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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
33/57

33.引っ掛かった事

 荻田雅(おぎたみやび):少年を保護した通りすがりの男性。

 荻田司(おぎたつかさ):ずぶ濡れになって倒れ、記憶喪失になった正体不明の少年。


 羽鳥温嗣(はとりただし):少年の身元を探していた地元民の一人。

 


「……え?――みどりの家……?」

 雅の話の最中、今まで黙って耳を傾けていた(ゆかり)が、口を挟む。それも思わず口に出してしまった、そんな様子で。全員に不思議そうな顔をされた紫は、チラと司の顔を見た後、我に返った様子で、

「――え? あ、ああいや、大したことじゃない。何でもないから先を続けてくれ」と右手を上下に振り、促す様子を見せた。

 今のどこに引っ掛かるんだろう? 隠してる理由がばれたとは違う気もするけど……。尚も不思議だったがとりあえず雅は話を続けることにした。念のためこれまで以上に気を付けて……。



 気のせいだろうか。少年の様子がほんの少しおかしいような気がした。一瞬、そう感じた。

「初めまして。紅莱園(こうらいえん)の園長の城山(きやま)といいます。君の事情(こと)は聞いています。大変だったね、辛かったろう? でももう大丈夫。私たちに任せて、君は安心して私たちのところに来るといい」

 実はこの数日の間に、少年の奇特な身の上は周辺の孤児院にはもう知れ渡っていたらしく、――温嗣さんも知らなかった――こちらから連絡しなくても向こうから出向いてくれた、という訳で。

 そして、普通にこの二人の客人は孤児院の職員――一人は今説明があったように、園長先生自ら――だった……。

 雅が違和感を覚えたのはこの時だった。孤児院の院長自らが、微笑みを絶やさない、誰からも好感をもたれるだろう態度で、そう言った後、少年が一瞬表情を変えた。

 少なくとも雅にはそう見えた。言われて安心した――ではない。その逆。まるで、そう、それは、怯え。少年ははっきりと怯えたのだ――今の言葉によって?

 え? 何で? 今の言葉のどこに怯えるようなことがあったっていうんだ? 普通に――むしろ「普通」より良いくらいの――温かみのある言葉と態度。それのどこに?

 そんな雅の違和感をよそに、少年は孤児院の職員達の話を聞いていた。その態度が、表情が普段と変わらないので、錯覚だったかも知れないと思うほどだった。――とはいっても意識を取り戻した頃から、どこか焦点の定まらない、無表情で、言葉を話す時も意識は別の方にあったような、そんな感じだったから、はっきり言える訳でもなかったのだが。そして現在進行形でそんな様子を続け、視線は職員の方を向いているのに、きちんと話を理解しているかどうかは甚だ疑問であった。

――やっぱり「怯え」は、気のせいか。表情自体があんまり変わらない子だもんなあ。そう見えたのはむしろ、俺の勘がそう表に出て来た形なんだろうなあ。


――何だ、「俺の勘」って?


 よっぽど自分の方が解らんじゃないか――、そう思った時だった。扉が開いたのは。

「ちょっと、ちょっと。もう来てない? あ! やっぱり来てるー!」

「「奈津(なつ)さん!?」」雅と温嗣が目を丸くする中、突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に呆然とする職員二名と少年の(もと)に、――少年が表情を変えるのはこういう時。それでも僅かだが――隅田(すみだ)奈津が駆け寄る。

「どうしたんですか?」

「何なんですか、貴女は!?」

 雅と職員――城山院長の方ではない。もっと若い方――の質問にも答えず、奈津は職員二名を凝視する。まだ「凝視」は穏やかな方で、睨みつける、若い人ならガンを飛ばす、みたいな言い方の方が合っているような様子で。

 そしてゆっくりとこう言った。笑顔で。もともと美人な部類に入る女性だから、一層凄味が増している。

「勘違いしないでくださいよ」

「!?」

「な、奈津さん……」呟いたのは雅だ。奈津がその台詞を吐いた相手は、二人ともあまりの迫力に何も言えずにいる。

「私たちが、貴方方のお話を簡単に信じると思っているのだとしたら、それはあまりにも大変な誤解です。貴方方にこの子を渡す気は一切ありません」

「な……何を…?」やっと我に返ったらしい若い職員が、反論する様子を見せ始めるが、いかんせん奈津の迫力には敵わない。

「どうか、お引き取り下さい」静かに、だが相手に有無を言わせない口調で、奈津は最後の一言を言った。もうこれ以上言葉を発することすら嫌な様子だった。

「何を言っているんです?」城山院長が口を開いた。こちらもなかなかな凄味を含めて、だが、表面だけなら穏やかに見える口調で。

「何を申し上げているのか、私には解りかねます。(わたくし)どもは、こちらの少年を引き取りに来た、れっきとした孤児院の者です」

「そうですか」相槌を打ったのは温嗣だ。穏やかな笑顔で頷く温嗣だったが、雅は何やら違和感を覚えた。――と、その温嗣が雅の方を見た。――え?

「そうなんです」温嗣の相槌に気を良くした城山院長が語り出す。「大体我々が引き取らなかったら、この子はどうなるんです? こんなどこの子か解らないような子――引き取ってくれる所があるだけ有り難いと思わなくては」


「――だったら、私が引き取ります」

また、話が突然……終わった。どうしても、どうしても最後の一言だけ入れたかったから、やたら急展開になってしまった。補足は次回になってしまいます。

また、間が開いてしまったので、次がいつになるかちゃんと確定出来ませんが。今回の話は少なくとも9月中に描けて良かった…。

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