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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
18/57

18.誕生会ともう一つ

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、(ともしび)の調理担当となる。

 皆川円(みながわまどか):灯の接客担当。

 荻田雅(おぎたみやび):灯の店長兼調理担当。

 荻田司(おぎたつかさ):雅の息子。



 ――あ、忘れてた。


 俺は、前を歩く雅を呼び止めて、紙を渡す。4月のカレンダーが載っているが、学生時代の三者面談の用紙みたいに○と×を書いて渡すものであった。つまり、早い話が灯の休日希望を出すものである。


 雅は、珍しく顔をしかめ、――終始笑顔の奴なので、逆に珍しい――

「何だ、紫君。また希望無しかい? 無遅刻無早退無欠勤。俺としちゃあ有り難いけど、週1じゃ疲れない? すっかり甘えてる身としては辞められたら逆に困るんだけどなあ」


 うーん、と唸りながら雅は隣の司に紙を渡し、司は別の紙を取り出し俺に渡す。見ると灯の4月のあらゆる詳細が載っている別のカレンダーだ。


「……」


「どうかした、紫君? (ほう)けた顔して」


 隣を歩く円に質問され、俺は慌てて言葉を探す。


「……ああ、いや……。んー、考えたことなかったなあ、と」

「何を?」


――何を、って……。


「着いたー。では、皆さんいらっしゃーい」


 答える前に円が先陣を切って部屋へと案内する。

 今日は、3月30日。つまり、以前言われた司の誕生日だ。閉店後、4人で円の部屋に向かっているところであった。 


 

 へー、意外とシンプルな部屋だな。


 円の部屋へ入るのは初めてなので、グルリと部屋全体を見回していた。梧桐(あおぎり)の寮は、基本ワンルーム。独り暮らしが多いのでそれで足りるのだ。梧桐の各部署で住み込みで働く人たちは別に家族で住む別棟があるが、司のようにこっち側に住む職員も当然いる。

 まあ、それはともかく。組み立てて作るベッド、小さな机とそれに対応する椅子。そして大きいテーブルが1脚。それぞれ1つずつだ。テーブルは朝のうちに大きくしておいたのだろう。今、雅と円が持ってきた料理や皿などの食器を並べているところだ。横に広げられた棚の上にはそんなに大きくはないテレビが置かれていた。その棚の中には電気製品、雑誌や本などが綺麗に収納されていた。そして、テレビから少し離れた所には――


「さあ、用意出来ました!司君も紫君も座って、座って」

 円の声で、視線をテーブルに戻し、先に座っていた雅の隣に座る。その隣に司が座った。正方形に近いテーブルで、円が向い合せになる。並べられた料理の数々を凝視していると、右側の司も同様だったようで、

「うわー、凄い料理!何か2人に働かせちまったなあ」

 と、感嘆の声を上げる。


 そのお陰で俺は、まだ見てはいなかった。頭の隅にも残らなかった。


「ふふふ。やっぱり忘れてるでしょ――。今日は紫君と司君、2人がメインなんだよー」

「だから、俺ら2人で準備させていただきました」


――へ?


 円も雅も楽しそうに話す。俺は思わず司と顔を見合わせた。司も困惑した顔だ。

 俺も、って……まさか?


「時に紫君。未だ訊いてなかったよね? …誕生日、っていつ?あ、私はー5月11日だよ。あ。もしかして過ぎたばっかし?!」

「俺は11月1日」と、雅。


 俺は杞憂だったと悟り、息をつく。

――今日、って言ったらこいつらはどういう反応を示すんだろうか…?――まあ、どっちでもいい。俺の誕生日なんか――。


「6月5日」

「ああ!」


 俺が答えたその直後、司が絶叫した。


「おい……」いくらなんでもやかましい。だが、司のテンションは変わらない。

「うわっ、忘れてた。今日って30日!? うわー。しまった。今日って誕生日じゃん、――つまり、「感謝の日」じゃん!」


 俺にとっては意味の解らない叫びだが、円も雅もしたり顔で、


「あはははは、やっと気付いた!今年は絶対隠し通せると思ったんだよねえ」

「そうそう。時期的にすぐ気付かれちゃうからね。だから紫君の方を遅らせたんだよ。そっちでばれるかとヒヤヒヤしたよ」

「うわっ、それでか!全然やらねえと思ったぜ。あー、「感謝の日」を忘れるなんて。俺とした事がー」


「おい……何の話だ?」もう訳が解らない。なのに、いつ口を挟めるのか…。


 と、やっと雅が俺に気付いた様子で、


「あ、ごめんごめん。実はな、司の誕生会と一緒に、遅くなったけど紫君(きみ)の歓迎会も兼ねてたんだよ。2人とも驚かせてやろうと思って、一緒にしてみました」


――みました、って……。ということはつまり。


「司は、俺の歓迎会だと思ってたわけ?」

「そう!何でこんなに遅いのかと思ったよ。君が来たの、8日だろう?いくら何でも遅すぎると思ったよ。そんな話出ないし。かといってやらないわけ無いし」

「そりゃあやりますよー。すぐにやるべきかな、とも思ったのだけれど。でも、こういうのもアリかな、と思って」円が口を挟むと、

「1か月に2回細々とやるよりは、大きいのをやったほうがこっちとしても楽しいしねえ。絶対両方やるって決めてたけど。まあ、紫君を後回しにしちゃったけど、3月30日(日付)だけは譲れなかったけど。そこだけはごめん」と、雅が頭を下げながら補足する。


「……」お前らは、全く。


 俺は落ち着かなくて手に持っている紙を見ようとする。――が、無い。見渡すとテレビの近くの棚の前に落ちている。先程司から受け取った4月のカレンダーだ。眺めてる時に落としたのか。


 無言のまま立ち上がり、その手のひら大の紙を拾い上げる。


――まるで、証しだな。これは。


 だが、その次の瞬間だった。 


 

8日、とありましたが紫君が働き始めたのが8日です。つまり、夏摘(かつみ)に連れられて入店したのが7日になります。第1話からもう3週間以上経っているわけですか……。まだ、か、もう、か。判断がつきませんが。飛ばしながらですが。次回はまだ30日が続きます。

日付と言えばもうお気付きになっていると思いますが途中から掲載日がゾロ目?になるように設定して書いております。次は11月ですので1日……ではなく月2なので珍しく11日になる予定です。

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