馴れ初めの食事
佑司さんと1人の女の子が部屋に入ってきた。
その女の子は細身でスラッとしていた。女子の中では少しは背が高い方ではないだろうか。実際に母よりはちょっとだけ背が高そうだ。そしてサラサラの長い髪が特徴だった。金髪なのか茶髪なのかよう分からん髪色である。
か、かわいい。普通にかわいい。てかホットパンツって、10月とはいえ寒くないんかい。
「瞳さん、岳くん、紹介するよ。娘の奈々です」
「奈々ちゃん、初めまして。よろしくね。朝倉瞳です。話は聞いてるだろうけど、今度佑司さんと結婚することになってるわ。気軽に話しかけてちょーだいね」
母が愛想よく笑顔で言う。
「こっちはうちの息子で、大学生」
母が俺の方をチラッと見る。同時に奈々ちゃんがジロっと俺の方を見てくる。
「朝倉岳です。よ、よろしくお願いします」
緊張気味に挨拶する。
この子ちょっと睨んでくるし、見た目派手だし、少し怖い気がする。
「...島津奈々です」
女の子がそっぽを見ながら小声で言う。佑司さんが何か言いたげな表情をしている。
そんな少し気まずい雰囲気を打ち破るように、母が元気よく言った。
「さぁ、ちょうど料理が届いたんだし、ご飯にしましょう!」
そうだよ。まずは寿司でも食いねえ。
「あんたまだエビ食べれないの?もう二十歳超えたんだからいい加減好き嫌い無くしなさいよ」
母が俺に言う。俺はなぜかエビだけは無理なのだ。なぜかと言うと、体がそのまま残ってる感じが嫌なのだ。エビは身だけでも動きだしそうな感じがある。いや動かないけどね。じゃあ焼き魚は?と聞かれると、焼き魚は「料理」として認識しているから普通に食べれるのだ。俺自身、基準はよく分かってはない。
「なんか動き出しそうじゃん」
「は?」
「いや、エビはいい」
無理なもんは無理。無理したらあかん。
俺と母の会話を中心に和気あいあいとした食事が進む。いや、そうでもない。奈々ちゃん、一言も喋ってません。ずっとおしぼり触ってます。佑司さん、悲しそうな顔がちょっと見えてますよ。それじゃ安心できません。
「奈々ちゃんも何か食べようよー。ほら、何食べたい?」
母がしびれを切らしたのか奈々ちゃんに話しかける。こうゆう時の母は手ごわい。歴戦の腕前なのか、母は会話運びがとても上手だ。いつの間にか母のペースに、なんてことが今までにたくさんあった。
「...」
奈々ちゃんはちょっと不貞腐れた表情をしている。明らかに虫の居所は良くない。母の事をチラッと見たかと思えば、また俯き加減にテーブルに置いてあったおしぼりを手でいじり始める。
イエス、イッツガン無視。
母よ、落ち着くのだ、怒っていないかと思い母をチラッと見ると、母は対照的にニコニコしている。あ、この顔は本当に怒ってない。
「奈々ちゃん細いんだから、何か食べようよ。ほら、私がよそってあげるから、どれが良い?」
母が笑顔で楽しそうに言う。この母さんなら少しはイラッと来てそうだが、本当にそんな様子もない。逆に少し嬉しそうである。
奈々ちゃんは眉をしかめた。ジロッと母さんを見ると、仕方ないという風に寿司の方へ目を向けた。
「...じゃあこれ」
ようやく奈々ちゃんが指をさす。
選ばれたのは、かっぱ巻きでした。
(か、かっぱ巻き...)
何も喋らねぇと思ってて、やっと寿司を食べるかと思えばまさかのかっぱ巻き。
「んふっ」
俺はそのギャップというかシュールさに思わず吹き出してしまった。
母が笑顔のまま俺の顔を見る。その笑顔からはしっかりと明確な怒りを感じることができた。奈々ちゃんも訝しげに俺を見る。
「うぉっほん!」
俺は大げさに咳き込むことにする。そう、寿司があまりにも美味しすぎてガツガツと行き過ぎてしまっただけなのだ。
奈々ちゃんもそれを皮切りに徐々に寿司に手を出し始めた。
これからこの4人で過ごして行くことになるのかな。雰囲気も悪くはないし、少し楽しみではある。
良い雰囲気で食事も終盤に差し掛かった。だがその時に事件は起きてしまったのだ。
エビはとても美味しいです。