選択
※今回は主人公の視点ではありません。別の登場人物の視点でのお話です。お気を付け下さい。
つまらない。
空は10月だというのに澄んで綺麗に晴れ渡っている。そういえばまだ冬の予感を感じさせるような寒さには出会ってない気がする。言ってしまえばポカポカ日和だ。
それでもつまらない。
愛用している黒のカーディガンのポッケに手を入れ、俯き加減に学校への道を歩いて行く。
(今日も休んでやろうかな)
ふとそんなことを思った。もう全てを放り出してしまう、そんな選択もある。もう高校2年生も終わりが見えた。同じクラスの頭が良い人なんかは、担任と一緒に進路について真剣に話し合っている姿も時々見える。
(サボるとめんどくさいし今日は行こう)
本当は分かってる。もうこれ以上学校を休んでしまうと進路に影響が出てしまうから、本当は学校をサボる気も無い。怖くてサボれないのだ。
つまらない、と感じてしまうのも私のせい。私が周りからの手を全て遮断してきたからだ。選択肢はいくらでもあり、選択する事はいくらでも出来たはずだ。
(進路、どうすれば良いんだろう)
これからは進路の事も考え始めなくてはならない。進学するか、それとも就職するかさえも決まってない。
日常の変化と言えば、新しい家族が出来た。父親は相変わらず出張ばっかで、私の事なんて見向きもしない。顔を会わせれば「ちゃんと学校へ行ってるのか」「髪色を戻しなさい」と、注意ばっかしてくる。
「私」の事なんて、見てすらいない。ただレールに敷かれた規則正しい生活を送ることを望んでいるだけなのだ。そうに決まっている。
だから私はそれに逆らう選択をしたのだ。髪も染めて、学校も時々サボったし、チャラチャラした人達と遊ぶようにもなった。
新しい家族とは、まだまともに話してはいないが、このままじゃいずれ私を敬遠し始めるだろう。まず、父親の再婚相手に至っては出張で仕事に行ってしまったようだ。
(でも、なんか眩しい人だったなぁ)
私とは大違いで、愛想も良くてエネルギーに満ち溢れた人だった。初めて会って、一目見てそう思った。兄にあたる人も優しそうな人だった。確か大学2年生って言ってたような気がする。
朝も挨拶だけはしたけど、「大学生」という存在が新鮮で、羨ましくて、思わず見とれてしまった。私とは違って、ちゃんと楽しんでいるのだろう。
これからは私以外の3人で楽しく暮らして行けば良い。私なんかは放っておいて。
そんな事を思うけど、本当はそうなるのが怖い。とてつもない恐怖と寂しさを感じてしまう。
選択したのは私なのに。どうして寂しさなんて感じるのだろうか。
「あ、奈々じゃ~ん」
もうすぐ学校に着くという所で誰かに呼び止められた。振り返ると、私と同じ高校の制服を着た、見覚えのある女の子が二人いた。そしてその後ろに見覚えのある坊主の男子が一人いた。見覚えがあるというか友達だ。
「おはよう」
挨拶を返す。この子達とは高校に入ってから仲良くなった。とてもチャラチャラしている。顔の化粧は濃いし、耳のピアスが目立っている。私はピアスは何だか怖いので、耳に穴を開ける気はない。
「...おはよ」
最初に私に声を掛けてきた子は、のんびりしている子だ。髪が長いのが特徴。そして今挨拶をした子はサバサバした子だ。髪が肩につくかどうかの長さのショートの髪型が特徴だ。サバサバというか、私には冷たい。何も悪い事はしていないし、この子に迷惑を掛けてしまった事も絶対に無い。なぜこんなに敵意のある目で見られるのかは今も分からない。
「奈々ちゃん、おはよ~う!」
後ろにいた坊主の男子は、ただチャラい。坊主だが髪には剃り込みが入っており、眉毛も薄い。
「なー、涼太と合流したらさ、今日学校サボらね?」
「いいね~賛成~」
「あ、涼太来たよ」
歩き出した所で、また後ろから一人男子が来た。
「わりぃわりぃ遅れた」
「おうおせーぞ涼太!」
この涼太と呼ばれる男子は、おそらく高校で会った人で一番仲良い人だと思う。やっぱり見た目はチャラいけど、良い人なのだ。
「奈々もいんのか」
「おはよう、涼太くん」
高校に入ってからこの人達と遊ぶようになったのは、涼太が誘ってくれたおかげなのだ。
「なぁ、今日学校行かなくてよくね?遊び行こうぜ」
「行こう行こう~」
「んー良いけど。あ、奈々は?」
涼太が聞いてきた。
「私は今日は遠慮しておこうかな」
もうあまりサボる気にはなれないのだ。
「じゃあ俺もいいや」
「えっ、なんで」
「何でだよ涼太!」
「何で~」
「何でも良いだろ、今日は学校行くわ」
涼太も行かないようだ。私だけ遊びに行かないのは、ちょっと気まずくなるからありがたい。
「あーじゃあめんどくせえけど学校行くか」
「めんどい~」
結局学校へと歩き出した。クスッと私は笑ってしまう。見た目はこんなのだけど、基本良い人なのだ。
「奈々、今日は元気なくね?テンションひっくいぞ」
涼太から言われた。そんなブルーかな。一応いつも通りのつもりだけど。
「いつもこんなだよ。あ、でもちょっと眠いからかな」
涼太と談笑しながら学校へ入って行った。
そんな私を睨むように見つめるショートの髪の子の視線に、私は気づかなかった。




