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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
28/57

28.雅が発見した少年

 荻田雅(おぎたみやび):灯の店長。10年前、司を拾う。

 荻田司(おぎたつかさ):記憶を失い、現在も正体不明。

 


 羽鳥温嗣(はとりただし):この街のお偉方の1人。




 助けられたことは決して忘れまい。相手が忘れたとしても決して。

 その誓いをまるで――


 試されているような気がした。



 1日をかけて、降り続いた雨がようやく上がったある朝。荻田雅は海岸を散策していた。

 今、振り返るとそれは「放浪」に近いかも知れない。歩き続けている彼には、行き先どころか、これからどう生きるか。その展望すらまるで無かった。


 そんな彼の目の前に、それは現れた。


「?」


 何か黒い塊が、置いてある。「何だ?」と思って近付いてみると、それは、

 

 人だった。上下ともに黒い服を着た、幼い少年。まるで木材とかそういう――ゴミ関係の漂流物でも眺めるように、雅はその少年を観察していた。

 年齢は小学校高学年くらいから中学生くらいだろうか。少々白や他の色がプリントされてはいるが、全体的に真っ黒な服装。横に寝転がる形で倒れており、全体的にどう見てもびしょ濡れ――。


「え?」

 ようやくそこで頭が働いた。――それってまずいんじゃ……。


「人……誰か、人……」

 慌てて駆け出す。男の子がびしょ濡れで倒れてる。まさかそんな状況に立ち会うとは思ってもみなかったので、この場合どうしたらいいか判らない。

 一応駆け出す前に、声をかけてはみたが、時間の無駄だと即座に思ってしまうほど、応答は一切無かった。救急車を呼ぼうにも、この頃携帯電話なんて便利な物は持っていなかったし、公衆電話がどこにあるのか、探している余裕もない。ならば、人を探すのが早い。


――あれ? 前にもこんなことなかったか?



 不意に女性を見付けた。

「あの、すいませんが」

 そこで言葉が途切れた。大して走ってないのに、息切れしている。――俺も年だな。

 だが、今はそんな悠長なことを考えている場合ではない。

「どうかしましたか?」

 運が良かった。後から思い出してもそう思う。呼び止めても立ち止まらない人も多いというのに、その女性は雅の次の言葉をきちんと待ってくれていた。


「あのっ。む…向こうの方で少年がびしょ濡れで倒れていて。それで――」

 

 最後まで言う必要は無かった。

 女性は、必死で息を整えようとしている雅が何とか指さした、その方向に一目散に向かっていってくれた。逆に雅はまた走る羽目になったが。


 

「肺炎を起こしかけてましたね」

 その言葉にあまり衝撃を受けなかったのは、生きているかどうかさえ分からなかったからだ。

 まだ、生きていたのか――。そう思った。


 見た目にはけっこうなお年のはずなのに、体はまだまだお元気そうな、雅が捕まえた女性はびしょ濡れになった少年を見るなり、急いで電話をかけた。そんなに病院からその海岸までは離れてはいなかったらしく、その人が呼び出した車に乗って病院へと送り込んだのだった。

 雅がその人と立ち尽くしている間に少年はすぐに処置を受け、今一段落ついたところで担当医師となった初老の男性に説明を聴いているところだった。


「まあ、もう大丈夫だと思います。2、3日入院して頂くことになるかと思いますが。色々とその他もありますので――。でも、もう危機は脱しましたから、ご安心を」

 結崎(ゆいざき)と名乗った担当医師は、笑顔を浮かべながら説明した。


「後は、目覚めるだけですね。ところで――荻田さんでしたね。あの子はあなたの息子さんですか?」

「え?」

 一瞬質問の意味が解らなかったが、すぐに気づき、

「あ、ああ…いや。偶然見付けたもので――。あの子――地元の子じゃないんですか?」

 てっきり近所の子だとばかり思っていたのだ。だが、ここは比較的大きな病院で様々な科がある。ここを利用したことが無い子――つまり、何の検査も受けていないか、地元の子じゃないということになる。


「はい。今、隅田(すみだ)さんや、温嗣さんが探して下さっているんですが――どうも、この近辺の子供じゃないみたいで。旅行者かもしれないというわけで、今、ホテルなどの宿泊施設を当たっているところみたいです」

「ということは、今現在あの子がどこの誰なのか判らないということ……ですか?」

「はい。まだ見つけきれていないみたいですし、あの子の意識が戻る方が実質、速いかもしれませんね」

「……」


 確かに、自分が見付けた時点で1人だったし、周囲に大人もいなかった。まあ、意識を失い倒れた子供を傍観していたことにもなるので、いてもそれはそれで嫌だが。

 

 それにしても――放っておきすぎじゃないか? 

 だんだん雅は腹が立ってきていた。あの子を見付けてもうかなりの時間が経っている。その間、子供を探す親が居ないとは。子供がいなくなって不安じゃないのか? 子供の素性を知るのに、子供が目覚めるまで待つしかないとは。


 だが、それすら期待できないことに、まだ誰も予想をしていなかった。

雅視点で送る過去の回想編突入です。そんなに続かないと思いますので、しばしお付き合い下さい。10年前の色々な人たちを出すのが楽しみです。

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