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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
15/57

15.本能に素直に。

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。

 荻田司(おぎたつかさ):灯の店長、(みやび)の息子。

 皆川円(みながわまどか):灯の接客担当。



 「……似てる……」

 「似てないか?俺が昨日話した水人(すいびと)に」


 ――で、もう1つあるわけよ。水人の「特殊」さって。


  昨日の夜遅く、司の話した内容。

  まだ完全に理解出来ていないながらも、まとめてみるとこんな感じになる。



  クラス替えが12年間、全く無い系列校。長い歴史の中で大勢の生徒を輩出すれば、それなりにパターンが決まってくる。大したこともなく普通に過ごしていくのが大多数だが、一旦仲が悪くなれば話は別だ。極端な例だと、いじめ、ということにもなるが、ならないまでも亀裂が走っていく。まあ、同じメンバーで長年過ごせば、互いの長所や短所も含めた性格などが判ってくる。そのため、1つのクラス内でも複数に分裂し、互いに嫌いあったりする。それでも、何とかやっていくことはできる。

 それだけでも、外から来た俺にとっては特殊なのだが、ここに、「身分」が入ってくる。

 「色上(しきがみ)」――つまり、この街の最高権力者達の子供、とまではいかなくても、それに準ずる身分の高い子供などもいて――余計にクラスが分裂する原因となっていく。


 ところが、だ。色上の子供3人が揃い、準ずる身分の子供も多く、更に――親譲りの天才、と名を馳せている少年少女まで揃った――となれば、普通はまあ、一般の子供もいるので、他の学年以上の関係となる――と、誰もが予想した。したなら、最初から分離させればいいものを、そのまま1クラスにまとめてしまったらしい。分けても、身分の差は変わらないのだから、結局同じことではないか――ということでまとまってしまったらしい。


 「ところが、同じじゃなかったんだよねー」

  と、司は、笑いながら言った。


  そう、「同じ」ではなかった。確かに他の学年以上の関係となった――。だが、全く逆の意味で、だ。後に「水人」と呼ばれる彼らは、分裂どころか、結束し、身分の差、などそこでは関係なく、ただの友人で落ち着いてしまったのだ。男女関係なく。

 逆に言えば、色上の子供、それには劣るが中々の権力を持つ家の子供、更には白、黒の子供までそこに在籍するクラスが一致団結すれば、怖いのは周囲の大人だ。その親たちが組めば、もう怖いものなし。一般の子供すら、そこに在籍している、というだけで脅威の存在となる。

 いくら彼らが変だろうが、常識から外れていようが、誰も馬鹿にしない。いや、出来ない。それどころか皆が皆、「水人」と呼び、敵わぬ存在として恐れるのだ。


 「つまり、味方にしちゃえば、これ以上の無い援軍という訳さ」


  ここで司の話は終わる。


  俺は唖然としていた。どいつもこいつも気楽そうな顔をして……、その実なんて奴らだ!強い権力を持ち、誰もが跪く者たち――そんな奴らが俺を雇う?文字通り身分のはっきりしないこの俺を――。

 

 ――絶対、許さないから!

  

  いや、存在すら許されない俺を――。


  頭がグラグラしてくる。――何故、なぜ。()、「この声」が、これ程強い「何か」を伴って俺を、襲ってくる――?


  何か、何か。嫌な予感がしてくる。


  今までだって、常に俺を縛り付けてきた。忘れることなど決して許されない。――例え、相手が忘れたとしても。それは絶対だ。そして、俺を責め、戒め続けてきた。

  だが今回のは、程度が違った。新たなる力を加え、更に俺を責めたてる。


  何故だ。


  分からない。――だが、何かが告げていた。俺は判っている、と。そして、ただ、ただ俺は解りたくないだけなんだと。


  だから、俺はすり替える。本能の赴くままに。別の理由へと。



 「確かに。奴らならやるな、素で。現に俺を拾い上げた。――全く、俺は狂っていきそうだよ」


  自嘲気味に、俺は笑いながら言う。司は俺の言葉を受け止めて、言った。


 「ははは。――うん、狂っていいと思うよ、俺は。なにしろ水人を相手にするんだから。常識が通用しない。それに、君には彼らを相手に出来る素質があると思う。君はそれで良いよ。思いっきり、水人を味方にしちゃいな。彼らは喜んで引き受ける」


  俺は微かに笑い、返事を心の中でした。


 ――ああ、その通りにさせてもらうよ。俺は言われなくてもそのつもりだったんだから。

 

  そして、答えは自然とやってくる。絶望を伴って。



  その時、扉が開いた。

 

 「あれ?円。どうかした?」円が入って来たのだ。

 「司君。ここにいたんだ。――んー、丁度良いや。2人共、今度の木曜日って予定ある?」

 「俺は無いよ?」

 「……お前らが用事作らなきゃな」


  ゲンナリしながら答える俺とは正反対に、司が胸の前で手をパンッと合わせながら言った。


 「用事で思い出した!紫、明日用あるか?スミさんの相手をしてほしいんだが」


  俺は司を横目に見ながら溜息をついた。――ほら、こうやって俺の用は増えていくんだよ。

ようやく書けました!水人の性格を。生まれ持ったものなのでいくらどう言われようと変わらないんですな、彼らは。その点はご容赦ください。

さて、次回からは彼らから離れまして、いよいよ、紫君たちの話――いわば「本編」に入ると思います。――いや、次回は少し逸れるかな?

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