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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
42/57

42.五人の宴会



「どうも、どうも。いやー、今日はありがとうございます」

テーブルにドカッと座り、ペコペコ、酒の入ったグラスを持ち上げながら、周囲の人間たちに会釈する。「いえいえ。こちらこそ、私共のためにお待ち頂きまして……」対する人間も妙に(かしこ)まった口調で応対している。


「どっかの政治家みたいだぞ……」(ゆかり)はそんな光景を見ながら呟くが、目の前の酔っ払いたちは誰も気に留めない。


「ったく、俺の部屋で……」

「お前、こーんな良い部屋に住んでいるんだな。なーにも無くて」と、紫がぼやくと、政治家まがいのーー(あずさ)がバシバシ、背中を叩いてくる。


「本当に、来てくれてありがとうね」痛さもあって顔をしかめる紫とは対照的に、(まどか)がほろ酔い気味の赤い顔で、梓にもう何度目か判らない挨拶を繰り返す。「なーんも。むしろさー、こーんな急でお邪魔じゃなーい?」

「いやいや、もう自分の部屋だと思って(くつろ)いでくれたまえ」


酒に強いらしく、しこたま飲んでいるのに、見た目は全然変わっていない(つかさ)が、「さあ」とばかりに、両手を思い切り広げる。更には梓の肩を組み、グラスを持つ右手を高く上げる。

見た目は普通でも、どっかの迷惑な酔っ払いと変わらない司だが、梓は気にしない。どころかむしろノリノリで、遂には梓も肩を組み、二人で左右に揺れつつ、歌まで歌い出す始末。

円までもが、その歌に合いの手を入れているのを見ながら、紫は深いため息をついた。「だから、ここはあくまでも、俺の部屋だ……」


「楽しそうだねえ、で、そこの酔っ払いさん達、未だ食べられる?」

「「「食べるーー」」」

「だから、どこから出て来るんだ、その食い物は」


(みやび)が持っているお盆に結構入っているおつまみを見て、紫は眉をひそめる。夕食と同時に飲み始めて、一通りおつまみも持って来ていた筈なのに(それらは、五人の腹の中にとうに収まっている)、「じゃあまた持って来る」とあっさり言って、本当に持って来た。先程のは自分で作ったものが中心だったが、市販のものもあった。今回は市販の方が多い。


「え、自宅から。僕、店の二階に住んでいるから。そこから」

「そういうこと、訊いてんじゃねえよ」雅が(昔は司も)、そこに住んでいることは紫も知っている。それにしても、店と往復出来るあたり、雅もそこそこ酒が強いらしい。と紫は頭の片隅で思った。

「何で、菓子を買ってあるんだ!? 今日、決まったんだぞ」


紫が指摘すると、雅が「まあ、今日来たんだしねえ」と涼しい表情。紫は脱力し、「いや、だから……」


そう。梓が(ともしび)に現れたのが今日。つまり、血液型の話から始まって、紫の祖母の話、そしてほんの少しの昔話。そして梓が来店し……。驚かれるだろうけど、その全てが今日一日の出来事なのである。いや、全く長ーい一日。



「そんなもん、いつ用意したわけ?」あれからは、(ちゃんと注文していった)梓を皮切りに普通に仕事していた筈である。梓には、閉店後再び来店するように言っていた。


「ん? ああほら、歓迎会兼誕生会の時。あの時有耶無耶(うやむや)になっちゃったから。残っちゃっていたんだよね」

雅のさらっとした言い方に、思わず紫は口に運んだ飲み物を寸前で止めてしまう。

「いや、大丈夫だよ。だから用意したの、酒だけじゃないから」雅が目敏(めざと)く気付いて、しかし見当外れのことを言う。「ジュース位売るほどあるから」


「……」


紫は、少々ふて腐れつつ、早速手を伸ばしたおつまみを暫く睨んだ後、口に入れる。


「よーう、紫。飲んでるかい!」司が紫に抱きついて来た。「重い!」「しかし、まさか、酒が飲めないとはなあ。あの日やっても変わんなかったなあ!」


「賞味期限は切れてないから大丈夫」そう言って雅は自分もおつまみを食べ始める。「司、酒はどれ位?」「もうほとんど無いわ」「おい! ()だ入っているじゃないか。……まあ良いや。 僕もジュース飲むかな。紫君、オレンジ取って」「……はい」「紫、俺はリンゴ!」「私は柚」「知らん!」「司君、ここ、ここ。……柚は無いなあ」「あ、レモンだった」「どっちにしても無いわよ」「なーんだー」


ーーそれって、つまり俺が寝込んだからだよな……。



何と言うべきなのか。もはや突っ込むべきなのかも紫はよく判らなかった。唯一判るのは、誰もそんなこと気にしていないということだった。


ーー全く。

ため息を()きつつ、お菓子を食べる。考えればーー考えなくてもーー大の大人が集まって夕食を食べるのに、アルコールが一切出ない訳も無かった。紫自身は全く飲まないので、そういう考えが及ばなかったのだ。飲んでも良かったのに、と紫は思うが、主役の一人が倒れれば無理もないだろう。考えてみれば、今日だって真っ先に酒を勧められた。頑なに辞退し、梓が爆笑したため、諦めていたが、代わりに「まぁ、どうぞどうぞ」と妙なテンションでジュースを注がれた。きっとあの日もあんな調子で勧められたのだろう。もっともあの日は代わりに食事を勧められた。一応病人(?)ではあったが、遠慮だけはさせないというレベルだった。


「おい、俺にも飲み物何かくれ」「ほーい」目の前で馬鹿騒ぎを繰り広げる奴らに結局何も言う気はせず、呆れながらも自分も加わることにする。司が自分のコップについでいた飲み物を適当に渡して来る。「どうも」


そこで紫の記憶は途切れた。

いやー、本当長い! たった一日なのか!と自分でも驚きました。それでも本当は短くしたんです。仕事の間の休憩時間だということを忘れてました。間が開き過ぎなんです。

次回は紫君の話の予定です。彼自身は一言も話しませんが……。

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