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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
10/143

◇第10話


「正直に話せば、今までが忙しかったんです」

「作る暇がなかったと」

「簡単に言えばそうですね。まぁ、私自身にもその気などなかったですが」


それはつまり、その気があれば、女など簡単につくろうと思えばつくることが出来たということだろうか。

マーシャルは嫌みったらしくエドワードの言葉を受け取ったが、それを納得せざるえないほど、エドワードは美丈夫だった。

それを証明するかのように、さきほどからすれ違う人たちは、黒を纏う騎士団に怯えながらも、エドワードを見ると女性はその頬を可愛らしく赤く染めている。


「・・私相乗りしてよかったのかしら」

「いいんじゃない?それともマーシャル嬢は下心丸出しのほうがよかった?」

「はぁ?」


マーシャルは思わず、兄に散々矯正された言葉使いを忘れて声を上げる。

そんなマーシャルを見て、エドワードは楽しそうにくすくすと笑う。


「え、なに副団長が笑ってるんだけど」

「副団長って強い敵と戦ってるときしか笑わないんじゃないの?」

「ていうかいい雰囲気?嘘でしょ?」


マーシャルとエドワードが乗る馬の後ろに並んでいたいた騎士たちは、2人の様子に口々に言葉をこぼす。

そんなことなど知らずに、エドワードは思う存分に笑った後に、マーシャルの顔を覗き込む。


「ちょ、前見て」

「大丈夫だって。レットは賢いし問題ない」


そもそも障害物があったとしても、よっぽどのものでなければ馬が避けていく。

マーシャルの少しずれた言葉にもエドワードは笑う。


「そ、そういえば、私向こうについたらどうしたらいいんですか?」


マーシャルは屋敷を出る前から気にしていた疑問をぶつけた。

エドワードは笑った後に「ああ、」と言葉をこぼして、少しだけ考えるそぶりをしてみせる。

といっても、マーシャルから視線を外しただけだが。


「とりあえず、今日は王都についたら日も暮れてるだろうから、宝石箱は明日になるかな」


エドワードの言葉にマーシャルは目にわかるほど落胆してみせた。

そんなマーシャルにエドワードは、さすが魔道具好きなだけあると感嘆する。

この話が王城で広まったとき、誰もが大なり小なり怯えたような表情をしてみせたし、気味悪がって王女の部屋に近付こうとすらしなかった。

今でも厳重体制が続いており、王城に住まう技術士たちも腫れ物を扱うような、引き腰で宝石箱を扱う始末。

なんたって王女を食べたのだから。

『人食い箱』と、誰かが言っていた。

そんな事実を知ったというのに、エドワードの目の前にいる彼女は、宝石箱を目にすることを楽しみにしているように見える。


「明日には宝石箱に会えるだろ」

「うー・・・絶対明日ですよ?」

「はいはい」


思わず、エドワードはマーシャルの白銀の髪に触れた。

ぽんぽんとあやすような触り方だったが、マーシャルの胸はうるさく鳴る。

レイモンドと父親以外に触れたことのないそこは、エドワードの思っていた通り艶のあるさわり心地の良い絹のようだった。


「じゃあ私王都で宿をとったほうがいいんですか?」


マーシャルは見上げるように顔を向ける。

ふいにかち合った真紅の瞳に胸をうるさくさせたのはエドワードだった。


「え・・あー、いや、マーシャル嬢は黒騎士が保護するようになってるから、男臭くて申し訳ないが黒騎士の宿舎に来てもらうことになる」


マーシャルは目を丸くする。

この男、さっき婚前の娘ではという会話をしたはず・・とマーシャルの脳内では議論がかわされる。

婚前の娘が、いくら保護の対象だからといって、男しかいない騎士の宿舎に寝泊りするのはさすがに・・といくら結婚願望がなくお転婆なマーシャルでもまずいと思う。


「あいつらは私と団長が目を光らせておくから」

「はぁ、」


大丈夫なのだろうかという不安がよぎるが、マーシャルにはどうすることもできないので、首を縦に振って頷いておく。

おそらくこの場にレイモンドがいれば、即答で反対していただろう。


「そういえば荷物はあれだけか?」


今度はエドワードが先ほどから感じていた疑問をぶつける。

嫁入りというわけではないが、それなりの荷物にはなるだろうと騎士団では話になっていた。

しかし、彼女が持ってきたのは、少し大きめのかばんと、身につけたポシェットのみ。

貴族ではないが、レヴィ家の商会といえば、職人街きっての商会で規模はそれなりに大きい。

貴族とまではいかずとも、富はその辺の貴族よりもあるため、もしかしたら侍女も来るかもしれないと思っていたくらいだった。

そういった意味でも、彼らは面食らっていた。


「道具があれば問題ないですから」


マーシャルのいう道具とは言わずもがな、魔道具を解体する為の道具のことだ。

実はこの道具ですら、マーシャルが自分が使いやすいように勝手に造った特注品でもあるのだが、そういったことをマーシャルは知らない。


「マーシャル嬢は本当に魔道具を解体されるんだな」

「そうですね・・変、ですよね」


珍しく、マーシャルが魔道具大好きである自分を卑下するように言った。

魔道具大好き!を地で行く彼女ではあるが、自分が普通の娘ではないことはわかっているつもりだ。

それは自分が精霊を見ることができ、声を聞くことができるということを除いてもだ。

マーシャルに自覚があることにエドワードは多少なり驚く。

マーシャルの場合、兄からあれほど「普通の娘になりなさい」と言われてきたのだから自分が普通ではないことなどわかりきっていたのだが、どうしても己の欲求に負けてしまうのだ。


「どうだろうな。王城にはマーシャル嬢と同じような魔道具馬鹿がいたりもする」


技術士、と呼ばれる彼らがその最たるものだ。

自分で造り上げた魔道具を興奮気味に説明する彼らに、どれほどの時間と労力を割いただろうか。

あの熱の入りようは異常だと、貴族や騎士の間では有名である。

まぁ、マーシャルだとて語らないだけで変わりないのだが。


「まぁだから、マーシャル嬢が魔道具をどれだけ好きだろうが、我々はあまり気にはしない」


見た目がいいから男は残念がるかもしれないが、という言葉は言わずに呑み込んだエドワードはマーシャルの髪を手で遊びながら言う。

マーシャルはその言葉に驚きつつも、素直な返事と笑顔をエドワードに返した。


「さて、そろそろ王城に着くが、」


こじんまりとした職人街とは違い、白を基調とした建物の多い王都は、以前訪れた時と同じように、マーシャルの目にはきらびやかに見える。

王都の入り口ともいえる門をくぐれば、いっそう華やかに見える景色に、彼女の心は浮き足立つ。

王城に向かうために街の中央通りに出れば、にぎやかな街並みが見える。

そしてその賑やかな声には女性のものが多く、羨望と嫉妬の声をマーシャルの耳に届けた。


「エドワード様と相乗りされてるご令嬢は誰?」

「恋人、とか言わないわよね?」

「そんな、どういうことかしら?」


などなど、マーシャルの耳に聞こえてくるのは、そんなろくでもないことだった。

他の誰かに相乗りさせてもらえばよかったと、今一度後悔してみても遅い。

すでに黒の騎士団ご一行は中央通りを歩き、目の前には王城が聳え立っているのだから。


「副団長、目立ってますよ」

「知るか。言わせておけ」


エドワードは城下に出るたびに、こうやって女性からの熱い視線と甘い声を浴びせられる。

それをやめろとは言わないが、エドワード自体好き好んではいない。

ため息混じりにそんなことを思っているうちに、馬は王城の敷地内に入っていき、馬舎の前でしっかりと止まった。

ブルッとレットが鳴く。

まるで降りろと言わんばかりだ。

それに苦笑しながらも、エドワードはひらりと身軽に降りてそっとマーシャルに手を差し出す。

その手をマーシャルも戸惑いなく手にとると、レットから降りた。







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