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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
39/57

39.血液型の分類

 (ゆかり)は黙々とテーブルを拭いていた。


――(つかさ)が、「身元不明」とはな……。


 まるで昔、思ったことが形となって現れた。そんな感じだった。俺は「違う」、そう言われた。だが、そうだとしても、何も変わらない。

 とりわけ、今となっては。


「紫、お主、A型か?」不意に声が降ってきた。

「――あ?」顔を上げると、「あれ、何か考え事してた?」

「悪いか?」――お前の事だ!

 憮然として答えると、

「いや、悪い悪い。お前って血液型A?」司がちっとも悪びれない様子で、そう訊いてくる。もう、諦めた。

「O型だが?」

「へえ!」その反応に、紫が怪訝そうな顔を向けると、

「いや…お前、えらい綺麗にテーブル拭いてるからよ。俺はそうはいかんわーって。思わず?」そう言って、紫が拭く、確かに綺麗なテーブルを指差す。紫はそれには答えず、

「つまり、お前はBか? Oか?」

「ん~、両方?」司は自分の質問が無視されたことについて、気にしていない様子で、楽しそうに答える。

――そして、それに慣れていく自分が悲しくなる。「つまりBか……」


「何、何、何の話~?」と、そこへ、(みやび)の声。(まどか)と共に姿を見せる。朝と昼の忙しい時間帯の合間にあたる今は、店自体は一応開けてあるのだが、今日のように誰もいないこともあり、紫たち従業員にとっては、一時の休息タイムとなっている。そのため、各々(おのおの)(一応いつでも働ける状態で)自由な時を過ごす。また、この時間帯を狙い、話し目的で現れる常連客も居たりする。

「因みに、親父はBで、円はOね」司が紫に注釈を入れる。

「へー」円は知ってたけど…。「この店BとOしか居ないのか…」

「ん? 血液型の話?」雅が察しよく訊く。「そうそう、紫、O型だってさー。テーブル、あんまり綺麗に拭くからよ、Aかと思ったらさ」「えー、そうなんだ。私なんか、むしろ自分の血液型がAだと思ってたなぁ。Oだと知った時は、本当びっくりしたんだよねえ」

 ――ああ、そうだった……。円がO型だと知った時、紫もいたのだ。円は覚えていないだろうが。

「円がAだったとしてもびっくりだけどな」司がからかうと、円は「もー。でもお母さんはA型だったけど、私より天然だったもん」と怒るポーズを見せる。「へー?」と、こちらもポーズだろうが、司は疑惑の目を円に向けると、円は。「ほんとよ。そもそも私がAだと思い込んだのもお母さんが勘違いしたからだもん。それにも気付かずに、ずっと「円の血液型は、奇跡の血液型だ」って言い続けていたんだから。それだけで充分天然。A型なんてザラなのに」「ま、日本人の一番多い血液型って言われてるからな、A型は。何回も聞いたけど、不思議な言動の多い人だな、本当」

「ま、言ってしまえば血液型なんてただの四つの分類だからな。性格もその目安だし、それに偏ることもない」と、雅が笑いをかみ殺した様子で、きれいにまとめた。


「ところで紫は、別に今まで飲食店とかに勤めていたわけじゃあ、ないんだろ?」

 雅が不意にそんなことを言う。以前、紫はそう言っていたのを聞いたような気がした。雅の記憶違いではなかったらしく、紫は「ああ」と、それが? という顔を向ける。

「その割には――綺麗だねえ、テーブル」

 どうやら、話はまだ終わっていないようだった。


「つまり、それは仕事で身に付いたわけじゃない、と」

 雅の一言に、紫は一層表情を渋くする。

 確かに、彼の今までの仕事場というのは、工場という、およそそういうことにはあまり重点をおかれない(というと、語弊があるかもしれないが)職場であった。「家だよ」

「は?」紫がボソッと呟いた声が聞き取れずに、雅が訊きかえすと、紫は溜息をつきながら、「だから、家……。ばーちゃんの家だよ」

「お祖母さん?」三人を代表して尋ねたのは、円だ。

「……俺、昔、その家に住んでてよ。それが……」

 一瞬、言い淀んだと思うと、突然。「すーげー、厳しいばあさんだったんだ!」

 無愛想か、悟ったような表情が多い紫が突然叫んだものだから、びっくりして誰も口を挟めない。

「もう、マジで? ほんっっとに厳しくて、礼儀とかマナーとか、人間相手もだったけど、それよりもモノ相手は本気で。年寄りらしく頑固で融通きかなくて。それだから、他の奴等から結構嫌われててよ。俺、ほとんどそのばーちゃんに育てられたような者で。いくら嫌われ者でよ。だから、もう血液型と関係なしにこうなるしか無かったんだ、よ! 悪いか!」

 その人の(もと)を去った今でも、心に何かしらあるらしい彼の言葉に、やっと口を挟んだのは雅だった。

「……良い、お祖母さんじゃない」「どこが!」

 即座に否定してくる紫に、「そんなに(とが)んなくても」と、苦笑する雅の横で、円は、「そんなに厳しかったの?」と、素朴な疑問を口にする。紫はやっと少々落ち着いた様子で、「まあな…」と曖昧に相槌を打つ。

「妥協を許さないって感じ? 慕う奴もいたけど、俺は無理だった。――最後まで」


 紫は、ここで言葉を切り、自分を見る三人の顔を眺め、躊躇う素振りを見せたが、やがてたった一言呟いた。


「だから、調理の仕事に就きたくなかったんだ」

今回、血液型の話を書いてみましたが、やっぱり、紫はA型にした方が良かったんじゃないかな、ってくらい、彼は几帳面です。他の三人には後悔はしないけど。

というか、真面目なんですよね、紫は。というか、他がマイペースすぎ?

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