上等
※この回の登場人物は主人公のみです。
(晩御飯いらない、と言われてもねぇ)
誰もいない島津家の部屋に入り、俺は一人リビングのテーブルに座っていた。ちょっとかっこつけたいだけだよ。
さっきアイツからメールが来た。ただ一言、「いらない」
(それでもやっぱり、一回話そう)
アイツほど反抗的に、行動的にはなれなかったが、誰か話を聞いてくれる人のありがたさ、見てくれる人がいることのありがたさくらいなら俺は知っている。まぁ言っちまえば愚痴の聞き相手が必要ってことだ。思春期の高校生なんて、特にそうだ。
俺の場合はまぁそれなりに気心知れた友達がいたり、後は母親の性格のおかげもあって無事平穏な学生時代を送れたわけだ。
(そして話をする際に必要になるのが、美味しい料理となるわけだ)
これは勝手な俺の持論だが、会話をする際の食事というものは、会話を助長させてくれるものだと思う。食事といえば口を使う。会話でも口を使う。話す側としては必要以上なことを話してしまったり、思わぬことを口にしてしまう場合があるのだ。そう、口が忙しいのだからね。
まぁそうだと言っても俺は美味しい料理を作れるわけでもない。レパートリーは限られている。それでも今の時代、ネットを見れば基本的な料理なら、色んな作り方が分かるからね。
「このゲーム、この俺様も参加しようではないか」
単純明快な話、つまり今日は晩御飯は外で済ませてくる、という話だ。帰りの時間はいつになるか分からないが、きっと遅くなる。まぁ多分日付が変わる前後あたりだろうけども。てかその時間で帰って来て欲しい。
(でも、今日はあえて晩御飯を作って待って居ようではないか)
おそらく、俺があの子に「一緒に晩御飯食べよう、話でもしよう」と言っても、はぐらかされたり、挙句には断られたりする。また、事前に「ご飯を食べよう」と言っておくと、心の準備をされていたりして俺が聞きたい本音を聞けない可能性もある。
(あえて何も言わずに待ち、深夜遅くに帰って来た所に「晩御飯食べよう」と言い無理やり座らせる。
最初から俺のペースにしてしまうのだ)
思わずニヤアァッと笑ってしまう。
というわけで晩御飯の準備をしてしまおうではないか。時間ならたっぷりある。
メニューはもう既に決めていた。今日は湯豆腐にしようと思う。作り方は簡単だし、今までにも作った事はある。味の保証ができるかつ慣れているものをチョイスした。
まぁ母さんと佑司さんの料理に負けるけどな。
「クソガキの反抗期なんて上等なのだよ。俺もクソガキの血は流れてんだyo!!」
威勢よく俺は立ち上がり、威風堂々とキッチンへ向かう。迷うことなく、そして熱くかつ冷静に、冷蔵庫をスッと開ける。やべぇ力がみなぎって来た。そして俺はあることに気付く。
「食材足りねえや」
ジャンル分けめっちゃ迷ったわ。