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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
43/57

43.かつての家族


「そう言えば、貼り紙がありましたけど、明日は休みなんですか」(あずさ)の質問に、「うん。朝の分のはあるけど」(みやび)がなんとかせしめた酒を飲みながら答える。


(ともしび)の休みは週一だが、曜日がバラバラなので、(あらかじ)め図書館その他のように、貼り紙で知らせるのである。


「雅さん、二日酔いしませんものね」(まどか)(ねた)むように(にら)みながら話に割り込んでくる。都合良く、酒の弱い円は出勤の必要が無い。「ふうん。じゃあ(ゆかり)は昼間は借りられますね」「うん、紫君はーー」雅が言いかけた時。ガタンと音がした。


「何だ、何の音だ!?」半分眠りかけていた(つかさ)が酔いが()めた様子で、辺りを見渡す。雅も円もそんな司には構わずある一点を凝視している。司もその方向を見て、納得し、別の驚きに叫んだ。「何だ! 紫どうした?」


「判らん。いきなり倒れた」雅がやっと口を開く。「おい、紫!」司がいくら紫を呼んでも揺すっても、紫はテーブルに突っ伏したまま反応しない。「ゆ……紫君!」雅も円も突然の事態にうろたえるばかり。と、その時だった。「ふ、ふふふ……あっはっはっはっは!あはははは……」うろたえる三人の後ろから見事な、場違いとも言える大爆笑が聞こえてきた。


三人が後ろを見て、唖然とした。梓が腹を抱えて大笑いしている。「あはは……ご、ごめん……すみません。いやー、紫に見せてやりたい。全く、こいつは……全然変わんない……あはは」



ひとしきり笑った後、やっと治まったらしい梓は、「いやいや」と手を顔の前で左右に振ると、「大丈夫、大丈夫。寝てるだけ」と、説明を始めた。「紫ね、アルコールが入ると途端に寝るの。昔ね、ふざけて、つい紫に酒を飲ませた先輩たちがいてね。まだ中学だった紫は生真面目に断っていたらしいんだけど、結局。押し切られて。そうしたらあっという間にバタンキュー。先輩たち慌てちゃって。結局(みどり)先生に知らせて、怒られて。先輩たちだって高校生だったしねー。で、でも。先生たちみんな実は笑ってた。お父さんに似ちゃったかあ……って」


「先生たち?」取り敢えず紫のことには落ち着いた雅たちだったが、今度は別のことで頭がこんがらがってしまう。「そう、碧先生も、苦笑してた」梓は気付かずに酔っ払った全開の笑顔で頷く。「遺伝なんだって。お父さんも(おんな)じで。性格、全然似てないのにって」


「あのさ……」司が言いにくそうに梓に向かって呼び掛ける。「碧先生って……どなた?」


「へ?」梓が目を丸くする。と思うと、真顔になって恐る恐る「紫のこと……」(つぶや)いた。「聞いてないの?」


司は他の二人と顔を見合せる。さすがに「先生」が、学校の教師などではないというのは判った。

「紫がお祖母(ばあ)さんに中学まで育てられたというのは聴いた。……それぐらい」代表して答えた雅の答えに、梓はフッと微笑む。「そっかあ……。紫、お祖母さんって言ってたんだ、碧先生のこと」


「つまり、碧先生という方がお祖母さんのこと?」

梓は急に真顔になって、口を開く。「少し不躾(ぶしつけ)な質問をしても?」

突然変わった梓の様子に、さすがの雅も目を見開く。


そこに懐かしい表情が二重写しになる。


ーーこれは、深刻な話になる。


雅だけに、と秘密の話を打ち明けた時の表情に、似ていた。


雅は一つ息を吐く。そして()えて微笑む。「何だい?」かつての「親友」がその表情をした時と同じように。


梓が意を決したかのように口を開く。


「……皆さんの家族について、教えて下さいますか?」

「家族?」


雅は思わず司と円の方を振り向く。彼が無理矢理家族にした者たち。


そして、再び梓の方に視線を戻す。「まあ……良いけど。僕は親とは合わなくて。中学卒業と同時に家を飛び出して、それっきり。だから僕の親は今生きているのか、死んでいるのか」


初耳だったようで、司が目を丸くする。「へー、親父、意外とヘビーだな」「意外とは何だ、意外とは。お前だって似たようなものじゃないか」酔っ払った調子で養父と言い合う司が、「俺はね、親を知らないの。12の時に記憶無くして。で、この親父に拾われて、かれこれ10年? で、円は……。おーい」


酔いが回っただろう円は、こんな会話の中で、睡魔と戦っている。


「あー、良いよ、良いよ。別に起こさなくても」「そう?」「うん」円の家族なら、梓はとっくに知っている。


「だめー」睡魔との戦いにどうしても勝ちたいらしい円が大げさに声を、手を張り上げる。その手を拳にして机を叩くと、前のめりになって、「私はー、生まれた時からお父さんがいなくて、知らなくて。だからー叔父さんがお父さん代わりでー。叔父さんっていうのは、こないだ来た叔母さんの旦那さんでー、すごく優しくてー、従弟(いとこ)とも姉弟(きょうだい)みたいでー、いや兄妹(きょうだい)かなー」

「円、円。話がよく解らなくなってるから」司が円の背中を(さす)りつつ宥めます。「でもねー、13歳の時、お母さんが死んじゃってねー、叔母さんに言われて全寮制の学校に入ったの。叔母さん優しかったのに、お母さんが死んじゃってから私のこと避けてるの。たまーに家にお邪魔すると、叔父さんは歓迎してくれるんだけど、叔母さん、はだめなの。何か叔父さんを取られるんじゃないかって。思われているみたいで。居づらくなってすぐ帰って。今はあんまり帰んない。叔母さん私のこと嫌いだったのかなー。お母さんとは仲が良かったのに。やっぱりお荷物だよねー」


そこまで一気に喋った円は、一気に沈んでいった。「うんうん。ありがとうねー、話してくれてさあ。ごめんねー、ありがとうねー」

今度は完全に熟睡した円の背中を梓は擦りながら、(いたわ)るように話している。それは今日初めて会った相手としてではなく、子供の頃の親友の表情にいつの間にか戻っていた。


「知らなくてごめんねー」

しかし、みんなアルコール強い……。しっかり食べていたんだな、本当に。

円も頑張ったのに、紫の話にいく前に寝てしまいました。作者も頑張らなければならないなあ……。

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