プロローグ
__俺はどうすればいいのだろう__
目の前の少女を見てため息をついた。
たぶん14歳くらいだろう。腰まで伸ばしたつややかな黒髪に対照的な深い青の瞳で
俺のことを瞬きもせずじっと見つめている。かなり整った顔立ちだ。
でも、とんがり帽子にマントというなんとも魔法使いチックな格好は
近代社会の日本であまりする人はいないと思う。…コスプレでもなさそうだし。
まあ本人の趣味だから放っておくとして。
今はこの状況をどうにかしなければ…。
そう。さっきからこの少女が俺の目の前で静かにじっと正座をしている。人形みたいに。
こうなったのは少し前にさかのぼる。
「あ、暑い…。」
今日は7月の夏真っ盛りの日だ。40°Cにのぼる温度は、頭の上で燃え盛る灼熱の太陽の
せいで上がったのだろう。暑いのは嫌いだ。…と同時に寒いのも嫌いだが。
今日は友達のカラオケの誘いを断ってきた。
これからはじまる夏休みの宿題をある程度片付けたかったのだ。
それとカラオケにオンチで有名なクラスメイトがついてくると聞き、
それを逃げるための口実をかねてそうすることにした。
「今日は宿題を終わらせるための一日にするか…。」
ぐだぐだ汗をかきながらクーラーを求めて家の中に駆け込む。
そして自分の部屋を開けると…
居たわけだ。
さすがに自分より年下の女の子を不審者よわばりするわけにもいかず。
こうしているのもさすがに…
「ふぁ~…あ、すいません。長居させてもらいました。もう十分寝たので行きますね…では。」
「おいおい、ちょっと待て!?人の家に不法侵入しといてそれだけかよ!
あと十分寝たって何の話だ?」
「は?フホウシンニュウって何ですか?」
…この子はどれだけ世間知らずなのだろうか。
「あと私はさっきまでずっと寝てました。とぼけないでくださいよ」
「…だってずーっとそこで正座してたじゃないか!」
そういってさっきまで座っていた場所を指さす。
「そうです。私は正座して目を開けて寝ていたんです。」
…頭が痛い。
「あとこの服がおかしいとか言わないでくださいよ?
この世界の人間じゃないんですから服も違うにきまってるじゃないですか」
「は?何言ってんの?この世界の人間じゃないとか!」
「……へぇ、信じることが出来ないと…。フッ、思い知らせてあげましょう…。」
ゲラゲラ笑ってバカにする俺を見て少女が呪文を唱え始めた。…とても嫌な予感がする。
『テレポートっ!!』
「っ…!?」
あたりが光に包まれる。自分の体がふわりと浮くような気がすると
……意識が遠のいていった。
気が付くと、とんがり屋根のファンタジーみたいな家が並ぶ街にたっていた。
商業人や騎士のような人たちが笑いながら街を歩いてゆく。
これは夢なのだろうか?
「何ボーっとしてるんですか?」
「うっわ、びっくりした! いたのかよ!」
気が付くと隣にあの少女がいた。
「ここどこだ? これは夢なのか?」
「何言ってるんですか、これは現実です。こうすればわかりますっ!」
「んぐっ…!! 痛っ!現実なのは分かったが二度とやらないでくれよ。痛すぎる!」
そういうと頬を引っ張っていた手を放した。
こいつ…思った以上に力がある!
「ていうか、まだお前の名前も聞いてないんだが」
「あ、そうですね。私は白魔法使いのティアです。…って言ってもまだ見習いですけどね。
よろしくお願いします」
「そうか。俺は伊藤斗真だよろしく。」
そういって丁寧に頭を下げる。…って、え?
「おい、今なんて言った」
「『白魔法使い』のティアです。って言いました…何か?」
キョトンとした顔をしてそう言った。
「お前本当に魔法使いなのか…?」
「まだ疑ってるんですか? ここは異世界の街です。
あなたが信用しないから連れてきたんですよ」
…うそだろぉ。
思わず絶句してしまう。というか俺はこんなところに来るために真っ直ぐ家に帰って来たんじゃない!
「分かった、疑って悪かったよ。だから俺をもとの世界に戻してくれ!」
「何言ってるんですか? 帰れるわけないじゃないですか」
「は…?」
「簡単に行き来できると思わないでください。この世界からあなたの世界に
帰ることができるようになるのは…百年後くらいだと思いますよ?」
百年も待ってられるかぁぁ!!
「それにあの事まだ許してませんからね…!フフフ…トウマさんは私が立派な魔法使いに
なるための修行に付き合ってもらいます!よろしくお願いしますね?」
そう言ってティアはにたりと笑みを浮かべる。
その笑顔はまるで…悪魔の笑顔のようだった。
最後まで読んでもらえてありがたいです…!
本当にありがとうございますっ!!
なかなか更新はうまく進まないと思いますが、
面白いと思ってもらえていたら次も見ていただきたいです。
今後ともよろしくお願いします!