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仕方ないことですよ


「ELT?」


「いえーす。ELT」


「あー!LTE?」


「ノンノン!E・L・T」


「E・L・T...おー!ELT!?」


「いえーす!ELT!」


「「しーんじあえーるよーろこーびもー」」


 以上、鈴木と塩田の会話である。


「君ら大丈夫?頭が」


 とりあえずツッコミを入れておく。今は大学の講義と講義の間の休憩時間である。俺のツッコミを無視して鈴木と塩田の会話は続く。


「音楽は文化だよ。そう思わんかね?」


「あぁ。その通りさ。人生は芸術、音楽は花、景色は感情なのさ」


「ごめん、本当に意味わかんない」


 とりあえずこいつらは放置でいいや。


「なぁ、ここのラーメン屋知ってる?」


 机に伏せながら地元のラーメン屋の情報誌を読んでいた佐東が顔を上げて聞いてきた。


「どれどれ」


 佐東が開いていたページを見る。


「近いじゃん。姉川通りにこんな店あったんだな」


「今度行ってみよう」


 俺達はラーメンが大好きなのだ。むしろ俺達4人の共通している所なんてラーメン大好きな所以外は存在しないのではないだろうか。




 夕方になり講義を終え、佐東たちとも別れて帰路についた。のんびりと歩いて帰りながらマンションの近くまで来た時、ふとポッケに入れていたケータイを見ると、佑司さんから着信が3件も来ていた。


(どうしたんだろう)


 電話を折り返そうとも思ったが、もうマンションの近くまで来ていたのでとおりあえず家に帰ることにした。まぁ佑司さんが外にいるのなら電話するしかないが。

 早歩きで急いで帰った。


「ただいま」


部屋まで到着し、家の扉を開ける。物音が聞こえるので佑司さんがいるのだろう。今日は家でゆっくりしている、と言っていたし。


「あ!岳くん!良かった。会えたか!」


 リビングに入ると佑司さんがスーツ姿で慌ただしく動き回っていた。


「どうしたんd」


「すまない!夕方に急に出社するように頼まれてしまって。家に帰れそうにも無いからもう出張の準備もしてから来て欲しいって言われて」


 せっせと忙しそうにテーブルに置いているスーツケースに荷物を詰め込んでいる。昨日から少し準備をしていたらしいので、もうスーツケースには大量の荷物が詰め込まれている。


「まじすか。もう今日行かないとダメなんですか?」


「あぁ、何度も渋ったんだけど、出張先で問題があったみたいでね。本社の方もものすごい状況になっているらしいんだ」


 大変だな。休日の最後なのに。こんなこともあるのか...


「奈々と岳くんにも何回か電話したんだけど、二人とも出なくてね。学校だから電話に出るのは難しいって分かってるんだけども」


「あ、そうだったんですか。すいません、気付かなくて」


「いやいや!悪いのは全部僕なんだ」


 あの着信はこの事だったのか。


「岳くんが帰って来てくれて良かった。多分奈々もそろそろ帰って来ると思うんだけど」


「何時に家出ますか?」


「ギリギリ粘ったとしても18時過ぎには出ないと間に合わない」


 あと30分くらいか。お願い奈々ちゃん今日は普通に帰って来て。


「はぁ~。また嫌われちゃうなぁ」


 佑司さんが自嘲気味に苦笑いを浮かべる。


「そんな、佑司さんのせいじゃないですし、仕方ないことですよ」


 佑司さんが自分を責める義理なんぞ無い。仕事はそういうものだと割り切るしかないし、送り出す側は気丈に振る舞うのだ。


「仕事、しっかり頑張ってきてください。あの子の事は俺に任せてください」


「ありがとう。何と言えば良いのか...」


 もともとこの時のために俺と母さんはこの家にやってきたのだ。


「帰って来れるのって12月の何日くらいでしたっけ」


「えぇーと」


 佑司さんがスーツのポケットに入れていた小さい手帳をパラパラと開く。


「10日だね。12月の10日」


「はい、分かりました」


 それからもポツポツと話をしながら、佑司さんは荷物をまとめている。俺もこれからどうしようかと考え始めた。急な都合により、俺とあの子と二人での生活は1日早く始まってしまう。今日の晩御飯はもう佑司さんが作ってくれていたらしいが、明日のご飯、そう、朝ごはんからどうしようか。

 もともと俺と母さんで暮らしていた時は、母さんがいない時はのらりくらりと適当にご飯は済ませていた。気が向いたら自分で作ったり、コンビニで軽く済ませたり、朝ごはんはめんどくさいから抜いたり、と適当に過ごしてきた。また、洗濯もちゃんとしないとな。

 一人暮らしならどうにでもなるが、奈々ちゃんがいるので適当にするわけにはいかない。俺がしっかりする事であの子もしっかりさせよう。


「前も話したけど、お金が足りなくなったり何か出費が必要になったら、瞳さんじゃなくて僕に連絡してね。すぐに振り込むから」


「あ、はい。ありがとうございます」



 18時が近づいてきた。あと10分を切った。佑司さんはそれから何度も奈々ちゃんに電話を掛けていたが、どうにも繋がらないらしい。

 その時、ガチャッと玄関の扉を開ける音が聞こえた。


(良かった!帰って来たか!)


 そして、不機嫌そうな表情で奈々ちゃんがリビングへと入って来た。





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