散文詩:始まらなかった恋の終わりに
君が初めて現われたときの 心を閉ざした暗い目を憶えている
疲れきって投げやりな様子でタバコを吸う 寂しそうな背中を憶えている
これは放ってはおけない
つい そう思ってしまうのは 僕の悪い癖だ
しつこく付きまとう僕に
しょうがないなという感じで 君が浮かべた苦笑い
口では憎まれ口をたたきながら 照れてほんのりと染まった頬
初めて君が声をたてて笑ったときのこと
僕は憶えている
君が耳元で囁く声
そっと触れた肩の細さ 柔らかさ
抱き寄せれば君は きっと 素直に身を任せた
そんな瞬間が幾度もあったのに
どうしてだろう
僕たちは 交差する軌道をめぐる 二つの惑星みたいに
近づいては離れ 近づいては離れ
いつまでも ひとつになれなかった
君にはあの頃 思いつづけていた人がいたね
君が僕を振り返ったとき 馬鹿な僕は 必死で君を忘れようとしていた
君がはっきりと僕を選んだとき 僕は別な人に心を移していた
どうしてそうなってしまうんだろう
長い楕円軌道が交差する その一瞬をつかまえることが出来ていたら
何度も何度もそう思うのに
どうしてだろう
僕たちはまた遠ざかっていくね
これで終わりにしよう 何も 始まりはしなかったけれど
僕からさよならを言おう