9.2人の父親
都築紫:このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。
皆川円:灯の接客担当。
荻田雅:灯の店長兼調理担当。
白石文人:水人の1人。文武両道で水人の学級委員を務める。
羽鳥満月:水人の1人。且つ色上羽鳥の一人娘。
藤原匠真:水人の1人。色上藤原の次男坊。
水人:文人、満月、匠真が在籍するクラスの通称。現在中学2年生。
色上:全部で4つの家柄があり、この街の全ての経済のトップの総称。
「あれ、一人さんも一緒だったんだ」
「やあ、円さん。今日は一緒の行動だったので。温嗣さんが灯に行く、って言うから。ついて来た」
店に入って来た2人の男。「カズト」と呼ばれた男はどう見ても若い。20代後半から30代前半って感じ。スラッとした身長、整った顔つき。――この顔……白石文人に似てるような……。
「フーッ。疲れた。一人く~ん、速すぎだよー」
「あはは、父様。一人さんを追いかける立場になってな~い?どっちが”ついて来てる”んだか」
「放っといてくれ」
――「”父様”!?」
驚く俺に、イスにドカッと座ったその男は向きを変え、言った。
「初めまして、羽鳥温嗣、満月の親父です。これからよろしく!」
「はあ……」
「あ、漢字は「温度」の「温」に「嗣」……こういう字!」
胸ポケットから使い込まれた茶色い手帳から紙を取り出し、「温嗣」と書きつけ、俺に見せる。――これで、「ただし」……。
「俺は、白石一人。文人の父です。漢数字で一人、二人、三人…の、一人。で、カズト」
「簡単でいいなー。説明も漢字自体も」
父親!文人の!似ている訳だ。顔のつくりから雰囲気まで。外見も中身もそっくりで。何か、分身って感じ。
――って、そっちじゃない!
俺は改めてやって来た2人の男を眺めた。両方とも、子供は同い年。……の割に年の差が結構ある。いや、羽鳥温嗣がじいさんみたいとかいう訳ではなくて――その温嗣は、名前がー、とむくれていたりするが――、もう1人。――白石一人。どう見ても中学生の息子がいるとは思えないほどの若さ。20代と言われても信用しそう……。
こんな感想に、慣れているのか、白石一人は話す。
「俺は昔から――特に成人してから――実年齢より若く見えるんだよね。独り身だと思われる時もあるし。――お陰で女房に狡いと愚痴られる時もある」
「あはははは。言いそうだな、お前の奥さんなら。本人も結構若く見られる方だろうに。というか、お前と比べる方が間違ってる。同い年なのに気の毒だよなあ。大体そしたら僕はどうなるんだ?6歳も違うんだぞ」
「もう、じいさんだよね」とは、一応娘の羽鳥満月の台詞。
「一人さん達が若すぎよぉ」
と言う円の台詞に、
「いやいや、理香さんがいる」匠真が返すと、
「「あれは、別格!」」
円と温嗣が同時。
「リカ?」
「俺の幼馴染で、俺より2コ下。娘が存在して、文人たちと同い年」
俺が独り言の様に呟くと一人が解説した。――まだ、下が存在するのか……。一体、何歳だ!?
「娘はテルちゃんと呼んでてねえ、私と同類」
「向こうの方がしっかりしてる」
「そうね」
「ちょっと、文人、円さん?切り返し早くない?」
「いや、だって、相手、テルだし」とは、匠真。
「お、やってるねえ、揃ってるねえ」
満月たちの会話を遮りながら、雅が現れた――奥で作業していたのだ――。
「雅さん、準備整ったみたいだね。じゃあ、始めましょうか」
温嗣の突然の一言。――は、始めるって何を!?何か、嫌な予感が……。
心中、慌ててる俺を、一人は背中を叩いて言った。
「行ってらっしゃい、紫君。頑張りな」
「え?」
「僕たちが、どうしてここに来たと思ってるの、紫君」
温嗣が笑顔で続ける。
――ま、まさか……。
「さあ、君の実力を見せてもらいましょうか。楽しみにしてますよー」
――ん?
温嗣は一人の後ろを追い駆けていた筈なのに、店の前で待っていた一人を追い越して先に入店した、というのが背景です。満月は父親に結構、絡むタイプですが、文人は父親を眺める立場にいます。お陰で影が薄い……。半分存在を忘れてました。