3:食い逃げ前
「くくく…。自己紹介してなかったのね、流石カッちゃん」
「いやあ、お腹空いていたから。どうにかする方が私にとっては優先だったもので」
――そっちかよ……。
開き直っているかのように、――事実そうだろう――笑顔で話す少女。俺をこの店に押し込んだのも同じ理由か?
その少女が同席している女性の方から俺に向き直し、
「黒瀬夏摘、「白黒」の「黒」、「浅瀬」の「瀬」で、「くろせ」。季節の「夏」に、「摘む」…「摘発」の「摘」ね。で、「かつみ」14歳。中学2年生。今試験中で、午前だけだから、ここにご飯食べに来たの」
と、言った……。
出会って1時間弱。やっと「俺」を訊きだす訳か。この間は、少しでも俺に心を開くように、とかいう意味の方が大きいんじゃねえの。そうでなきゃ、自己紹介今更過ぎるだろ。
――大体、コイツは知らねえだろ?
「あのさあ、教えてやるけどさ。俺、金持ってねえんだけど?食い逃げする奴が、自分の名、教える訳ねえだろ」
黒瀬夏摘は、無表情になった。女性の方は「あら、そうなの」と言っただけ――そら、そうだろ。無銭飲食なんて。
だが、俺の考えとは裏腹に、美少女は、再度微笑み、言った。
「する、は貴方の意思ではなく、結果的にそうなる、という意味なんじゃないの?事実、貴方は店先で、財布の中身を確かめ、引き返そうとした――。私が無理矢理、ここに押し込んだから、こうなったわけで、私が放っておいたら、貴方は食い逃げしなくても済んだ訳だもの。食い逃げする、という意思・目的をもっていなかった、ということでしょう?」
並べ立てられて何も言えなくなってしまった、俺の代わりに口を開いたのは女性の方だった。
「あー、成程。うん、大体解った。要するに、気付いててカッちゃん、入れたわけね。そして、「話」っていうのも、ソレね。要するにアレを使いたいって、訳?それで、同席させた訳ね」
――え?
「そうなの。とりあえず、円さんに、話を聴いてもらおうと思って。――どうかしら?」
「私は、賛成よ。雅さんと、ご本人にも確認を取らなくちゃね」
「ええ、そうなの。でも、良かったわ。――ところで、その雅さんは?」
「料理を少し仕上げておくって。もうそろそろこちらに、来ると思うけど」
何か、人を無視して話がどんどん進んでないか?
そう、思っていたら、今度は女性の方がこっちを向いた。そして、笑顔で話し始めた。てっきり、怒られるかと、思ったら、
「私、皆川円。「皆」に、三本の「川」で、「皆川」。で、図形の「円」で、「まどか」、一文字ね。ここの接客担当ね。――ところで、貴方も……灯で働く気、ある?」
とんでもない事を言い出した。――っていうか「ともしび」って何!?
まだ、出てこない、主役の名。いや、それよりもあと2人、早く出したいなあ。次回で2人出るか…?