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紫の灯  作者: 志水燈季
過去
22/57

22.前哨戦

 都築紫つづきゆかり:このお話の主人公。かつて放浪していたが、現在は(ともしび)で働く。

 皆川円みながわまどか:灯の従業員。

 荻田雅おぎたみやび:灯の店長兼調理担当。

 荻田司おぎたつかさ:雅の息子。

 白石史音しらいしあやね:雅たちと旧知の仲の女性。



――何だろう、これは。


 雅は目の前の女性を見ながら不思議なものを感じていた。


 初めて会う筈なのに、とても懐かしく。そして、とても待ちわびていた。自分の知りたい「答え」を与えてくれる人。ずっと探していた――。

 漠然と胸の中に湧き上がってくるものを、言葉に表すとそういう感じになるだろうか。


 それなのに、


 今すぐにでも追い払ってしまいたい。


 そうも感じてしまう。

 だが、その感情の原因がどれ1つとして掴めない。



「あなたがここの店長さん、と姪からお聞きしましたが?」

「ええ、そうですが」

 

 今すぐ追い出してしまいたいが、現実はそうもいかず、円の叔母というその女性の問いに何とか答える。


「ここは一体、何なのですか?」

「何、と仰いますと?」

「このお店、灯と言うそうですが、何のお店なのです?」

「そうですね……」雅は、落ち着くためにも店内を見渡す。運の良さだけでここで店を構えることが出来た。そして夢中で料理を作り続けてきた。

 それは、俺はこの場所で沢山の人に出会い、助けられてきたというのがもちろんある。そして、円や紫にも出会えた。心配そうな2人に向かって頷く。だから、自分は大丈夫だ。という意味をこめて。

 それまでの自分を顧みれば、信じられない程恵まれた日々。心の中で感謝しながら雅は女性に向き直る。


「まあ、家庭料理屋と称しておりまして、ジャンルは決まっていないんですよ。私が作れる料理とお客様のご要望が一致すれば、和食、洋食、中華……何でも良いんですよ。その日の食材によってメニューが変わったりもしますし。大体、日本人は主食がご飯の国だからか、何でも食べるじゃないですか。お客様のリクエストで、どんどん増えていってしまったんですよ」


 何と、勝手な言い分だろう、と自分でも苦笑したくなるが、それが事実だった。夢中で料理を作り続け、気が付いたらここまで来ていた。

 

「ここは、もう長いんですか?」

「いいえ。せいぜい――10年位でしょうか。ここに移り住みまして、すぐですから」


 女性は意外そうな顔を浮かべ、

「あら、ということはこちらのご出身ではない、と?」

「ええ。縁あってここへ。運が良かったのでしょうね」


 ええ、全く。

 と、雅は微笑みを浮かべながら心の中で呟く。


 10年。もう、それだけになるのか。司も連れて来たときは、まだ小学生か中学生かそこらだったのに。いまや専門学校卒業して、介護士にまでなっちゃって。水人(すいびと)達ももう、来年には高校生だもんな。父親について来てそこら辺をうろちょろしてたなあ。



 紫は、目の前で繰り広げられる雅とあの女の会話を心許なく聞いていた。何とかして頭に入れようとするのだが、うっかりすると目の前を素通りしていく。

 とにかく、意識を集中させなければ。ただ、それだけだった。


 今はまだ、とりとめのない会話が続いている。とはいっても紫にとっては初めて聞く話もあり、平常だったらそれに驚いているところであったろう。もっと長く雅たちはここで灯をやっていると思い込んでいたし、あの多種多様なメニュー構成も驚きとともにその理由に雅らしいと納得している。

 だが、今の紫にとっては会話の感想などより、いつ核心に話がいくのか――その方に気を取られていた。


 紫のことを知った時、雅がどんな反応を返すのか。


 そう考えるだけで、紫はこの場から逃げ出したかった。今まで自分に向けられていた笑顔が消える――。幾度となく経験してきたが、その恐ろしさは今回の比ではなかった。


 恐い――。


 雅に嫌われる。それがこんなにも恐ろしい。その理由を紫は知っていた。

 何てことはない。ただ、雅が好きだった。強引で、常識に当てはまらなくて。水人ばかりが強調されている気がするが、雅も充分普通ではない。仕事優先のようで、実は心底、常に人の心配をしている。物腰低くて、やんちゃな子供のようで。常にこんな俺に笑顔を向ける奴が。


 大好きだった。だからこそその笑顔が消えるのが怖かった。想像もつかない。大好きな人に嫌われる――かつて経験して、懲りた筈のそれを、避けた筈なのにまた俺は繰り返す。



「ところで――円さんの叔母さんとお伺いしましたが、その縁でこちらへ?」

 

 会話が途切れたところで、雅が最も気にかかっていたことを訊いてみた。すると、その女性は慌てたように、


「まあ、失礼致しました。まだ、名を申し上げておりませんでしたね。――ええ、そうです。私は、葛西湊(かさいみなと)と申しまして、円の叔母にあたります。あの()の母は私の姉でしてね。――とは言っても今日はその用件でこちらへ参ったのではありませんが」


 さすがの雅も、今は「(名前の)漢字は?」とは訊かずに話を進める。まあ、半分別のことを考えていたせいもあるが。


「別の用――とは、カサイさん。どんなご用件で?」


 すると、女性――葛西湊は笑みを浮かべながら改めて雅を見たかと思うと、姪を見るとふいにそのまま紫の方へと身体ごと向ける。――そして、言った。



「円がここで働いていることも知りませんでしたわ。縁があるのね、都築君? 円と同じ職場になるなんて。面白い偶然ね。良さそうな職場だけれど、どう? 楽しい? ああ、でも――人の命を奪う真似をしておいて”楽しい”も何もないかしら? ねえ?」



 雅が訊き返すと、葛西湊ははっきりと告げた。紫は「殺人犯」だと。

どうもどんどんと予定が遅れていく小説のようです。「葛西湊」が口を開いた所で終わってしまいました。雅さんや司の過去をこの後描く予定ですが、次回書けるのかでさえ不透明です。円にも少し触れたいのですが、こちらは全く書けないで終わりそうです。とにかく紫君を進めないと――。そして史音さんが出てない!全員いるんですよ?

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