんなエドワードにさすがは貴族だと感嘆する。

エリックもであるが、騎士という身分でありながら元々は爵位を賜る貴族なのだ。

その食べ方ときたら、なんと綺麗なことか。

マーシャルは今頃になって、とんでもない相手と食事をしているということに気が付いた。


「マーシャル嬢は我々黒の騎士団が護衛することになっている」

「はい、それはエドワード様から聞きました」

「そうか。エドと仲が良さそうで何よりだ」


ほんの少し含みのある言い方に、マーシャルは眉間に少ししわを寄せるも、口にはせずに先を促す。


「そのため、婚前の令嬢とは知ってはいるが、黒の騎士団の宿舎にて寝泊りをしてほしい」


これが貴族の娘だったら大問題だなと、マーシャルは他人事のように思う。

実際、貴族の娘ならば、王城の一室に通されていたのだが、そんな事実は彼女は知らない。


「それは大丈夫です」

「すまないな。部屋はこちらで用意するが、私とエドの部屋の近くになるだろう」

「はい、それも伺っております」

「そうか。マーシャル嬢は基本的には自由に行動してくれてかまわない。護衛はこちらがつける。だが、我々の護衛下にいるから、こちらの食堂をなるべく利用してくれ」


エリックの言っていることをマーシャルはメモをするように、頭に書き留めていく。

基本的に行動は自由と言われたことには驚いたが、護衛がついているのだから問題ないということなのだろう、とひとりで納得する。


「宝石箱に関しては明日以降でお願いする」

「・・はい」

「どうした、やはり怖くなったか?」


気落ちした返事に、エリックは怖気づいたのかと勘違いをする。

20歳といえど、娘には変わりないのだ、怖がっても仕方がないと思うのだが、エドワードにはそのように感じられないので、この時ばかりはエドワードは声を出して笑った。


「マーシャル嬢は怖いのではなく、宝石箱を見れないことに気落ちしているんですよ」

「なに?」

「ね?」

「・・・だって、人を食べるような宝石箱ですよ?そんなもの滅多にお目にかかれないではないですか!そもそもそれは人の手によって造られたのかどうかもわかりません。もう待ちきれないのです」


エリックは少しだけ引いた。

見た目だけはそこいらのご令嬢よりも良く、黙っていれば深窓の令嬢とでもなっただろうに、如何せんその中身が残念すぎる。

大の男ですら気味悪がって怖がった宝石箱を待ちきれないなどと言うのだ。

エリックは悩みの種こそは消えたものの、なんとも複雑な思いでマーシャルを見てしまった。





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