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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◇宝石箱編◇
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◇第1話


どうも、ゆきうさぎです(^^)

初めてのファンタジーなので、ちょっと先行き不安なのですが読んでいただけたら嬉しいです☆


2016.10.19 内容大幅修正。







「暇。暇すぎて死ぬ。つまんない」


雲ひとつない空を見上げながら、職人街:イーキスきっての魔導具屋の娘であるマーシャル・レヴィは呟いた。

マーシャルの手には、数時間前に母親から渡された商品(魔導具)たちがあった。


彼女(マーシャル)は今、店の商品を売りに来ている真っ最中だったのだ。


しかしこの時間というのは、マーシャルにとっては苦痛の時間だった。

魔導具屋の長女であるマーシャルは、当たり前といえば当たり前だが魔導具が好きだ。

そうでなければ、いくら自分の母親からの言いつけでも、王都まで馬車を乗り継いで売りになど来ていない。


――――ていうか、改造したい。


晴天の空を見上げながら、マーシャルは心の中でぼやく。

本当ならば今頃自室に引きこもって、今製作途中の魔道具を完成させているところだ。

マーシャルは可憐な見た目には似合わず、魔道具を自分流に造り、すでに完成している魔道具を勝手に使い勝手がいいように改造するという、趣味とも特技ともとれる腕を持つ。

でなければ、とっくに親に勘当されているか、適当なところへ嫁にいかされている。。


「おや、旅商人さんかな?」


ぼーっと空を見上げているマーシャルにそんな声がががった。

上げていた顔を声のするほうに向けたマーシャルの目に映ったのは、王都を巡回している騎士だった。


―――さすが王都。乗っかっている顔が異常にいいな。


マーシャルは不躾にもそんなことを思ってしまう。

顔の良い騎士はロクなものじゃない。

というのも、王都には大きく分けて2種類の騎士がいるのだ。

顔で選ばれた見た目重視のお飾り騎士様と、剣の腕すなわち実力で選ばれた実力重視の騎士様。


「そうですよ」


とりあえず、といったように、マーシャルは慣れもしない愛想笑いを浮かべる。

反感を買ってしまっては、商売人として元も子もないからだ。

その辺にいる商売人と変わりませんよというふうに接しつつ、おや、とマーシャルは異変に気付く。

目の前にいる騎士様は、黒色の騎士服を着ていた。


黒色は、実力重視の証。

目の前にいる騎士様は実力社会の黒騎士団の一員であった。


「そうか、何を売っているのだ?」

「・・魔導具ですよ」

「ほう、」


マーシャルが言った魔導具、という言葉に騎士はその目を光らせる。

それに気が付いているマーシャルは「日常品ですよ」と小さな声で付け足す。


「団長、報告に遅れるんですけど」


ほら、と魔導具を見せるマーシャルの手を止めるように、低めの声が聞こえる。

マーシャルが見上げた先にいたのは、これまた端正な顔をした黒色の騎士だった。


――――なに、やっぱり騎士って顔重視なわけ?


マーシャルがそんな疑念をもってしまうほど、現れた男は目の前の団長と呼ばれた男よりも見目が良い。


「ああ、すまん、いや少年の持っている魔導具が気になってな」

「はぁ、」


そう言われて、マーシャルは相槌をこぼす。


――――少年、に見えてるなら問題はないか。


なんてことを、マーシャルが考えているとは、目の前の2人は思っていないだろう。

現在マーシャルは自分の性別を偽って魔導具を売りに来ている。

客が命の商売人が騙すとか最低!と罵られそうだが、こればかりは仕方がないのだ。


「で、その気になる魔導具というのは?」

「ああ、この少年が手首につけているこれだよ」


そう言って団長が指をさしたのは、マーシャルの左手首についている、5本のバングルだった。

それを見たマーシャルは顔に出しこそしないが、内心ぎょっとする。

傍から見れば、それは装飾品のひとつにしかすぎず、つけている本数は多いものの、シルバーアクセのひとつだと思われる。

よくよく見れば、バングルの内側には文字が彫られており、小さな石がいくつかはめ込まれているのだが。

見えないのだから、大抵の人たちはマーシャルのつけている5本のバングルを、安物だと判断してしまうのだ。

なんてことをわかっているマーシャルにとって、そのバングルが気になるというのは価値がわかる人間、あるいはその逆、ということになる。

商人ですら騙せるのに、とマーシャルは焦る。

団長と呼ばれた彼はマーシャルの手首を軽く掴む。

それを覗くように、もうひとりの彼がマーシャルの細い手首を見た。

そして一瞬見えた、顰めるような、怪しむような表情。


「魔除け?魔力の貯蔵か?なんにしても不思議だ」


5本のバングルを大きな男が2人して覗き込む。

なんと異様な光景か。

これで彼女が男装でもしていなければ、治安を守る騎士に声をかけられていたところだ。

おまけに黒色の騎士服というのが、余計にマーシャルを怯えさせた。

これなら無能でも腕っ節がなくても見目が良い白騎士に捕まっているほうがましだとマーシャルは思う。


「あああの、どちらかへ行かれる予定だったのでは・・?」


意を決したように言ったマーシャルの言葉に、若い騎士が「あ」という言葉を漏らす。

どうやらバングルに気をとられていて完全に忘れていたようだ。

そんなのでいいのかと内心で突っ込んだマーシャルだったが、2人の気がバングルから逸れたようで内心でホッとする。

というのも、マーシャルが嵌めているこのバングルはただの装飾品でもなければ、魔除けのものでもない。

それは、彼女の立場を明確に示すものだ。

それをこんなにも簡単に見破られるわけにはいかない、それも騎士なんかに。


「忘れてたな。陛下に怒られるか?」

「いいんじゃないですか、たまには」


よくないだろう。

2人の言葉を聞いていたマーシャルは当然のように思った。

陛下、という言葉も聞こえてきたことから、この2人が相当位の高い騎士だと推測する。

もしかしたら爵位持ちかもしれない。

マーシャルはなんとかして逃げなければと、普段は魔道具のことしか考えていない頭をフル回転させたのであった。


が、しかし。

-------------ズドーーーーンッ


フル回転していた頭をけたたましい音が遮る。

まるで何かが落ちてきた音に、その音の近さに、彼女の真紅の瞳が揺れた。


「ひっ」


そして漏れた、悲鳴ともとれぬ小さな声。

彼女の耳に聞こえてくるのは、老若男女を問わない悲鳴と泣き声。

そして彼女を通り過ぎて行く沢山の人たち。

何が起きたと、頭が目の前の情報を整理する。

早く、早く、早く・・・!


『グキャァァァァァア』


聞こえた、耳を劈くような、耳障りの悪い声。


「・・・まも、の?」


真紅の瞳が捉えているのは、ただの黒い塊。

目があるのかはわからない。

見たところ、口はあるようで、先ほどから逃げ遅れた人を食べていく。

そんな彼女の瞳と魔物との間にスッと割って入った背中。

黒い背中。


「なんでこんな街中にあんなでかいのがいるんですかね」

「知るか。なんだよ、俺らの任務ってさっき終わったんじゃないの?」


そんな軽口を叩く2人は、腰に携えていたそれを抜刀する。

そしてまたマーシャルの瞳が揺らぐ。


「・・それ、」

「ん?」


マーシャルの蚊の鳴くような小さな声を若い騎士が拾う。

マーシャルの瞳は、その若い騎士が抜刀した剣をただずっと見つめている。


よく研ぎ澄まされたそれは、どこまでも鋭利な光を放っている。

しかし惹かれるのはそこではなく。

彼女の瞳は、その剣に散りばめられた、まるで宝石のようにも見える赤い石に釘付けになっていた。

それはそれは、目を凝らさなければ見えないほどの小さな石たち。

一体どれほど精巧に造れば、あんなにも綺麗なものが出来上がるのだろうと、マーシャルは場違いな思いを馳せる。


「気になるのか?」

「え?・・あ、いえ、はい」

「どっちだよ」


マーシャルの言葉に、若い騎士は初めて苦笑を漏らした。

まるで緊張感のないそれに、黒騎士の強さを垣間見た気がして、マーシャルは俯く。


「さて、仕事だな」

「ですねー。これは追加報酬いただかないと」


そうごちた2人はこちらを威嚇する魔物に真っ向から挑んでいった。








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