6、梧桐
都築紫:このお話の主人公。放浪し、灯に辿り着く。
皆川円:灯の接客担当。
荻田雅:灯の店長兼調理担当。
荻田司:雅の息子。
「梧桐って何だ?」
「梧桐は梧桐。ここの寮の名前、だよ?」
門の前で不思議がっていた俺に、円は、どうかした?って顔で見てくる。そして、やっと気付いたように、
「――ああ! つまり、ここはわが来樹の「寮」でね。あまり、金銭的に余裕の無い人たちが集まって共同生活をするの。介護の必要な独り暮らしのお年寄りや、未だ学生の人たちとか。何人かで住んでる場合もあるし、家族単位で暮らしている人もいます。家賃等がタダ同然だけど、その代わりボランティアに駆り出されます。働き盛りで、ここに暮らしている人なんて絶好の標的。若い人はお年寄りのお世話をするし、また逆も然り。仕事で住んでる人もいるけど。つまり住み込み。まあ、とにかくここにいると一人でいることは出来ません。面白い位に世話を焼かれます。義務であり権利ですね。そこだけ、覚悟しておいて」
円の一連の長台詞に唖然としながらも、俺は頭の中で整理しようとしていた。ええと、つまり……。
「つまり、君もここに住んで頂くって事。ようこそ、働き手!」
「……はあ?!」
司は――居たのだ――大げさに両手を広げ、俺の叫びを受け止めた。
「す、住むってどういう事だ!?何で俺がー」
「都築紫君。君は灯の従業員となった。当然、この街に居つくこととなる。――ということは、住居が必要。だろ?他に住む場所があればの話だけど、君は無いだろう?僕たちが提供してあげられる住まいはここって訳。――お解り?」
俺の叫びを今度は言葉で受け止めた司は俺に有無を言わせない調子で解説をした。――こういう性格なんだろうか?――そして、俺は当然何も言えなくなってしまった。全部その通りだ。
――もう、勝手にしろ!
「ここが、空室の1つだね。隣が円。その更に隣が俺だから、ここの方が良いでしょ――因みに親父は灯の上の住居に住んでます。俺はこっちに駆り出されてる」
「……はあ。」
今度は司の解説をよそに、あてがわれた部屋を眺めた。家電製品は無いから料理は出来ねえな。(台所と棚はある。)しかし……。
「何だ、この板?」
俗にいうワンルームの部屋に押入れ、その前に板が何枚も積み重ねられている。そのどれもが変な形に両端が欠けている。――いや、片方だけのもある?
「これはね」円が欠けた同士を合わせる。するとぴたりと端と端がくっつき、倍の長さになった。
「え……」
「よっと」
バキッと音を立てて、その合わせた真ん中をいきなり円が割った。――いや、「外した」だ。元の長さに戻った板に、更に別の板をはめる。すると今度は直角になった。
「解った?」
司が訊く。したり顔みたいな顔で笑われてもさっぱり解らない。
「これはね、家具だよ」
「――か……ぐ……?」漢字が出て来なかった。
「家具。組み合わせ次第では椅子、机、棚。更にはベッドにもなるスグレモノ。足りなかったり、交換して欲しかったら、先刻挨拶した歴木にいくと良い。他にも梧桐に関して用があったらそこに行きな」
「はあ……」くぬぎ。歴木。何と読むのか大真面目に考えた梧桐の受付。入口にあって、そこで簡単に入居の手続きをした。説明は司たちが引き受けるとか何とかやってて。見知らぬ年配の女性が「よろしくね」と言いながら頭を下げてきた。生返事をするだけで精一杯だったが。
「ここって色々な人が住むでしょう? だから、それぞれのスタイルに合わせて家具を作れるようになってるの。追加の家具とかは自費になるけど、この板だけはタダでね。これだけで生活している人もいる」
――なんともはや……。
言葉を無くした俺とは対照的な2人は。
「まあ、解んないことあったらまた言って。隣だし」
「いや、隣、私だから。司君」
「まあ、細かい事は良いじゃないか。それとも何か。君は紫君に親切にする気が無いのかい? 薄情者~」
「誰も、そうは言ってないじゃない。そっちこそ、私に総て押し付ける気ぃ? そっちこそ薄情者じゃない!」
「失礼な! 僕は紫君を無下にするつもりは毛頭ありません!」
「それはこっちの台詞よ!」
暫く睨み合ったあと、二人はこっちを向いて、言った。
「――という訳で紫君、いらっしゃ~い、梧桐へ!」
――へ?
俺は、また暫く茫然としていた。
梧桐の家具は以前、どこかで見たやつを少々アレンジして使いました。その「少々」分、無茶苦茶になってしまっています。相変わらず浅はかな志水です。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
次回からは色々な人たちを登場させたいと思います。肝心な「彼ら」がまだ1人しか出ていませんしねえ。