表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の灯  作者: 志水燈季
過去
23/57

23.雅の性格。

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の従業員となる。

 荻田雅(おぎたみやび):灯の店長。

 荻田司(おぎたつかさ):雅の息子。

 皆川円(みながわまどか):灯の従業員。


 葛西湊(かさいみなと):突然現れた円の叔母。紫を知る。

 白石史音(しらいしあやね):雅たちと旧知の女性。




 たった一言であった。


「そう…ですか」


 人によっては、衝撃的なとでも言うべきか、そういう言葉を悠然と発し、笑みを浮かべる人間。受けた側はあまりにも予想をしていなかったのだろう。唖然とした顔で相手の顔を眺めている。



――全く、親父は。


 普段は、様々な音が入り乱れ騒がしい店内だが、今は総勢6人しかおらず、その内の2人が繰り広げる「会話」を残りの全員が注目していた。そして勿論、司もその1人ではあったが……。


 ハァ。


 内心溜息をつきながら、司は円を見る。円の方もこちらを見て、それだけで円も同じことを考えていることが判る。


――あの(・・)親父が、それで動じる訳がないんだよ。葛西湊さん。

 

 

 心の中で、いつもと変わらず微笑する雅を眺め、言葉を無くしている女性に呼びかける。


――そうじゃなきゃ、そんなリスクが大きい事をやってのけるはずはないだろ? 懐が人並み外れて広いんだ、あの父は。そういう性格なんだよ。そうじゃなきゃ、父は父ではなかった。ここに俺がいることも――いや、「灯」がここに築かれることもなかった。

 ま、ちょっと彼は特別かな?


 紫に視線を移すと、葛西湊程ではないが驚きを隠せない表情で雅を見ている紫がいる。司は、苦笑しながら雅たちに視線を戻す。


――だから、気にしない、って言ったはずだぜ、俺ら(・・)はな。ちゃんと判ってるって言ってたのに。



「分かって――知って…いたんですか?」

 湊はやっと我に返ったように口を開いた。その問いに、雅は一切表情を変えずに応じる。


「まさか。今初めて知りましたよ」

「初めて?」

「ええ」

「都築君も仰っていませんでしたし……特に面接でもそのようなことはお聞きしませんし」


 何か、もっともらしく言ってるけど、「そのようなこと」って……過去なんてどうでもいいだろ、あんた。どうせ、最初から雇うつもりだったんだろうが。


 内心、苦笑しながら司は突っ込む。雅の潔さは、彼を知る者なら誰でも知っている。細かい事なんか気にせず、それを押し通してしまう。脇を見れば円も史音も、紫までもが微妙な顔をしている。 


「その割には――随分と落ち着いていらっしゃいますわね。かつて、私が彼のことを告げた際、皆さんかなり動揺してらっしゃいましたのに」

 湊のその台詞に、雅は一瞬表情を曇らせたが、すぐに再び笑みを浮かべこう言った。


「決めたんです」

「?」

「彼を雇う際、そういうのも引き受けると。灯の従業員となるからには、彼はもう他人ではない。我々は、決して彼を生半可な気持ちで迎え入れた訳ではありません」


 強い目だった。揺るぎない、固い信念をもった時の目。


 こういう目を司はよく知っていた。自分の中で1番最初の雅の記憶。あの時も雅はこういう目をしていた。その頃のことはおぼろげにしか憶えてはいないが、その目は強烈な印象を自分に残した。揺るぎない決意を告げた雅は、見事な実行力でそれを実現してしまった。


「随分とお心が広いですのね、彼の素性もご存じないのに。もし、これから彼が何か問題を起こしたら、それは当然、お引き受けになった貴方にも責任が問われることにもなるのよ。普通は背負わないような、そんな重荷を背負いになって、あなたに何の得があると言うんですか?」


 うわ、すげえ。

 

 司は、もう少しで吹き出しそうになるところをかろうじて止める。史音を見ると、自分の記憶が不確かでないことを表情が証明している。


――全く同じことを言われてる。あの頃、部分部分で聞いたことを今、まとめて聞いた気分だ。



「ありますよ。お蔭で私は楽しいんですよ、都築君という存在を得て。料理の腕ももちろんですが――彼に代わりはいませんよ。面倒事を避けて、それで得たものに私は興味ありません。元よりそれは覚悟の上ですから」


――そして答えもそっくりだ。あの頃の親父と全く変わってない。後ろ盾がパワーアップして、余計強気になってる気がするくらいで。紫君もまた彼が守るべき存在なのだろうな。俺を守ってくれていたように。――いや、それ以上か。


 大体、何か問題があるってことぐらい最初に逢った時から勘づいてはいた。そして、親父は雇うことしか頭にないことも一目瞭然だった。それを止める気は俺には無かったし、むしろ親父が一目で惚れ込んだ青年がどういう奴か見極めたかった。それは円も同じだったようで2人で秘かに見守っていた。

 結果は予想以上だった。流石、人を見る目がある親父だ。水人(すいびと)達も賛同し、結果親父の意思に完全に沿うこととなった。


「で、でも、彼は人の命を奪ったのですよ。罪に問われることをしたのですよ。あなた方は犯罪者を匿うことになるんですよ」


「でも、彼は別に警察に追われているわけではないんでしょう? それで言ったら、私なんかもっとすごいですよ」

「え?」


 雅はより一層笑みを浮かべ、最後の切り札を出した。


「なにしろ私はいつ捕まってもおかしくない犯罪者――他人の子供を攫った誘拐犯なんですから」


 おいっ!そら、事実だけど……。



言葉遣いがいつも以上におかしいです。今回は司視点でお送りしていますが。そして湊さんの口調には多分におかしいところが混じっているような気もしますが、雰囲気で読んで下さい。

こちらではめでたく年が変わりましたが、彼らはまだ4月1日のままです。やっと灯の経歴が明かしていけると思いますが、次回はまだ入れないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ