美しいひと
彼女の美しさに惹かれてつい、
呼び止めてしまった
驚いたように僕を見た彼女
「どこかで会いました?」
月並みな言葉に
彼女は黙って首をふった
風に靡く黒い髪は優しい陽に当たると
茶色に煌めいて、懐かしい愛らしさ
僕は少年の日に戻ったような心地で
胸が高鳴った
どこから来たのか
どこへいくのか
僕は果たしてうまく
聞き出せたろうか
いつかテレビで見た
透明な湖のような
彼女の瞳を見つめると
それだけで舞い上がってしまって
僕だけ喋っていた
早口で、馬鹿に明るく
天気の話を
困ったような彼女の頬に
長い髪、はらはら撫でて
「ごめんなさい」
彼女は微笑みながら
頬を赤らめて涙を
浮かべていた
瞳の煌めきだったの
かもしれない
彼女を呼び止める声は
子どもの声で
僕は振りかえると
「ママ、パパは天国から
帰ってきたの?」
と、子どもは僕の方に
駆け寄ろうとして、彼女に
抱き上げられた
彼女は僕に
背を向けたまま行ってしまった
一歩、一歩強く踏みしめていく
彼女の背中と、僕を見つめる小さな瞳
彼女にとって僕は、悲しみを呼び起こした
通り魔だったのかもしれない