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秋とアイツとラーメンと遭遇と



「これでよし」


 今日も良い天気である。

 俺は島津さん家へ持っていく荷物を整理をしていた。もうほぼ終盤だった。これからは島津さん家のマンションで半同棲のような状態になると思われる。ものすごいスピードで決まった再婚だった。いや、でも母さんと佑司さんが再婚しようと決めたのはもっと前からの話だったのかもしれないが。


 荷物と言っても、着替えと大学関連の荷物がほとんどだ。そう、あまり趣味といった趣味のない人間、それが俺である。


 郵便物などの手続きは、まだやっていないらしく、これから時間を見つけて母がやっていくようだ。とりあえず俺らだけでも島津さんの家へ行ってしまおう、ということだ。


 別にこの家ともお別れなわけでもないから、寂しさは全く無かった。あるとしたら少しの楽しみだ。


「母さん、俺はもう終わったよ」


「あら、早いのね」


 母さんは相変わらずテーブルでパソコンをカタカタしている。メガネをかけているので心なしか若々しく見える。この状態だったら「ギリギリ20代だ」と嘘をついても信じてしまう人は多そうだ。


「何か忘れてても取りに戻れる距離だからね」


「それもそうね」


 母はテーブルから立ち上がりうーんと体を伸ばす。


「ちょっと早いけどお昼ご飯にしようかしら」


 今日は、午後からはもうすでに島津さん家のアパートに居候状態のはずである。


「ん。俺は良いよ。あ、でも今日は晩御飯は友達と外で食べてくるから」


「はいはい」


 母さんはパソコンを片付け、テーブルを綺麗にしてから台所へ行く。

 今日、俺が外食にしたのは、友達から誘われたというのもあるが、母さんと佑司さんを二人にしようという俺の(粋な)計らいである。俺の意思と態度は母にしっかりと伝えたので、母さんと佑司さんも少しは二人で話したいこともあるだろう。特に昨日の2人の様子を見ると、逆に俺から作戦会議をして欲しいものだ。

 俺は窓際に立ち、外を見る。季節は10月で、もう冬の入り口に立っているが、まだほのかに秋らしさも感じる今日この頃である。


 秋と言えば、何だろうか。食事だの運動だの読書だの、人によって違うかもしれないが、俺は秋と言えば空である。いや秋の空って綺麗すぎるでしょ。


 俺も先ほどの母のように大きく体を伸ばす。うーん。

 もう一度言うが、今日も良い天気である。そして綺麗な空である。






『親の再婚で行った家には不良な女の子がいました。』第8話






「ねぇ、旅行に行くとしたらどこが良い?」


「旅行?」


 俺と母は、母が作ってくれたチャーハンを食べている。お昼ご飯だ。なんだかんだ母は料理が上手いのである。


「そう、旅行」


 母は麦茶が入ったコップを手に取り一口飲んだ。そして続けさまに言った。


「来年にでも4人で旅行に行こうかなって思っててさ」


 なるほどね。新しい家族の親睦を深めるための旅行的なやつね。


「別にどこでも良いけど、東日本あたり行ってみたい。それこそ京都とか行ってみたいな」


 俺はチャーハンをガツガツ食べながら答える。自分ではよく分からないが、俺はだいぶ早食いらしい。確かにあまり噛んでないかも。

 てか京都行きたいよね。抹茶と豆腐を食べたい。うん、食べ物の事しか考えてないね。


「京都ね。分かったわ。検討しておくわ」


 お昼ご飯を食べ終え、俺と母さんは早めに島津家へ行くことになった。


「今日は俺が運転する」


「あら、頼もしいじゃない」


 母がニヤッと笑い答える。去年の夏に免許を取ったばかりである。

 たまにはね、やっぱ息子としてね、成長具合を見せつけてやらないとね。




「そういえば友達と話し合ってたんだけどさ」


「うん」


 俺は車を運転しながら母に話しかける。


「大学生ってお年玉を貰っても良いのかな?」


「なによそれ」


「いやー、友達はさ、まだお年玉貰っているらしいんだよね」


 大学生という、超微妙なお年頃。


「うーん、家ごとに違うとは思うけどね。私は親は上げる義理は無いと思うわ」


「やっぱそうだよね」


 同学年の奴なんかは働いてる奴もいるのだ。


 まぁ大学生にとっちゃ貰えたらめちゃくちゃ嬉しいんだけどね。


 そんなこんな話してるうちに、大きなショッピングモールが見えてきた。島津さん家のアパートって立地条件完璧だよね。



母が部屋のチャイムを鳴らす。バタバタと歩く音が聞こえる。そしてガチャッと扉が開いた。


「やぁ」


 佑司さんが笑顔で出迎えてくれた。


「やっほー」


 母が機嫌良さそうに答える。


「こんちは」


 俺もなるべく軽快に挨拶をする。いや、まだ緊張するんすよ。


「奈々ちゃんは?」


「昼前に遊びに行ったよ」


 佑司さんが苦笑いしながら答えた。また遊びに行ってるのか。いや若いうちはたくさん遊んだ方が良いと思うよ俺は。特に中学、高校のうちはハッちゃけた方が良い。まぁ、勉強とかやるべきことをやった上での話なんだけどね。


「はい、ここが岳くんの部屋だよ」


 俺は島津さんの部屋の一室を案内される。なかなか良いアパートなので、部屋数も多く使わない部屋もいくつか余っていたらしい。

 部屋をいただけるのはありがたい。


「ありがとう、佑司さん」


 中にはベッドと小さめのテーブルが一つずつ置いてあった。


「ベッドとか良いの?」


「はは、いいんだ。これくらい買わせてくれよ」


 佑司さんは笑顔で答えてくれた。


「太っ腹でしょ?この人」


 母が佑司さんの肩をポンと叩きながら言った。


「ほんとね」


 俺も笑顔で言う。



 そこから俺と母さん、そして佑司さんの3人でたくさんお話をした。なかなか有意義な時間だった。ワイワイすると言うよりも、静かだが尽きることのない話が続く。さすがは大人の2人である。

 あっと言う間に夕方になる。


「んじゃ、俺はそろそろ行こうかな」


  時刻は18時になろうとしていた。母にも伝えていたが、今日は俺は外食だ。ちゃんと佑司さんにも伝えてある。


「はい、行ってらっしゃい」


「気を付けて行くんだよ」


「うぃ、ありがとう。行ってきまーす」


 母さんと佑司さんに玄関まで見送られて外へ出る。なんか良いねこういうの。




「よっ」


 待ち合わせは島津さん家の近くのショッピングモールである。


「おう、岳」


 今日は我が徳川大学の経済学部の「味噌ラーメン愛好会」の活動日である。あ、嘘です。味噌ラーメン愛好会とは、ただ俺と俺がつるんでる友達が勝手にそう呼んでいるだけである。ちなみに今挨拶しているのは佐東というやつだ。


「あと鈴木と塩田が来るはず」


「今日は4人か」


「んだね」


 佐東が車を持っているので、一応どこにでも行けるのである。


「おーう、おっ、岳、久々じゃねぇか」


 いろいろ佐東と話をしていたらようやく塩田が来た。本名は塩田伊央である。名前の割には別に塩対応をしてくるわけでもない。むしろ愛想は良い。


「出たなサボり魔め」


「おいおい、自主休講と言ってくれたまえ」


「何で偉そうなんだよ」


 お互いからかい合いながら他愛のない話を続ける。そしてようやく残りの鈴木も来たので、佐東の車で移動を開始する。

 ラーメン屋のチョイスは、行くやつのなかで誰か一人が決めることになっている。今日の担当は佐東だ。


「おい、車の中にガムないのかよ」


 鈴木が言う。


「ガムなんて置いてねぇよ」


 佐東が答える。


「だからモテねぇんだよお前」


「うるせぇやかましい。まずモテないのはお前もだろ」


 この佐東と鈴木は一見仲が悪そうに見えるが、実はとても仲良しである。二人でチョ〇ボールの金の当たりを全力で当てに行くほど仲が良い。

 

 そしてようやく今日のラーメン屋に到着する。


「あ、ここか。雑誌かなんかで見たことある」


 塩田が言う。


「ここのとんこつラーメンが美味いらしいんだよ」


 佐東が答える。 


「おい、俺らは味噌ラーメン愛好会じゃないのかよ」


 思わず俺が突っ込んでしまう。軽く笑いが起こる。


「その通りだよ。味噌ラーメンが売りの店をピックアップしとけよ」

  

 鈴木も笑いながら答える。





「とんこつラーメンの大盛りが4つですね。少々お待ちください」


 無事に全員とんこつラーメンを注文しました。

 そしてワイワイと盛り上がりながら、ラーメンを食べた。



「とんこつ美味しかったな」


「めっちゃ美味かった。こってり具合が素晴らしかった」


「あそこはまた行きてぇな」


 それぞれ感想を言い合う。ちなみにラーメンを食べた後は塩田の家でゲームをするのが恒例となっている。塩田と鈴木は、一人暮らしなのだ。

 コンビニでお菓子を買い、塩田の家へ向かう。そしてゲームを始める。深夜までゲームは続いた。


「そろそろ帰るか」


 深夜の1時を回った頃にお開きとなった。


「佐東、安全運転で行けよ」


「任せろ」


 佐東がグッと親指を立てて答える。なんだかんだ皆良い奴なのだ。


「あ、佐東、俺は今日集まったモールで降ろしてもらえれば良いや」


「あそこ?なんで?」


「家庭の事情ってやつ」


「おっけ、了解」


 佐東はそれ以上は詮索してこない。俺が母子家庭であるのを知っているからだろうか、深追いはしてこない。良い奴である。


「あぁ、彼女欲しいよ」


 車の中で鈴木がぼやく。


「ナンパしろナンパ」


 俺は適当に答える。


「おい岳、お前は顔もそれなりだし性格もイケメンだからそんなこと言えるけどな、俺はマジで彼女が欲しいんだぞ」


 鈴木がジロリとこちらをにらみ答える。


「何言ってんだよ。お前一か月前まで彼女いただろ」


 俺も即答で突っ込む。

 俺なんて彼女いたことなんて中学一年の時だけだぞ。しかも別れたというか自然消滅で別れちゃったし。


 そんな会話をしながら、ようやくモールに着いた。


「んじゃな。気を付けてな」


「おう、お前らもな」


 挨拶を済まし、車を降りる。そしてマンションへ向かう。おそらく母さんも佑司さんも、もうとっくに寝ているだろう。


 マンションへ着く。階段を登って行く。


(あれ、5階だっけか)


 このマンションに来るときは母や佑司さんと一緒だったから、後ろを着いていくだけだったが、どうやら間違えてしまったらしい。6階まで来てしまった。


 これは恥ずかしい。


 俺は再び階段を下りる。あ、そうだそうだ。5階だ。思いだした。



 その時、下の方の階段から誰かが登ってくる音が聞こえた。


(深夜1時だけど、まぁマンションだから普通か)


 5階へ着く。部屋へ向かおうとした時、下の方の階段から誰かが5階へ来た。俺はちょっと怖かったけど、チラッと振り返る。


 そして別の意味で驚いた。金髪なのか茶髪なのかよく分からないがサラサラしてそうな長い髪、可愛い顔立ち、派手な服、ホットパンツ。



 奈々ちゃんでした。バッタリ会っちゃいました。



読んで下さりありがとうございます!今回は長くなってしまい申し訳ないです...

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